む道


SeeDは魔女を倒します。SeeDが各地の任務に出かけるのは、魔女を倒す日のための訓練のようなものです。

SeeDは…魔女を倒す存在。私はSeeD。…だけど――

「…さん?−ファーストネームさん」
「…、え−」
「どうしたんですか?ぼーっとして」
「…」

声をかけられて始めて気づいた。さっきまで保健室にいたはずなのに、いつの間にか図書室の椅子に座り込んでいる。

(えっと…学園長の話が終わって、スコール達と別れて自室に戻ろうとした筈なのに…何で図書室に来てるんだろう?)

目の前の机には積み上げられた本の数々。この本も自分が持ってきたものかでさえ分からない。やっぱり無理やりにでも休憩するべきだったかな。自分がどういう行動をしたのか思い出せないのは重症。SeeDとしてあるまじきだね。

(SeeDとして…か)
「…隣、いいかな?」

聞き慣れない声に顔を上げると、私より少し髪が短く、綺麗な黄緑色のストールをかけ、青いノンスリーブ、白のロングスカート姿の女性が立っていた。制服を着ていないのを見て、学園生ではないのだろう。

「…どうぞ」
「ありがとう」

私の横の席に座った彼女。

(席は他にもいっぱい…ってか、私が座っている所以外空いてるのにわざわざ何故隣?)
「何か悩み事?」
「え?」
「凄く難しそうな顔してたから…違った?」

そんなに難しい顔してたのかな…?初対面の人にこんな風に言われるなんて。

「うーん…まぁ、ちょっと」
「会ったばかりの私には言えない事…なんだね」
「そんな事…」
「…」

真っ直ぐ私を見る瞳。ただの好奇心とか、そんなんじゃない…。

「……私は…どうすればいいのかなって…。ちょっと頭の中いっぱいになっちゃって…。ははは」
「何を悩んでいるのかは聞かないけど…自分の思った様にしたら?こうだからこうしなきゃとか考えないで」
「自分の…思うように?」
「うん。だって、自分の意思と違う事をしても、後悔が残るだけだと思うの」

後悔…。自分の信じる道なら、辛い事でも立ち向かえる…?

「あなたも、そう?どんなに辛くても自分の信じる道を選ぶ?」
「…そうだね。私の進む道が、間違っていないって思いながら…ね」
「そっか…」

自分が…信じる道…か。魔女だからとか、SeeDだからとか関係なく、自分がこうだって思う道を進めばいい…。それは簡単な事じゃないのかもしれないけど…でも、自分が納得してないのに、世間の概念とかに囚われて生きるよりは…。

「ありがとう。…ちょっと心軽くなった」

何も言わず、彼女は微笑んでくれた。私も同じように自然と笑えた。
二人して笑っていると、誰かがこちら向かって来る。…あれは−。

(スコール?)

立ち止まったスコールは、私の横にいる彼女に視線を向けていた。

「な〜に、スコール?」
(え?スコールの知り合い?)
「もしかして……エルオーネ?」

困惑したスコールに、淡々と答えるスコール。
彼女の名はエルオーネって言うらしい。二人の会話の中で『ラグナ』や『過去』という言葉が出てきた。

「過去は変えられないって人は言う。でも、それでもやっぱり、可能性があるなら試してみたいじゃない?」

エルオーネは、過去を変えたいの?そのラグナという人の過去を?
彼女の言葉に、スコールは頭を抱えた。

「本気で言ってんのか?…あんたがやっているのか!?あんたが『あっちの世界』に俺たちを連れて行くのか!?」

珍しく声を荒げるスコール。
以前森の中で皆が突然倒れた現象は、どうやら彼女が関係してるみたい。彼女がスコール達の意識を過去の人間、ラグナという人の中に送っているのだと…。
エルオーネは少しの沈黙のあと、ごめんね、と小さくそう言った。

「―どうして俺なんだ!?俺は今自分のことで精一杯なんだ!俺を、俺を巻き込むな!」

…スコールの心の声。普段あまり言葉にしないけど…――。
その後、シュウがやって来て、彼女と一緒にエルオーネはこの場所を去っていった。去る間際、彼女はスコールに何か囁いた。何を言ったのか聞こえなかったけど、スコールは表情を変えず、ただ足元に視線を落としたままだった。

(そうだよね…。ついさっき色んな事を知ったばかりで、混乱…してるよね。知りたいと思っていた事…でも、いざ知ってしまうと、どうしたらいいか分からない…私も一緒か…)

自傷的に笑った。
椅子に下ろしてた腰を上げ、机に積み上げられた本を抱えた。

「スコール」

私の呼びかけに彼は少し顔を上げた。

「ちょっと、付き合ってくれる?」

何なんだ、と言いた気な顔をするスコール。私の視線に耐えかねた彼はため息を吐いた。



***




ファーストネーム連れられて来たのは、中庭だった。

「もうすぐ夕暮れか〜」

海がオレンジに染まり、穏やかに波打つ海。

「こんな所に何の用があるんだ?」
「まあまあ、はい!こっちに来る来る!」

学園祭のステージ近くのフェンスに肘を付いて俺を呼んだ。

(本当になんなんだ?)

言われた通りにファーストネームの横についた。よっと言って彼女はフェンスに腰を下ろし、水平線に目をやった。

「…綺麗だね。こんなに海が近くにある」
「……」

潮風が俺達の間を吹き抜ける。波の音が近くに聞こえる。

「なんか久しぶりかも。こうやってゆっくり海みるなんて」
(確かに…そうかもな)
「バタバタだったもんね〜。色んな所に行ったけど、ゆっくり見る間もなかったし」
「……」
「本当、色々あって…自分の中で整理するのが大変だよ。…だからさ、今は考えるのやめる!色んな事で頭いっぱいだけど、今はそれを忘れて力いっぱい背伸びする!」

そう言ったファーストネームは発言通り、うーんと声を出して背を伸ばした。

「ほら、スコールもやってみ?気持ちいいよ〜」
「……」

ばからしいと顔を背けると、フフとファーストネームは笑った。

(ファーストネームの息抜きに、何で俺が付き合わされてるんだ…)
「スコールと私って…似た者同士かもね?」
「あんたと?」
「え、何その嫌そうな顔〜。更に眉間に皺寄せて、失礼な!」
「……」

いきなり何なんだ。俺とあんたのどこが似てるって言うんだ…。

「何でも人に頼らず自分の中で解決させようとするとこ」
「!」
「…って、これは私もエリックやイリスに言われた事なんだけどね。お前は何でも自分で何とかしようとし過ぎだ!たまには仲間を頼れ!って言われたことあるんだ」

「何もないって感じで元気に振舞ってるけど、結構溜め込む奴でさ。それを他人に気づかれない様に明るく見せて強がって…あいつ一人にしてたら、いつかぶっ倒れる」

確かに、そう言ってたな。

「でも今までそれでやってきたからさ、頼るっていうのが分からなくて。…スコールを見てたら、私って人からこう見えてたのかなって」
「あんたと一緒にするな」
「あはは。そうなるよね、そう言われると思った。…じゃあ、これだけ言わせて?」
「…?」

フェンスから降り、俺の前に立った。

「スコールは、一人じゃない。私や、みんながいる。スコールが倒れそうになったら傍に来て支えてくれる仲間がいる。…その事、忘れないで」

笑って言ったファーストネームは、再び視線を海に向けた。それからファーストネームは何も話さなかった。
彼女の背中が何か言いたそうな感じがしたが、それを聞くつもりもないし、ファーストネームも話さないだろう。確かに…そういう所は、似ているのかもしれないな。

遠くで魚の群れが海面を跳んでいるのを、俺たちは暫く眺めていた。

しおり
<<[]>>

[ main ]
ALICE+