「ただいま!」

肌は煤だらけ、服も所々敗れてたりするけど変わらぬ笑顔で敬礼をするセルフィ。

(…無事でよかった。良かった……本当に)

おかえりと三人に声を掛けようとした時、俺の横を走り抜け彼女達に抱きついたのはファーストネームだった。

「……よかった。ほんと、に……よかったよ」
「あはは、痛いよ〜ファーストネーム〜」

キスティス、アーヴァインに抱きつくファーストネーム。

「そんなに僕に会いたかった〜?」
「…僕だけじゃないけどね」
「え〜、そこは素直に会いたかったって言ってほしかったな〜」

アーヴァインの胸に小さくパンチをしたファーストネームの目は少し赤くなっていて。

「お帰り。みんな」

笑う彼女の瞳には涙が浮かんでいる。

「さて〜、ガーデンはどうなったんだ?」
「(色々あったけど…)ガーデンは無事だ」

その言葉に三人は声を上げて喜び、ガッツポーズをした。

「お前たちは…どうしてこんなことに?」
「スコール、報告は後にしようぜ」
「(…それもそうだな)ゼル、リノア。セルフィたちをガーデンへ案内してくれ。俺はもう少し街の様子を見ていく」

了解!と敬礼をしてゼル達が三人を連れてガーデンへ向かった。

(…ファーストネームは…?)

見れば、物陰に隠れていた駅長に声をかけている所だった。

「立てますか?」
「命を…助けられたな」

ファーストネームに支えられて立ち上がった駅長はまっすぐ俺を見た。

「迷惑でしたか?」
「そうは言わない。しかし、礼も言わない」
「礼なんていりません。ただ…(ただ…なんだ?俺は何をいいたいんだ…)俺達の事もわかってください。ただのバトル好きの人間じゃありません」
「ほう?」
(こういう話は苦手なんだ…なんて言えばいいんだ?)

ファーストネームに視線を向ければ、彼女もまっすぐ俺を見ている。

「…上手く言えませんけど…。あなたが言うように、話し合って、お互い分かり合って……戦いの必要がなくなれば、とてもいいことだと思います。でも、自分たちのことを説明するのは、とても時間がかかります。相手に聞く気がなければなおさらです。戦いで一気に決着を付けようとする相手と理解し合う……。これはとても時間がかかるんだと思います」

駅長は考える様に視線を外した。でも俺の話はじっと聞いてくれている。

「だから駅長達がじっくり考えられるように、駅長たちに邪魔が入らないように……俺達みたいな人間が必要なんだと思います」
「……」
「…俺たちみたいなのがどこかで戦っています。ときどき、思い出してください」

俺に続いて、ファーストネームも敬礼をする。最後まで駅長は何も言わなかったが、俺もこれ以上いう言葉を持っていない。俺の言葉が駅長に届いていると信じてその場を後にした。

「きっと、届いたよ。スコールの言葉」
「…だといいな」



***



「……ふぅ」

開いた本の文字に視線を落としても何も頭に入ってこない。
F.H.での一件を学園長に報告した。イデアの命令でガ軍がエルオーネを捜しにF.H.に来たこと。いてもいなくても、街に火を放とうとしていた事。
魔女はエルオーネの居場所を無くすためにこの様な事をしている。彼女をみつけるまで魔女は行為を繰り返すだろうと…。何かを決断した学園長は館内放送を使って宣言したんだ。
このバラム・ガーデンはF.H.での復旧作業を終えれば魔女討伐の為の旅にでる。そしてその指揮を執るのはスコールだと。
でも、…イデアって学園長の奥さんだよね。その人を討伐するなんて…。

「これは君の運命です。魔女討伐の先陣に立つことは、君の定なのです。ファーストネーム、彼のサポートを頼みますよ」

スコールは戦闘能力も高いし、冷静な判断力も持ってる。だから私は納得した。でも当の本人は不満だったみたいで…。

「俺の人生が最初から決まっていたみたいに言わないでくれ!!」

無口な彼の心の声。
そりゃ、つい最近SeeDになったばかりで、いきなり魔女討伐のリーダーに指名された。魔女の強さは対峙した私たちが一番よく知っている。簡単にはいかないことだって。…それに、イデアは学園長の奥さんだ。そんな彼女を倒すって事は…。

「覚悟…してるんだよね」

つぶやいた言葉は部屋の空気にとけていった。

(私が気にしても仕方ないよね。それよりこれからー)

そう思ったとき、トントンとドアが叩かれた。

「ファーストネーム、いる?」
(この声は…セルフィ?)

腰を上げドアを開けるとシャワーを浴びたのかスッキリした面持ちのセルフィがそこにいた。

「今時間ある?ちょっと相談があるんだけど〜」
「…?」



***



「この曲どうかしら?明るいメロディーで良いと思うんだけど?」
「うんうん!楽譜も全部揃ってるし、あたしもこれに一票!」

再び戻ってきた駅長宅前。でも私がさっき来た時とは景観が変わっていて、何だか大掛かりなセットが組まれているところだった。F.H.の技術者達が手際よく作業をしている。
事の発端は、学園祭ステージがガーデン衝突で壊れてしまって、それをF.H.の人に新しく作ってもらおう。ついでにスコールの指揮官就任祝いも兼ねてバンド演奏のプレゼントをしよう!…って事になって今に至る。
手持ちの楽譜からみんなで弾きたい曲を選出中。あれはどうだ、これがいいとか大盛り上がり。
そんな中、リノアは少し離れた所に座って遠くを見てる。

「ねえ、そういえば何でリノアは演奏メンバーじゃないの?」
「あぁ、リノアはスコールの相手役だからだよ」
「…え?」

私たちが演奏している間にスコールの今の気持ちとか思ってる事とか聞いてあげる役みたい。でもそれを話すセルフィとゼルはニヤニヤしてたから、私もそれでわかっちゃった。

(リノア…スコールの事好きなんだ…)

そう言われればよく二人一緒にいる姿を見てたし、スコールといる時のリノアは楽しそうにしてたな…。色んなことをため込むスコールに、思ったことを素直に伝えるリノア。…うん、お似合いだよね。
そう思うのに…何だろう、何かがつっかえてる様な違和感。

「だから、あたし達は二人が盛り上がる様に演出してあげようね!!」
「わ、わかったよ」

目がキラキラしてる。すごく楽しそうだな、セルフィ。

(まぁ、そういう事なら協力しますか…)

私は、広げられた数枚の楽譜から一枚を手にした。ピアノの楽譜で歌詞まで載っていた。
それは、好きな人を想って作られた曲だった。

「これ…好きかも」
「ん?どれ?」

覗き込んできたセルフィが楽譜を見ながら口ずさむ。他のメンバーも楽譜に目を向けている。

「綺麗な曲。…いいね!」
「でも、この曲だったら演奏だけでもいいけど、歌が欲しいね〜」
「じゃあ…ファーストネーム歌う?」
「何でわたし?!」
「だってこの曲選んだのファーストネームでしょ?」
「う〜ん…」

私が歌って曲の雰囲気ぶち壊したくないし…。

「じゃあ、主旋律をヴァイオリンで弾けばいいんじゃない?」

キスティスの提案に、それだ!と意見が纏まる。
演奏曲は二曲。日暮れにはステージも完成するから、それまでに私たちも形にしなくちゃね!

しおり
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