実地試験T


「―ッッ、間に合ったッッ!!」

目覚ましが壊れてて本当に時間ギリギリまで寝てしまった。先にシャワー浴びててよかった。

「帰って早々任務なんて、頑張るわね〜、ファーストネーム」

息を整えていると、懐かしい声が後ろから聞こえてきた。

「シュウ!」
「久しぶりね、ファーストネーム!」
「わ〜〜!久しぶりッ!!」

二人で手を取ってピョンピョン跳んだ。シュウは私の1つ年上でSeeDでも先輩なんだけど趣味が一緒で気も合うから仲が良い。

「全員揃っているな?」

シュウとの再会に喜ぶのも束の間、制服教師の威圧する様な声が響いた。その声が聞こえた瞬間、各自、一斉に列に並び敬礼をする。勿論、私もシュウも同じ。

「これから車に乗り込んでバラム港へ向かう。任務説明は車内で行う」

ガーデン車両2車に別れて乗り込み、バラム港へ向かう車内で任務説明が行われた。
今回のクライアントはドール公国議会。72時間程前からガルバディア軍、通称ガ軍の攻撃を受けており、劣勢の状態にあるらしい。現在ドール軍は市街区域を放棄し周辺山間部に退避、部隊の再編を急いでいる。私達SeeDは山間部から戻るであろうガ軍を市街地周辺部にて迎撃の為待機。そして私、シュウの乗り込んだ車両のSeeDは候補生達のブリーフィングも任された。私はA班担当。

「間もなくバラム港に到着する。お前達は担当班と一緒に高速上陸艇に乗り込んでもらう。各自候補生の手本となる様に」
「「了解!」」

そう言った時、車が止まった。バラム港に到着した様だ。
降りると海から吹く潮風が髪を撫でていく。湿りっ気を帯びてる風を嫌う人も多いけど、私は結構好きだ。
ブリーフィング担当じゃないメンバーは先に船に乗り込みマリーナで待機。

「そろそろ候補生達も到着かな?」
「…何も起こらなければいいんだけどね」

そうこう言ってるうちに続々と候補生を乗せた車が到着。C班・D班は先に船に乗り込み、マリーナまで進みそこで待機。続いて私担当のA班が到着。

(お、女の子がいる!女の子が参加してると頑張れ!って応援したくなるんだよね!)

候補生達が船に乗り込んだのを見て、教師に敬礼後、私も船に足を踏み込んだ。
私達がマリーナに出た頃に最後のB班も到着したらしく、私達のを乗せた船はドール公国へ向けて海原に出た。



***




「これがA班のメンバーだ」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしま〜す!」

(さっき見た女の子が一番元気だ。なんかぽわわんとした子だな!…人の事言えないってシュウに言われそうだけど…)

「私はファーストネームです。よろしくね」

笑顔で挨拶したあと、前に備え付けられたモニタの前に立って状況、任務の説明を始めた。皆初めての任務の子が多いのだろう、顔に緊張感が見える。私も実地試験の時はそうだったな〜なんて考えてた。

「以上で大体の説明は終わりだけど、何か質問はある?」
「はい!私たちは何をしたらいいんですか〜?」
「君達には上陸するルプタンビーチの確保、各班への伝令をしてもらいます。他に質問は?」

何もないのか、皆私の顔をじっとみている。

「あ、最後に…撤退命令は絶対です。これは忘れないように。あと、下船直後から戦闘が予想されるから、準備は怠りなくね。以上!何か質問がある時は教員に聞くように」

候補生は立って敬礼をした。私は作戦会議室を出て船体上部のデッキに向かった。そこには機関砲があり、外の状況を確認できる。
顔を出せば数キロ先に火柱が何本も立ち昇った。私達の上陸するビーチも乱戦状態にある。

(まずはビーチを確保しないと…SeeDが先行して市街に入り待機…と)

手元にあった地図を見ながらシュミレーションをする。シュミレーションする、しないではかなり違ってくるから。
一通り自分の中で作戦を立て、不意に周りの戦艦に目をやった。隣を走行している船のデッキに誰かいる…。

(あれは…保健室の…スコールだっけ?あの子も試験受けてたんだな)

私の視線に気づいたのか、スコールがこっちを向いた。不意の事だったから驚いたけど、とりあえず笑ってみた。…無視されたけど…。

(ちょっと笑い返すくらいしてくれてもいいだろうに…。ま、任務中だしね。緊張してるのかな?…そういう事にしておこう!さ、私も任務遂行の為、頑張らないとね!)

さっきまで見えてた景色が眼前に迫ってきた。下船準備の為、私はその場を後にした。
降りると同時に船の速度が速まる。突入準備に入った合図だ。候補生達も先生に促され、武器の確認をしている。
私も腰にある細剣(レイピア)と左腕にあるソードストッパーをしっかり装着させた。
確認を済ませた候補生が、私のいる船首部に集まって来た。この船は船首が開いてそのまま外に出れるようになっているからだ。
揺れが大きくなると共に、微かに聞こえる爆発音も近くに感じてくる。

「海岸は乱戦状態!敵を退けつつ怪我人の治療を最優先に行うこと!」
「「はい!」」

候補生達の声ははっきりとしている。でもすぐ側に戦場が迫っているせいか手が震えてる生徒もいる。

「大丈夫。今まで習ってきた事をそのまま出せば何の心配もないよ」
「…はいっ!」

少し緊張が和らいだのか、候補生に笑顔が見えた。大きな音と共に激しい揺れが起こり、目の前の扉が開いた。

「さぁ!行くよっ!!」

私と候補生達は一気に海岸へ駆け下りた。



***




(…静かだな〜…)

作戦は順調に進み、到着後すぐ海岸は確保でき、市街地の敵もほぼ排除されたと思われる。そしてドールに着いてそろそろ1時間。本当に戦争中か?ってくらい市街地周辺は静かだ。

「敵は山間部に集まってるのかな…」
「かもね。でも無闇に仕掛けるわけにもいかないし」
「そうだね。暫くここで様子見か。…私、ちょっと橋付近を見てくる」
「了解。気をつけて」

シュウにそう言って私は一人、山間部と市街地を結ぶ大きな橋へ向けて走った。歩いていると、中央広場の大きな鐘が鳴り響いた。

(…ホントに静かだな。人の気配も……ん?)

誰かが近づいてくる気配がして素早く近くの物陰に隠れた。ゆっくりと周りを覗くと、きょろきょろと辺りを確認しながら橋を渡っていくガ軍兵士が見えた。

(…まだ市街に残ってたのね…山間部に向かってる様だけど…一体何をしに?)

そう思っている矢先だった。ガーデンの生徒であろう3人がガ軍の後を追って橋を渡っていく姿が見えた。その中に私服の生徒がいる。

(あれは…サイファー?って事は…B班?B班は中央広場の確保だったはず…なんでこっちに…またサイファーの悪い癖がでたか…)

考えてる内に3人は橋を渡りきってしまった。あっちにはガ軍がいる。いくら優秀って言っても3人じゃ不安だな…。

(…仕方ない)

私は急いでシュウのいる場所へと戻った。

「シュウ!」
「ファーストネーム。撤退命令がでたわよ!」
「えっ?」

戻るとメンバーが揃っていた。

(撤退命令?来てそんなに時間が経ってないのに?)
「1900時に撤収。海岸に集合せよだって」
「そう…。だったらますますマズイな〜」
「なにが?」

不思議そうにするシュウ達。

「さっき市街地から山間部に向かうガ軍を見たんだけど、B班の候補生3人がガ軍の後を追って山間部へ向かったの」
「「え?!」」
「B班の受け持ちは中央広場だろ?」
「B班ってサイファーが班長だろ?やっぱりやらかしやがったな…」

皆ため息を吐いた。何か問題を起こすだろうと皆思っていたけど、よりにもよって敵のいる只中に候補生三人だけで向かうなんて。しかもあの様子だと撤退命令が出た事も知らないだろう。

「…ったく、何してるのかしら」

少し苛立ちを見せるシュウ。他のメンバーもそうだ。

「とにかく3人だけじゃ心配だよ。私行って様子見てくる」
「ファーストネーム一人で大丈夫なの?」
「大丈夫!山間部の地形は把握してるし、一人の方が動き易い。皆は先に戻ってて」

腰に下げてた鞘から細剣を抜き、右手に構えて候補生達の後を追った。

「ファーストネーム。大丈夫か?」
「大丈夫だろ。なんつってもAクラスSeeD候補の一人なんだし」
「…さ、撤退よ。行きましょう」

シュウの掛け声と共に、皆、ファーストネームと逆方向の海岸目指して走り出した。

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