F.H.T


「こっちだ!」

暗闇の中、彼女達が息を切らせ走ってる。

「どうしよ〜。このままじゃ」
「窮地に追い込まれたって感じだね〜」
「諦めたら終わりよ!どうにかしてここから」

はやく…お願い、逃げて!

「見つけたぞ!!」
「撃て!撃てぇ!」
「?!」

取り囲まれた彼女達に、一斉に浴びせられる銃弾。腕から、体から朱い血が飛び散る。

ぁ…ぁあ――

「…み…、な―」

瞳の光がすっと消え、もうピクリとも動かない。

――っぃやぁぁああーーー!!



「ッ!!」

嫌な夢をみた。寝ていた私の額には汗が浮かび、鼓動が乱れてるのが自分でも分かる。ゆっくり体を起こして大きく息を吸った。

(大丈夫。心配しなくても、セルフィ達は帰ってくる)

呪文の様に心の中で唱えた。それなのにこの不安はなかなか消えてくれない。

「こんな事で心乱れちゃ、SeeD失格だって言われるかな?」

呟いた言葉に自笑しちゃう。そんな想いを胸に押し込め、汗を拭い、窓に目をやった。
外は一面の海。漂流生活が始まって数日。いつまで続くか分からない状態に不安がるガーデン内の生徒は多い。食料もいずれ尽きるだろう。せめてガーデンの操作機能が修復できればいいんだけど。

(もう一度調べてみるか。修理できるとは思わないけど、やらないよりマシだよね)

重い体を起こし、部屋を出た。



***



「ファーストネーム?」

ホールの学生寮入口に差し掛かった時、後ろから声をかけられた。振り返れば、スコールとリノアがこちらに向かって歩いて来る。笑顔で手を振るリノアに私も同じ様に返した。

「なんか、会う度にセットで現れるね」

そうかなぁ〜なんてとぼけてるけど、リノアは何だか気持ち嬉しそうな顔をしている。それに対してスコールは視線を外して眉間に少しシワを寄せた。

「二人はどうしたの?また学園案内ツアー?」
「ううん、ただのお散歩だよ。ファーストネームは?」
「私は――」

答えようとした時、ピンポンパンポンと館内放送の音がホールに響いた。

『みなさん、こんにちは。学園長のシドです』

私たちは自然にホール上層に視線を向けた。あの騒動で故障してた館内放送、いつの間に直ったんだろう。

『久しぶりの館内放送復活。まことに喜ばしいことです。―、あ!?ああっ!!」

学園長の慌てた声したと思えば、微かに響く…何かにぶつかる様な音。その後、ガーデンが揺れた。体が支えられない様な揺れではなかったけど…。

「な、何が起こったの?」
「何かに衝突した?とにかく、学園長室に行ってみよう」

視線を合わせ、私たちは足早にホールを駆けた。館内放送でシド学園長が私とスコールを呼ぶ声が聞こえてくる。
学園長室に着いた私達の視界に入ってきたのは、放送で生徒に呼びかけている学園長とガーデンが町に衝突してしまった光景だ。

(あれは…F.H.?)
「ああ、スコール、ファーストネーム、来てくれましたね。二人に命令です」

姿勢を正し、学園長の言葉を待った。

「フィッシャーマンズ・ホライズンに上陸し、エライ人に会ってこの騒ぎを謝罪して、我々に敵意がないことを知らせてきなさい。同時に街の様子の観察も忘れずに」
「了解」
「…了解」

フィッシャーマンズ・ホライズン。通称F.H.。エスタの発展時期に活躍した技術職人が創った町と言われている。海を東西に横断する両距離鉄道の中継駅だった名残で、街の最高責任者は駅長と呼ばれている。

(私たちが会いにいくのはその駅長って事だね)
「どうしました、スコール。命令が気に入りませんか?」
「…べつに」

スコールの顔を見れば、相変わらず眉間に皺を寄せている。

「SeeDは単なるバトル要員ではありません。きみ達にはできるだけ外の世界を見てほしいのです。行きなさい、二人とも」

敬礼をして部屋を出ようとすると、学園長に呼び止められた。ガーデンをよろしくお願いします…と。深い意味はありません、きみ達がフィッシャーマンズ・ホライズンの人達を怒らせたら大変ですからね、と笑って言っていたけど…。
何だか心がもやっとしたまま、その場を後にした。



***



ゲートが衝突で塞がってしまい、2階のデッキから外に出た。吹き抜ける潮風に広がる海原と水平線。デッキの先にはF.H.に入れる様、橋がかけられていた。
衝突からあまり時間が経ってないのに、技術者と思われる人が何人も集まっている。修理に使われるであろう機材も揃ってる。

(F.H.には優秀な技術者が多いって話は聞いた事あったけど、本当みたいだね)

私たちに敵意がない事をデッキにおろされた橋にいた人に伝えると、心よく私たちの上陸を受け入れてくれた。町の真ん中にある駅長の家がある事を聞き、私達はF.H.におりた。
壊れた物を直すのが大好きだ、と笑顔で言った彼ら。なんでも、バラム・ガーデンの塗装を担当したのが彼らだったみたいで、懐かしそうにガーデンを見上げていた。
かけられた橋を渡り、道なりに進んでいくと、大きなリフトがあった。

「あんた達、エスタに行くのかい?」
「…エスタ?」
「線路の先にあるだろ?名だたる近代国家だが……違うのか?F.H.に来る奴はたいてい、そこと関係するから…てっきり、な」

下にあるリフトが上がってくる間にそんな話をしてきた。入国手段がほとんどなく、エスタに行くにはF.H.から歩いて行くのがベストなんだそうだ。

(へぇ〜。確か、エスタって沈黙の国って言われてて、どこにあるのか分からないって言われてるんだよね。海に掛けられたこの大きな橋を渡った先のどこかに、エスタがあるのか)

話をしながらそんな事を考えていた。
町中央にミラーパネルが敷き詰められてた空間がある。空の青を映し出したその真ん中にポツンと建った建物。あれが駅長の家なのだろう。
スコールに視線をうつせば、まだ眉間に皺を寄せている。

しおり
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