実地試験U
(…3人はどこまで行ったんだろう?)
橋を渡った先で倒れていたドール兵士に3人がガ軍を追って電波塔に向かったって聞いた。ドールには山頂に電波塔が建っている。でも電波障害の所為で、もう使われなくなっているはず。
(なんでガ軍は電波塔を?電波塔で何をする気?)
色々考えながら、私も山頂を目指して道を進んだ。途中モンスターやガ軍兵が倒れている。きっと3人だ。山頂に近づくにつれてその数も増えて行く。
「ギシャァァァアア!!」
「ッ!」
草陰からモンスターが襲いかかってきた。全長5メートル程あるヘッジヴァイパーだ。その大きな体で敵にまきつき絞め殺すのを得意とし、茂みに引き込まれたりするとひとたまりもなくあの世逝きだろう。
「シャァアッッ!」
「はぁぁッッ!!」
襲い掛かる敵をひらりとかわし、素早く頭に剣を差し込む。大きな奇声を上げてモンスターはその場にドスンと倒れた。もう死んだ事を確認して、剣を抜き、血を払う。
(コイツ、さっきも下で倒れてたな…こんな奴がうじゃうじゃいるのに、3人は大丈夫なのかな?急がないとねっ!)
微かに見える電波塔の頭。それを目指して私は足を進めた。
***
(これが電波塔か…。下から見るとでっかいなぁ〜!)
目的地の電波塔まで着いたけど、サイファー達は見当たらない。3人どころかガ軍すらいない。撤退してしまったんだろうか。
(…撤退時間まであと30分。早く見つけないとまずいよね〜…)
「グギャァアァアアァァ!!」
「?!」
頭上、電波塔上部からモンスターの奇声が聞こえ、ズドンという音と共に塔が揺れた。
(…上で戦闘してる?)
ガ軍が出てくるかもしれないと思い、物影に隠れて様子を伺う。でも辺りにはまた静けさが戻っていた。
(…中に踏み込んでみるか…)
そう思った矢先、誰かが塔から出てきた。灰がかったロングコートに金髪オールバック。サイファーだ。
(他の2人はどうしたんだろう?)
サイファーに声をかけようと蔭から出た所で、複数の足音が塔の中から聞こえて来た。私は剣を構えたが、すぐに戦闘態勢を崩した。
「あ!ファーストネーム先輩!」
「あれ?ファーストネーム先輩もこの任務参加してたんすか?」
塔から出てきたのは保健室で見たスコールに、食堂でたまにパン談議をするゼル。そして、私がブリーフィングしたA班のセルフィ。
「(何故彼女が…あ、伝令でか)あなた達、受け持ち場所を離れてこんなトコで何してたの?」
「それはサイファーがッ――」
ゼルがそう言いかけた時、頭上からガシャンと言う機械音が聞こえた。音のした方を見ると、黒い物体が動いている。それは高くジャンプし、私達のいる場所へ落ちてきた。
「皆、離れて!」
私の言葉と同時にその場から外へ跳んだ。地響きをさせ降って来たそいつは、黒のボディをした蟹の様な巨大な機械。
体勢を立て直した私達に両手の鋏を勢いよく振り下ろす。
「っぁあッッ!!」
「ゼル!」
ゼルは機械の攻撃を間一髪で避けたものの、風圧で飛ばされ近くの岩場に叩きつけられた。ゼルを庇う様に機械の前に立ち、けん制をする。その場に他の2人も集まった。
機械のセンサーが私をじっとみている。多分、私をスキャンしてるんだろう。敵か、敵じゃないか。
「機械は雷に弱い。3人ともサンダー系の魔法かケツァクウァトルは装備してる?」
「は、はいっ!」
「G.F.はあたしが装備してま〜す!」
「だが、サンダーを打ち込んでもこれだけ大きな機械だ、ダメージが分散してしまうし、G.F.は崖に囲まれたこの場所じゃこっちまで被害を被ってしまう」
「そうだね…じゃあ…」
私は剣を鞘に納め、蟹野郎に向かって一直線に走った。
「っ、オイ!」
「ファーストネーム先輩!」
鋏を振り上げ、私に向けて振り下ろされた。私は攻撃をかわし、そいつのボディの下へ滑り込み、奴の後ろの電波塔入り口に積まれてた鉄パイプを2本、手にした。
両手に鉄パイプを持ち、方向転換に戸惑っている蟹野郎の頭上へ高く飛び上がった。
「はぁぁあッッ!!」
勢いよく両手の鉄パイプを機械のド真ん中に突き刺した。
「今よ!!」
私の合図で察したのか、スコールが意識を集中させ、呪文を唱える。
「サンダー!!」
頭上から突如雷光が突き刺した鉄パイプ目掛けて落ちて来た。スコールに続いて、ゼルが、セルフィーが一気にサンダーを唱える。サンダーを打ち込まれる度に動きが止まる。攻撃が効いてる証拠だ。
私も追い討ちをかけようと呪文を唱える。
「サンダガッッ!!」
3人の放つサンダーよりも大きな光が地響きを立てて機械を飲み込み、蟹は音を立ててその場に倒れこんだ。
「やったー!」
セルフィはピョンと跳んで喜び、ゼルはガッツポーズを取った。
「喜んでる場合じゃないよ!撤退時間まであと20分。急ぎましょ!」
「了解!」
「了解」
「了解〜!」
駆け足で山道を駆けていく。モンスターの死骸がそこかしこにある。
(サイファーかな?ま、お蔭でモンスターとは戦わなくて済みそう)
そう思っていた矢先、後ろから地響きが聞こえた。
(…まさかっ!)
振り返るとそこには、さっき倒れた筈の蟹野郎の姿!
「壊れてなかったのか?!」
多分、自己修復機能がついてるんだろう。そういう奴は修復機能ごと壊さないと倒れない。でもそれには時間がかかる。
「構ってるヒマはない!行くぞ!」
(海岸まで急げば15分。こんな奴相手にしてたら余裕で船に乗り遅れちゃう!ここは…逃げるが勝ち!上手く撒ければいいけど…)
***
全力で山道を降りる私達4人。途中魔法を打ち込んで動きを鈍らせ、その間に逃げ切ろうと思ったけど、さすがガ軍の兵器と言うべきなのかな、すぐに追いついて来る。
「もぉー!アイツしつこい!」
「どうすんだよ!このまま行ったら街めちゃめちゃになっちまうぜ?!」
あと少ししたら山間部と市街地を結ぶ大きな橋に差し掛かる。だが、真後ろには蟹野郎。ゼルの言う通り、コイツを街に入れると大惨事が起こりかねない。
(でも撤退まであと10分をきった。こいつ相手にチマチマやってる暇もない。仕方ない…これは余り使いたくなかったんだけど…)
「セルフィ!」
「は、はい!」
「G.F.を召喚して!」
「え?!でも、走りながらじゃ意識を集中できなくて上手く召びだせないかも…」
「私たちでヤツをくい止めるから、その間に呪文を!」
「は、はい!!」
走ってた足を止め、踵を返した私とスコール、ゼル。
「プロテス!」
自身とスコール、ゼルに魔法をかけ左手に装備したソードストッパーで振り下ろされた鋏を受け止める。
この魔法をかければ物理攻撃が軽減できる。
もう片方の鋏を振り上げ、私に向けて振り下ろしたが、それをスコールが彼の武器、ガンブレードで受け止めた。
「はぁぁあッ!!」
そこにゼルがボディ目掛けて拳をぶちこみ、大きな巨体がグラリと揺れた。その隙を見て、私は剣を眼前に翳した。
「天空を翔る雷鳴よ。この剣に宿り、その力を示せ」
呪文を唱なえ終わると、翳していた剣が黄色に輝きだし、電気を纏った。
「はぁぁああッッ!」
それを機械の節から中央に向けて突き刺し、剣から流れる雷撃が機械の動きを抑え込んだ。
「セルフィ!」
「はいっ!!」
私の合図で兵器と対峙してた私たちはセルフィにのもとへ走った。
「召喚!ケツァクウァトル!!」
セルフィの召びかけに応えて、異空間から精霊が姿を現した。鳥の様な姿をしたそれがケツァクウァトル。雷の精霊だ。
ケツァクウァトルの頭から強力な雷撃が繰り出される。 地響きする程の落雷が兵器目掛けて一直線に落ち、その衝撃波と共にケツウァクウァトルは姿を消した。
「皆、走って!」
衝撃波により体勢を崩してたみなに声をかけ、武器を納め一気に市街地目指して走り出す。
(あれで機能停止してくれればいいんだけど…)
振り返って視線を向けてみれば、地面に倒れこんではいるが、中央のセンサーはまだ赤く光っている。自己修復中なのだろう。
(今のうちに一気に引き離して…)
私たち4人は山間部と市街地を結ぶ大きな橋を走った。私たちのいる場所とは対照的に静まり返った市街地。他のメンバーは浜辺に撤退してしまったのだろう。
「ファーストネーム先輩!どうするんすか?!あのままじゃまた襲ってきますよ!」
「大丈夫だから!このまま走って!」
振り返らず、ただまっすぐ前を向いて走った。もう少しで橋を渡りきる所までくると、背後でガシャンと音がした。
「まずいぞ」
「どうしよ〜!」
あいつが修復し終えて、再び私達を追い、動き出した。
「(これだけ距離があれば…!)―ッッ!」
「ファーストネーム先輩?!どうしたんですか!」
「ここで食い止める!皆は先に海岸へ!」
走ってた足を止め、奴と対峙する。
「無理ですって!早くしないと撤退時間に間に合わないっすよ?!」
「大丈夫!10秒で終わらすっ!!」
「なにを――」
突き進んでくる機械兵器。私は目を閉じ、全神経を集中させた。
「…私の中に眠りし力よ…今、その力で…」
空間が揺れる。海の波の様に、目に見えない力が辺りに広がって行く。
「…なんだ…これは」
髪が揺らめき、チリチリと空気が音を出しているのが微かに聞き取れる。それに動じる事なく兵器は一直線にファーストネーム目掛けて突き進む。
「ファーストネーム先輩!!」
「危ねぇ!!」
「チッ!」
舌打ちしたスコールが彼女に近づこうとした瞬間、周りの空気が変わった。
「立ちはだかる者に滅びを与えよ!!」
ファーストネームの放った言葉を受けて、周りに漂っていた力の波が一気に張り詰め、迫る兵器目掛けて鋭い針の様に突き刺さり、その瞬間黒く歪んだ異空間が発生し兵器や周りの建物諸共呑み込み、塵の様に小さく分解されてゆく。
「くそっ!」
「砂埃で、何もみえねぇ!」
「なにがおこったの?!」
激風が辺り一面に吹き荒れる。砂煙と爆音に襲われ、3人は腕を前に翳し風が止むのを待った。
数秒経って風が止み、3人は翳していた手を下げて、眼前の景色に驚いた。
「…な…」
「す…すっげぇ…」
さっきまでこちらに向かってた兵器がいたであろうその場所の直径50m程が、まるでそこに何もなかったかのように消え去っていたのだ。
自分達が走ってきた橋も、不自然にその部分だけが消えてしまっている。
「…っ、ぁ…」
「ファーストネーム先輩!」
「大丈夫っすか?!」
「っ…うん…大丈夫」
明るくVサインをして平気な風に見せた。実際、そんなに平気でもない。
(いつもなら一度くらいじゃそんなに堪えないのに…寝不足がきたのかな…)
「おいっ!撤退時間まで8分きったぜ!」
ゼルが慌てて言う。
「…さぁ、行きましょう!」
心配そうな顔をするセルフィやゼルに笑顔を向け、私は走りだした。静かな市街地には私達の駆ける足音しか聞こえない。他の班も撤退し終えたみたい…海岸まであと少し…!
***
市街地を抜け、海岸が見えてきた。
「間に合ったっ!!」
「ファーストネーム先輩、もう少しだよ!」
セルフィが後ろを走る私にそう励ましてくれた。
(やばい…走ってるのに…足が上手く動いてくれない。視界も…だんだんぼやけてきた…)
「おい、大丈夫か」
「っ…だいじょ…―っ」
「ッッ、おい!」
一気に力が抜け、倒れこんだ…のに、私は地面に倒れこまず、浮いている。
(…あれ…?)
今にも閉じそうなくらい重い瞼の奥に…スコールの顔が見える。
(…私…スコールに抱きかかえられてる…?)
「スコール急げ!」
私を抱きかかえたまま、スコールは走ってくれた。
(……無愛想な奴って聞いてたけど…優しいとこあるんだね…――)
私は目を開ける力もなくなり、スコールに抱きかかえられたまま意識を手放した。
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