ガーデン起


行けど行けど梯子、梯子。梯子をひたすら降りる。先頭に私、次にリノア、ゼル、スコールと続く。
何本目かの長い梯子を降りきって先へ進むと、行き止まりになっていた。円形の空間。中央に太い柱。それに沿う様に設置された上る梯子が1本。

「またハシゴかよ…」
「これってどこに繋がってるの?」

梯子を辿って視線をやると、ある部屋に続いてるみたい。

「あそこか…」
「スコールどうする?」
「…みんな行くしかないだろ。他にどうしろって言うんだ?」
「そうだね。―ッ」

上ろうと梯子に手をかけると、ギギっと嫌な音がした。

「この梯子…ちょっとやばそうだね。私が行って様子見てくるよ。皆はここで待機してて」
「…分かった。気をつけろよ」
「うん!」

一段上るたびに嫌な音がする梯子を軽快に上っていく。だけど、その音が次第に大きさを増してく。そして遂に、柱に繋がれていた梯子が音を立てて外れた。

「やばっ!」

嫌な音を立てて倒れていく梯子、その先には梯子の先にある部屋の窓。

(一か八かッ!)

私は梯子を蹴り、部屋の窓に飛び掛った。

「ハァッ!」

窓を蹴破って中にダイブした。梯子が窓にガシャンと音を立てて倒れ柵に引っかかり、部屋の中には割れたガラスが散らばっている。

「ふぅ〜。危なかった…。…さて、と」

部屋を見ると、操作盤らしきものがある。その先にはこちらに視線を向ける三人の姿が小さく見え、手を振ればリノアがそれに応えてくれた。
操作盤のスイッチを入れると、モニターが点いた。どうやらスコール達の居る場所から地下に続く道があるみたいだ。ボタンを操作するとゴゴゴと音を立ててシェルターが開いた。これで先へ進める。

(…どうやって戻ろうか…って一択しかないんだけどね)

さっき梯子が落ちた衝撃で戻る通路は崩れてしまった。となれば、その梯子で下りるしかない。足を踏み外せば遥か下まで真っ逆さま。

(踏み外すより、梯子が折れない事を願おう)

私は足をかけ、梯子を下りて行った。ギシギシ鳴る梯子を渡る。向こう側でリノアの心配そうな顔が見える。私以上にオロオロしてる姿に笑ってしまった。
長い梯子をようやっと降りると、リノアがよかったー!と駆け寄って来てくれた。

「大丈夫か」
「平気!これくらいなんて事ないよッ!さ、行こう!」

また梯子を降りて下まで降りた。降りた先には大きなレバーはあり、それを引くと先に見えた大きな鉄戸が音を立てて上がった。その鉄戸の奥へ進もうと向かって行くと、通路の横に溜められた重油の中から何かが飛び出してきた。

「ッ!!」

後ろに飛んでそいつの姿を見た。重油を体に纏った白っぽい胴体をしたのが二体。ぬるぬるの触手っぽいのがうねうね動いてる。口であろう突起をこちらに向けて、いつ襲い掛かろうかと機会を窺っているみたいだ。

「うわ〜〜…私、こういうぬめぬめって苦手…」
「そんな事言っている場合じゃない」
「分かってるって!さっさとやっちゃうよ!!」

武器を構えた瞬間、敵が体を滑らせこちらに向かってきた。図体に似合わず素早い動きをする相手をジャンプでかわし、うねる触覚を一本落とした。ビクンと動きが一瞬激しくなったが、何事もなかったみたいに襲い掛かる。

「こいつ、物理攻撃効かねえぞ!!」

ゼルの拳がボヨンという音と共に跳ね返されてる。

「地を流れる灼熱の炎よ、我が剣に宿り力を示せ!」

スコールが武器に炎を宿し斬りかかる。

「グギャァアアッ!!」

奇声を上げ倒れたが、またゆっくり体をうねらせ動き出した。

「これでも駄目か。一気に畳み込むしかないが…」

炎属性が効くだろう事は分かるけど、万が一周りにある重油に引火したら辺りは火の海と化してしまう。でも…力を使ったら通路まで飲み込まれてオイルがここまで流れ込んでくる。

「喚ぶしかないか…。みんな、少しの間コイツらをお願い!」

声をかけると私は剣を鞘に納め、体の力を抜いた。

「G.F.を喚ぶのか…」
「っしゃ!足止めは任せとけ!」

スコール、ゼル、リノアが敵をかく乱させている。私は心の中で唱えた。

(我が体に宿りしガーディアンよ。呼びかけに応え、その力で敵を打ち払い給え)

意識を集中させ、何度も言葉を繰り返す。

「おい!まだ掛かるのか?!」
「…強力なG.F.程詠唱時間が長い。一体、何を喚ぶ気だ…」

魔力が満ちる。その重圧を感じたのか敵が少し後ずさった。

「(汝の力を―今!!)召喚!!ディアボロス!!」

私の喚びかけと共に、辺りが暗くなった。闇から生まれたコウモリが天空に集まりそれが凝縮される。闇の中から静かに舞い降りて来たのは、赤黒い羽と体に鋭く尖った尾。洗礼された体からは、覇気が満ちている。

「みんな!避けて!!」

私の合図に 敵から遠ざかる。そして敵に向かってディアボロスが凝縮された闇の球を投げつけた。敵と地面に叩きつけられた闇がグオンと音を立てて歪み、その風圧が辺りに走る。

「ァ、ギ、アァア゛アァアア゛ア゛ッ!!」
「ウ゛ガァ、アァア゛ア゛アアアーッ!!」

敵が声を上げる。闇の力に体が侵食され細胞が壊れてゆく。力が消えた瞬間、ディアボロスもシュッと消え、小さなコウモリ達が空間に解けてゆく。
敵はその場にゆっくり溶けて動かなくなった。

「今のがG.F.?」
「そ。闇の使者、ディアボロス」
「俺、初めてみたぜ…どこで手に入れたんだよ」
「ゼル、話は後だ」
「そそっ!今は先に進まなきゃ!」

モンスターの亡骸を後に私達は先に進んだ。また短い梯子があってそれを降りると周りに大きな機械が犇いている。中央に見えるのは、多分この機械の制御装置なのだろう。下を覗くと目の前に見えてる機械がまだ下にも続いているのが分かる。こんな大掛かりな装置、今まで見た事がない。

「MD層最深部…」

スコールの言葉がこだまする。静かなこの空間で私達は立ち尽くしていた。制御盤にはいくつかのメーターと、何だか良く分からない小さなレバーといくつかのボタン。静寂を保ったままの機械を…どうすればいいんだろう?

「どどどど、どうする!?わけわかんねえぜ」
「見ててもしょうがないね」
「そうね…ミサイルもいつ飛んでくるか分からないし…兎に角調べてみましょ」

並んで辺りを見渡してた私達から1歩スコールが前に出た。台のボタンを1つ2つ押してみるが何の反応もなく、彼は小さく頭を掻いた。

「どう?」
「……」

掌を上にあげ首を振った。

「何かの制御装置…何を制御する為のものなのか…」

顔を上げ、目の前の斜めに倒れた鉄柱に視線をやった。赤く錆び見える鉄柱には数箇所ローターの様なものがジョイントされている。それは鉄柱の奥に見える丸い鉄球や天井まで伸びる柱にも見られた。

「……」
「どうした、ファーストネーム」
「……この形…どこかで見た事ある気がする…」
「マジでか!どこで見たんだよ?!」

う〜ん、と記憶を辿ろうとした時、ガタンッと大きな音を立てて周りが揺れた。

「?!」
「な、何?!」
(まさか、ミサイルが?!)

そう思ったが、それは次の瞬間に否定された。目の前にある鉄柱にジョイントされたローターが火花を散らせ動き出したのだ。周りの機械からも電気が根の様に機械を這い巡る。大きな音を立て作動した機械。そしてそれはどんどん活発になってゆき青い火花を散らしていく。

「っ、どうなってんだ?!」
「…床が、上昇してる!」

目の前にあった大きな鉄柱が下へ消え、あんなに高かった天井がみるみる近づいてくる。

「まさか、このまま衝突しちゃうの?!」
「操作盤がここにあるから大丈夫…なはず」
「なはず、ってオイ!」

リノアとゼルがオロオロしてるのに対して、スコールはじっと近づく天井を見上げている。すると、天井の中央から外に向けて光が広がっていった。目の前が光で溢れ、天井に衝突すると思った瞬間、ガチャンと音がし、光が幾分か治まった。閉じてた瞳を開けば、目の前に綺麗な青。空だ。そして横には、尻餅を付いてる学園長の姿があった。どうやら制御室全体がせり上がった先が学園長室になっていたみたい。

「な、なにがおこるの?!」

大きな音が辺りに響く。これで機械の活動が終わったわけではない。ガーデンの頂上にあったモニュメントが光を帯びて学園を包むように下がってくる。それが地面まで到達するとゴゴゴッと音が飛び、砂埃が一気に舞い上がった。視界が霞むその先に見えてきたのは、こちらに向かってくる数本の雲の糸。

「あれは!!」
「くっ、ミサイルか!」

その姿はみるみる近づいてくる。一度天高くまで上昇し、一気にミサイルの雨が降り注ぐ。だけどそれは、私達のいる場所のすぐ横を通り過ぎ、後方に着弾。眩い光と爆音が響き渡った。一瞬の出来事に反射的に手を翳して目を瞑った。数秒の光の後、目を開ければ驚きの光景が飛び込んできた。

「…動いてる」

そう、ガーデンが動いている。着弾したのがガーデンの後方なのかと思ったけど、それは違っていた。ガーデン自体が動いて爆撃を回避したんだ。

「そうですか…そういうことですか…」

つまり、学園の地下に眠っていたシェルターとは、学園その物を動かす事の出来るものだったんだ。

(もしかして…あの本で見たのは―)
「スゲ〜!!」
「ウソみたい。あははっ!」

ゼルもリノアもガーデンが飛んでいる事に驚きを隠せないでいる。

「外が気になりますね。他の生徒達も心配です…。見てきてもらえませんか?」

学園長の言葉に私達は制御室からリフトで下に降りた。そこは見慣れた学園長室。私とスコールで2Fをゼルとリノアで1Fの様子を見て周ることにした。ガーデンに残っていた生徒達は動揺を隠せず、どうなったんだ?!と声を上げている。でも、怪我している生徒も少なく、ミサイルが着弾した形跡もない。

「よし、報告に戻るか」
「待って!ちょっと寄りたい所があるんだけど、いい?」
「?」

そう言って、私は教室フロアの奥にある非常口へ向かった。そこは外へ出るための空間になっている。柵に手をかけると、風が横に抜け、真横に白い鳥達が舞い、大きなバラム平原を横断しているのがリアルに感じれた。

「うわぁ〜!気持ちいいね〜」

風に煽られる髪を抑え、空を見上げた。目を瞑り、空気を胸いっぱいに吸い込む。

「……ん?」
「…いや」

視線を感じて振り返ればスコールと目が合った。すぐ逸らされたけど。

(なんなんだよも〜…ん?)

ガーデンの進む先に視線を向ければ、街が見えてきた。

「あれって…バラム!」
「このまま行けば―ッ」

私達は言うが早いかその場を飛び出した。フロアの廊下に出た所でシュウが凄い剣幕で私達を呼びに来た。急いで制御室に戻れば、あたふたした学園長とリノア、ゼルの姿があった。

「スコール!操作がきかない、というか分からないんですよ!このままでは、バラムの街に突っ込んでしまいます!」
「何とかならないの!?」
「じょ、じょ、冗談じゃないぜ!!」

制御室は混乱状態。

「スコール!どのスイッチを押して起動したの?」
「―それだ」
「やっぱり…なんとかなるかも!」
「ほ、ほんとか!?」

前に一度図書館で読んだ気がする。本棚の奥に隠れるようにあった古い本。ボロボロで擦れて読めない部分も多かったけど、この制御装置の図は記憶に残ってる。
この装置が学園を操縦する物だとしたら――。
目の前にある装置に付いてるボタンを記憶を辿って操作すると、ガダンッと学園が揺れた。

「うわっ!!今度はなんだ?!」
「やりました!ガーデンが曲がっています」

巨大なガーデンがゆっくりと進路を変えていく。ギリギリの所で街に衝突せずに済んだ。

「かわした!」
「ゲッ!!今度は海だ!!」
「みなさん!何かに掴まって下さい!」

ガーデンはバラム港に大きな水しぶきを上げながら着水し、そのまま大海に漂流し始めた。さっきまで大きな音を立てて動いていた装置も徐々に静まっていった。
さっきまでの喧騒はどこにいったのか、皆、ホッとして息を吐いた。

「みなさん、ご苦労様でした。これで私達は助かったと解釈してもいいでしょう」
「……ガーデンはどこに向かうんだろう」
「ファーストネーム、どうですか?」

制御盤に目を落とすが、ボタンを押しても反応がなく、操作は出来ないみたい。大昔の装置がちゃんと動いただけでも運が良かったって思うべきか。どうにも出来ない事を首を振って学園長に知らせた。

「そうですか。操縦が復旧するまでは波まかせ、風まかせ…ですか。さて、なんだか時間だけはたっぷりありそうです。今後の事を、ゆっくり考えましょうか。…あははは、私の部屋、なくなっちゃいましたね」

学園長の言葉に、強張ってた力が抜け、自然に笑いがこみ上げた。リノアもゼルも笑ってる。スコールも幾分か表情が緩んだ気がした。

(よかった。私達の家…ちゃんと守れた…)

一つの達成感を感じ、目の前に広がる海原を見た。これから、ガーデンはどこに向かうのだろう。

しおり
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