SeeDの



――ごめんね

温かい雫にうたれ、頭に響くのは何度と見た夢での言葉。

―生きて…。

どうして、同じ様な夢を何度もみるんだろう。声ははっきりと聞こえるのに、映像が浮かばない。

「…過去に…関係してるの?」

自問自答してみても、そうだとも違うとも言えない。だって、本当に分からないから…。フッと記憶は戻るって思ったけど、あれから五年経った今でもその記憶は闇の中。
その中でわかった事。私の持つ不思議な力。あれは、魔女の力…らしい。はっきりとは言えない。私もサイファーにそうだと言われただけだから。だけど…その言葉を聞いたとき、あぁ…そうなんだって納得しちゃったんだよね。

「魔女…か…」

滴る雫を手に受け、それをじっと見つめる。だけど何が起こるわけでも、何か思い出すでもない。ただ、手に落ちた雫が溢れ、流れていくさまをぼーっと見ていた。自分自身が、無意識に考えないようにしているかのよう。
駄目だ。頭の中で色んな事がぐるぐる回ってる。一度すっきりさせなくちゃ…。
シャワーの蛇口をキュっとひねり、部屋へ出た。私服に着替えて、そのまま自室を出た。当てもなくガーデン内を歩く。一気に人数が減った学園は静かなものだ。立ち寄った食堂も、いつのも活気はどこへやら。改めて見てみると、何だか寂しさを感じる。
食堂のおばちゃんが避難して不在の今、料理自慢の候補生が食堂内を切り盛りしている。

(そうだ。カドワキ先生に差し入れ持っていってあげよう!そろそろ落ち着いてるだろうし)

あの内争からずっと怪我をした人達の手当てに追われていたんだ。それでなくても、日頃からお世話になってるし!
食堂の生徒に、お茶2本とサンドイッチを貰い、保健室へ足を向けた。ホールと保健室を繋ぐ廊下で立ち止まり、遠くに目をやった。いつもここから見えるのは、広いグラウンドで運動してたり、訓練をしているたくさんの生徒の姿。それも今は数人だけ。

(すぐ、元に戻るよ)

そう自分に言い聞かせた。止まっていた足を再び前に進め、保健室のドアの前までやってきた。
シュっと音を立て扉が開くと、いつも目の前にいるカドワキ先生がそこにいない。外出中の立て札もかかってないのに。

(どこ行ったのかな?)

そう思った時、奥の部屋から小さな声が聞こえた。

「本当に自分が情けない」
「あまり自分を責めるんじゃないよ」

微かに聞こえる会話。この声は…学園長とカドワキ先生?何だかいつもと様子が違う雰囲気する。
このまま去った方がいいかな。でも、学園長の様子も気になる。
そう思い立ち尽くしていると、部屋からカドワキ先生が出てきてばっちり目が合ってしまった。

「あら、ファーストネーム。どうしたんだい?体調でも悪いのかい?」
「いえ、体調は問題ないです。…あの、」

学園長の事を聞こうとした時、再び保健室の扉が開いた。そこには学園案内をしていたスコール、リノア、そしてゼルの姿が。

「どうしたの?3人揃って」
「学園長はここに?」

どうしたんだろう?何だか、3人とも顔色が優れない。体調が悪いとかそんなんじゃなくて…困惑してるっていう様な顔つきだ。

「学園長に用かい?」
「会いたい」
「う〜ん、今、学園長はねえ…」
「カドワキさん、もう大丈夫です」

奥から学園長の声が聞こえた。大丈夫と言った学園長の声は、凄く弱って聞こえた。

「…ほんとにいいのかい?」
「ええ。もうじゅうぶん泣かせてもらいました」
「…無理するんじゃないよ」

色々あるんだよ、と私たちに言ってカドワキ先生は道をあけた。スコールに続いて2人が学園長のもとへ。私も、後に続いた。
保健室のベッドに腰掛けていた学園長。とても疲れた顔をして、私たちにいつもの笑みを見せてくれた。

「君たちには、恥ずかしいところをたくさん見られてしまいますねえ。さて、どんなお話をしましょうか?」

頭を掻いた学園長が、手を後ろに回して私達の正面に向いた。
それからスコールの問いに、学園長は淡々と話し始めた。バラムガーデンのマスター・ノーグはシュミ族の者で、学園長がガーデン建造の資金作りに奔走している時に知り合い、意気投合した。

(シュミ族って確か…最北の島に隠れ住むと言われる種族。そのシュミ族の者がバラム・ガーデンのマスターだったんだ)

ガーデンの維持の為、SeeD派遣業務を始めたノーグの考が当たり、ガーデンに莫大な資金が入るようになったが、ガーデンの理想からはどんどん離れていってしまった。
ガーデンの理想−。それは強大な力を持ち、世に災いをもたらすという魔女に対抗する勢力、SeeDを育てる。SeeDが各地の任務に出かけるのは、魔女を倒す日のための訓練の様なもの。それがSeeDの本当の意味。そして、それを考案したのは…シド学園長の奥さんの…魔女、イデアなのだと…。

「………」

言葉が出ない。一度に色々な事実を語られて、頭の中で整理するのに時間がかかってしまう。ただ、頭の中で何度も何度も流れる言葉−。
SeeDは、魔女を倒す為に育てられた。収容所でサイファーが言っていたのは、こういう意味だったんだ。

魔女であり…SeeDである私は…、どうなるべきなの…?


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