文化


「スコール!ガーデンの若き指導者スコールの前途を祝してセルフィが贈ります!リノアもがんばれ〜!」

ステージの裏手からスコールとリノアの姿が確認できた。白のミニドレスを着たリノアは同性から見ても可愛い。緊張してるのか顔が堅い感じを受けるけど…やっぱり楽しいんだろうな、目が笑ってる。

「では!『セルフィバンド』の素敵な演奏で〜す!」

ライトアップされたステージにセルフィ、キスティス、アーヴァイン、ゼルの姿。セルフィの合図で演奏が始まった。どこかの民族音楽だろうか。軽快な音楽とタップ音が響く。
ステージのみんなも楽しそうに演奏している。それをステージ脇で見ている私は…緊張していた。

「緊張してるのか?」
「!、エリック」

後ろから声をかけられ、少し体がビクっとしてしまった。

「お前だけ、先にステージ立つんだな」
「声かけたのに断ったのエリックじゃん。…イリスはガーデンの修復の手伝いで抜けられないって言うし」
「冗談だって。そんなむくれんなよ」

軽く頬を膨らますと笑いながらポンポンと私の頭を叩いた。

「ま、俺たちはこの戦いが終わったらやりゃーいいじゃん。今回は、俺たちの分まで頑張ってくれよ」
「…うん!」

曲が終盤に差し掛かってくる。
ヤバイ。凄くドキドキする…。任務の緊張とはまた違ったものだ。ライトアップされたステージで、もし間違えたりしたらどうしよう。…スコールとリノアの雰囲気作りに協力しなきゃなのに…。
ドキドキと一緒に、どこからかチクチクとするものが寄せてきた。

(なんだろう、この気持ち…)

そんな事を思っていると、私がステージに上がる時間になった。

「(…集中集中!)行ってくるね」
「おぅ。こっから見ててやるよ」
「うん!」

一歩一歩、ステージの上に歩みを向けた。



***



何も聞かされず向かった先は、駅長の家前に造られた大きなステージの横だった。目印と言われた雑誌の横に俺とリノアは腰を下ろした。

(一体なんなんだ、話って…)
「スコール、ガーデンの指揮を執ることになったんだよね。きっと、とっても大変なんだよね」
(……プレッシャーをかける気か)
「辛いこととかグチ言っちゃいときとか、いろんな事が起こると思うの。でも、スコールは全部一人で抱えて、ムス〜って黙り込んじゃって悩むに違いないってキスティス達と話してたの」
(みんなで俺の事を?)
「みんなスコールのマネが上手なんだよ。私もできるんだから。眉毛の間にシワ寄せて、こうやって…」

溜息をつき、眉間に手をあてた時、真横で同じ仕草をするリノア。たぶん、彼女の表情は今の俺を表しているんだろう。
眉間に当ててた手を少し上げれば、手をあげられると思ったのかリノアが後転して…声を出して笑った。

「…俺は帰るぞ」
「ちがう!ごめん!みんなで話してたのは…ええと。スコールが考えてること、一人じゃ答えを出せそうにないこと…」

正面を向いたまま、後ろからかけられる声が近づいてくるのを感じた。次の瞬間、背中をドンと押された俺は、下方に敷き詰められたパネルの上に落とされた。着地は出来たが、いきなりの事に少し怒りがこみ上げてきた。

「なに――」
「何でもいいの!そう、なんでもいいの。なんでもいいから、もっと私たちに話してって事。私たちで役に立てることがあったら頼ってね、相談してねってこと。そうしてくれたら、私たちだって今まで以上に頑張るのにってキスティス達と話してたの」
(……)

「スコールは、一人じゃない。私や、みんながいる」

いつか、ファーストネームが言っていた言葉を思い出した。他のメンバーもファーストネームと同じ気持ちだって事か…。
そう思った時、聞こえてくる曲が変わった。ステージにいるのはキスティスと…ファーストネームだ。
伴奏を弾くキスティス。そして、ヴァイオリンを構えたファーストネームが曲を奏で始めた。さっきと曲調が変わり、流れる雰囲気も変わった。響く甘い音楽を、彼女はあの時と同じ優しい笑みを浮かべていた。

「スコールが倒れそうになったら傍に来て支えてくれる仲間がいる」

(他人に頼ると…いつかつらい思いをするんだ。いつまでも一緒にいられるわけじゃない。自分を信じてくれる仲間がいて、信頼できる大人がいて…。それはとっても居心地のいい世界だけど、それに慣れると大変なんだ。ある日、居心地のいい世界から引き離されて誰もいなくなって…。それは、とっても寂しくて…つらい。いつかそういう時がきちゃうんだ。立ち直るの、大変なんだぞ。だったら……最初から一人がいい。仲間なんて…いなくていい)

「その事、忘れないで」

(そう…思うのに…)
「…きれいだね」
「…何がだ?」
「とぼけなくていいよ。…ファーストネームのヴァイオリンの音、ずっと聴いてたでしょ?私が話してるのに」
「……」

別にそんな訳じゃなかったが、何故か否定ができなかった。

「何か…スコール、変わったよね?」
「俺が…変わった?」
「うん。…始めの頃は、人なんて関係ない、興味ないみたいな感じだったのに。私を見る時の目とか結構冷たくてさ〜」
「……」
「でも…ファーストネームを見る目は、違うよね?」
「違う?」
「うん。すごく…優しくなるの。あったかい目になる」
「……」

そんな風に映っているのか、俺は。実感していない事をリノアに指摘されてもよくわからない。

「…かなわない…のかな」
「…?」
「…こっちの話!とにかく、スコールは何でもかんでも溜め込みすぎ!自分一人だけだと思わないでねって事!覚えておいてね!」

俺に指差ししてリノアは去っていった。俺は、リノアの姿を見送ったあと、気付いたらファーストネームに目を向けていた。

「スコールは、一人じゃない。私や、みんながいる」

(同じ意味なのに…ファーストネームの言葉は何で俺の中に残るんだ…?)



***



「お疲れ」
「楽しかったー!」

ステージが終わり裏手に降りるとエリックが拍手をしてくれた。

「始まる前は緊張してドキドキしてたけど、始まったらすっごく楽しかったよ!」
「だろうな。見ててわかったよ」
「へへっ。次は一緒にやろうね」

そうだな。とエリックは笑ってくれた。整備班に呼ばれた彼はすぐここを離れてしまったけど、私は余韻に浸っていたくて少し離れた所からステージ全体を見ることにした。

(あっという間に終わっちゃったな。慌ただしかったけど、たまにはいいよね…こんな時間も)

一つ一つステージのライトが消えてゆく。一夜だけのステージ。また戦闘の続く生活に戻っていくんだ。惜しむようにその姿を見ていると、背後から足音が聞こえてくる。振り返れば、今回の主役がそこに立っていた。

「何をしている」
「…楽しい時間ってあっという間に過ぎるんだな〜って」
「そうか」
「うん。…スコールは、リノアとゆっくり話せた?」
「……」
「フフッ」

スコールはあまり語らない。でも…なんとなくだけど、どんな事を思ってるのかわかる気がする。あ、今良くないこと考えてるとか、面倒そうだなとか、今一生懸命考えてるなとか…。
そんな風に思いながら彼と並ぶ瞬間、他のみんなとは違う気持ちになる。キスティス達や、エリックとイリスといる時とまた違う感じ。それが何かはまだわからない。だけど、…なんていうのか…。

「(ホッとするんだよね)……うわぁ〜〜!」
「?」

ふと空を見上げれば沢山の星が輝いている。

「ステージ立ってた時は気づかなかったけど…星、すごく綺麗だね!」

私の言葉に、スコールも空を見上げた。少しの間、私たちは何も言わず上を向いたまま。

「ねぇ、スコール」
「ん?」
「私達が見てるこの星の中には、もう消えてしまってる星の光を見てるやつもあるんだよね」
「そうだな」
「過去の光を見てるって事でしょ?そう思うと、何か不思議だね。過去と今が共存してるんだよ?…うん、不思議」
「…そうか」

そこに見えるのに、その存在はもうない。そう思うと…

「不思議で……寂しいね」
「……」

スコールは何も言わなかった。でも、私の隣にそっと寄って夜空を見上げた。なんだかその姿が…とても安心する。そう、思ったんだ。


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