ひと時の


「これで大丈夫!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」

年少クラスの子が元気よく走って保健室を出て行った。

「大分手当て終わったかな?」

学園長派、マスター派争いに加えミサイル騒動、ガーデン起動で幸い重傷者は居ないものの怪我人が多数出て保健室は人が溢れていた。保健委員もガーデンから避難して不在。って訳で私が手伝いしていました。

「ファーストネーム、もういいよ。あんたも休んできな」
「大丈夫ですよ!後少しお手伝いします」
「駄目だよ。あんた、任務続きで殆ど休んじゃいないだろ?前にも言ったけど、あんたは無理しすぎる所がある。それで次の任務に―」
「支障をきたしてはいけない…ですよね?」
「分かってるなら、ほら、これ持って部屋に戻って体を休めな!」

ハイポーションを3本程手の上に乗せられた。

(3本も飲め…と?)

少し絶句してしまった。が、カドワキ先生の言う事は聞かなきゃだめだ…って思ってしまうのはなんでだろう?先生の言う事ももっともだし、ここは黙って言うことを聞いておこう。失礼しますと声をかけて保健室を出た。
ガーデンが動き始めて何時間経ったんだろう?騒ぎも大分落ち着いて、皆の顔から少し強ばりが消えた様に思う。
行動を共にしてたスコール達も、今は自室で休養してるはず。私も体力回復させないと…。
自室に戻り、口通りの悪いハイポーションを流し込んでベッドに沈んだ。部屋の天井が、異様に近く感じる。

(…無事だよね…絶対)

瞼を閉じて浮かんでくるのは、ミサイル基地へ向かった彼女達の事。ちゃんと脱出できたかな?ガ軍に捕まったりしてないよね。キスティスもいるし、SeeDだもんね。…あ、アーヴァインはSeeDじゃないか…。
ごろんと寝返りをうって瞳を閉じるけど、全然眠れそうにない。彼女達は今どこにいるんだろう…。ガーデンが無くなってたらびっくりするよね。でも、避難した人達は多分バラムに行ってるだろうし、何があったかは知れるかな?

ごろん、ごろん。
何度目かの寝返りをして、足を上げ勢いを付けて体を起こした。

(駄目だ。寝れない…)

頭をぐしゃぐしゃとして大きく息を吐くと、コンコンっとドアがノックされた。

「ファーストネーム〜、寝てるか?」

寝てると思うなら、もう少し控えめなノックと声を心がけたらどうだろう…。何度言ったって治らないから、もう諦めてるけど。
ベッドに落としていた腰を上げ、ドア越しの訪問者の下へ向かった。シュッと音を立てて開いたドアの向かいに居たそいつは、私の姿を見てプッと笑った。

「何で笑う〜」
「お前、頭が凄い事になってるぞ?」

そう言いつつ、凄い事になってるらしい頭を更にくしゃくしゃにする。こういう行為も慣れっ子だ。

「で?なんだい、ウニ君」
「ボブっ子が、またぼーっと考え事をしてる頃だろうと思ってよ」
「…そんな事ないよ?ちょうど寝ようと思ってたとこだし」
「本当か?」
「……」

こういう時に限って真剣な目で見てくる。ほんと、ズルいよね。

「本当に寝るってんなら邪魔しねーけど、まだ寝ねぇならちょっと付き合えよ」

笑って立てた親指を後ろに指した。



***



「ここが訓練施設。通称モンスターエリアだ。ここには、モンスターが放し飼いにしてあるから、実戦と同じ訓練が出来る。一緒に訓練してくか?」
「…あのねぇ、どこの世界に女の子をモンスター退治に誘う男がいるのよ。…ここに、いるか…」

はぁ〜と溜息を吐きながら手を額に当て頭を振るリノア。
部屋で寝ていると、突然リノアがガーデンを案内してくれと言ってやってきた。やる事もないし、特に断る理由もなかったから、今こうしてガーデン内を周っている。
次行こう!次、とリノアが言った時、訓練施設奥へ続く大きな鉄扉が音を鳴らして開いた。

「あれ?スコールにリノア!二人も訓練しにきたの?」

額に汗を掻いたファーストネームとエリックが扉の奥から出てきた。

「(あの騒動があって、まだ訓練してたのか…?)いや、リノアにガーデンの案内をしていただけだ」
「案内?…スコールが?」
(俺が案内してる事が目を見開ける程意外な事か?)
「結構ちゃんと説明してくれてるよ〜!」
(結構?ちゃんと?まあ、確かに普段の俺ならやらないだろうな。こんな事、面倒でしかない。じゃあ、何で引き受けたんだろうな。命令でもないのに)
「ねぇ、食堂エリアには行った?まだなら一緒に行かない?」
「うんうん、行こう!」
「それじゃあ、レッツゴー!」

オーとファーストネームに続くリノアの姿を目で追って、俺とエリックもその後に続いた。前の二人は食堂のパンが美味しいだの、おばちゃんの息子がどうのとお喋りが尽きない。

「元気だろ?あいつ」

エリックが俺の横について話しかけてきた。こうして直接話すのは初めてだな。

「ファーストネーム、あれから少しも休んでねえんだ。気分転換に訓練施設の奥の広場に誘ったら、何でか手合わせの相手にさせられてよ。…何かしてないと色々考えちまうんだと」

確かに、色々あったからな。セルフィやキスティス、アーヴァインの事。魔女の事。サイファーの事、そしてこれからのガーデン。考える事は沢山ある。だが、どれも考えても答えのでるものじゃない。

「何もないって感じで元気に振舞ってるけど、結構溜め込む奴でさ。それを他人に気づかれない様に明るく見せて強がって…あいつ一人にしてたら、いつかぶっ倒れる」

苦笑交じりに、ファーストネームに視線を向けたままエリックは言った。

「これからはスコール、お前達と一緒に行動する機会も増えるかもしれねえ。だから、あいつの事気遣ってやってくれ」
「……」
「あ、俺がこんな事言ってたってのはファーストネームには言うなよ?余計な事するなって煩いからよ」
「…了解」

俺は、そう答えるしかできなかった。
正直に言えば、俺は自分の事で手一杯だ。俺の頭も色んな事でいっぱいなのに、今、他人を気遣う事はできない。自分の事は自分で何とかしてくれ。…そう、思うが…。

「おーい!遅いぞ〜!あと3秒で追いつかないと、ジュース奢りだからね!」

ああして笑って叫ぶファーストネームが、今、何を考えてどんな想いでいるのか。何を思っているのか。どうして、そう明るく振舞っていられるのか。
ふと、ガルバディアガーデンでの事を思い出した。一瞬だけ見た、ファーストネームが涙を流した姿を。任務中には見せることの無い一面。

「どうしたの、スコール?…考え事しながら歩いてると、壁にぶつかっちゃうよ?」
「そんなヘマはしない」
「…そうだね、しなさそう。逆にして欲しい。想像できないから」
「……」

ヘヘっと笑って、逃げる様に二人の肩を叩いて先へ進んだファーストネーム。本当に、悩みなんてあるのかと思うほど、元気な姿だ。
もし、今ファーストネームが悩んでいたとしても、それを俺が聞き出す…なんて事はできないと思う。聞いた所でファーストネームははぐらかすだろうし、そんな事、面倒だとしか思わない。
だけど…ファーストネームが心の内を打ち明けてきたら…話ぐらいは聞いてもいい…って思った。

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