ティンバー到


ガーデンを出て1時間。私とキスティスはティンバーに到着した。
ティンバーはドールやデリングシティに行くローカル線が通ってる所でいつもは結構賑わっているのに、今は不自然なくらい人がいない。街の人達がぽつぽつとしか見ない代わりに、青い鎧を着た兵士がそこかしこにいる。

(デリング大統領は、このティンバーで何をしようとしてるんだろう?)
「異様な空気ね」
「うん…何か起こりそうな胸騒ぎがする」

私達が降りたホームは少し高い場所にある為、そこから街を見渡す。市街の方に兵士の姿が多くみられる。右手に見えるのが兵士のうようよいるホテルや商店街、ローカル線が通ってるローカルエリア市街。左手には住宅地に繁華街、ティンバーマニアックスっていう新聞社に放送局。

「兎に角、サイファーを見つけ出さないとね」
「でも、ティンバーって結構広いし、2人で闇雲に探す訳にはいかないね」
「大統領がここで何をしようとしてるか…それを探らないと。サイファーが何か起す前に…」
「そうだね。急ごう!(…サイファー。何をしようとしてるの…?)」

私とキスティスは兵士達の集まっている繁華街の方へ向かって歩き出した。ローカル線の通っている駅前に差し掛かると、厳戒態勢の兵士達が右往左往している。私達は建物の陰に隠れて、兵士達の言葉に耳を傾けた。その中でデリング大統領が15分後にスタジオ入りするという言葉を聞き取った。

「スタジオ入り…」
「この辺りでスタジオって言うと…放送局?」
「何でティンバーの放送局に?デリングシティにも放送局はあるのに…」
「……電波放送」
「え?」
「ドール公国を攻めたガ軍は、電波塔を受信可能にしておくと言う条件で撤退したの」
「(そっか。電波放送出来る放送局は今はティンバーにしかない。でも…大統領は電波放送なんかして一体何を…)大統領は放送局か…。ローカル線のホームを抜ければ放送局はすぐなんだけど…」
「今はガ軍が閉鎖してて、厳しいわね…」

そう話していると、駅のホームが騒がしくなった。私達は身を隠し、騒ぎの方に目をやった。その視界に入って来たのは、ガンブレードを振り回し、兵士を薙ぎ倒している金髪の姿。

(サイファー!!)

向かい来る兵士をいとも簡単に一太刀で斬り捨て走って行く。向かう先は…多分放送局。

「まずい事になったな…」
「とにかくサイファーを止めないと。ファーストネーム、ティンバー班と合流して放送局へ!私はサイファーを追うわ」
「了解!気をつけて」

キスティスと目で合図をして、私達は別々の方向へ走った。



***



(ティンバー班は今どこにいるんだろう…)

兵士のうじゃうじゃいるローカルエリアを抜け、幸い、ガ兵に会う事もなく住宅街まで走った。

(レジスタンスの目的が大統領なら、彼等も放送局に向かうはず。でも放送局へ向かう道は集団で抜けれる程警備は薄くなかったし、サイファーが襲撃する前にティンバー班と接触していたら、もっと警戒していたはず。という事は、まだ放送局へ行けずこの辺りにいるか、抜け道を探して向かっているか…)

街を早足で見渡しながら考えていると、ドール方面行き列車のホーム入り口まで来てしまった。この先は行き止まり。ここから階段で下におりた所にアイテム屋とパブがあるくらい…。視線をパブの方へ移すと、店の前で蹲ってる兵士達がいる。

(街の人間がやった…ってのは考えにくい。だとすると…)階段を駆け降り、パブの扉を開けた。中には数人の男が立っている。

「いらっしゃい」

奥の扉の横で酔っ払いの介抱をしてる人が話かけてきた。この店のマスターなのだろう。

「ここに私と同じくらいの歳の子達来ませんでした?」
「ん?あぁ、来たよ。この裏口を通って行ったよ」

ありがとうと一言言ってドアノブに手をかけた時、急にドアが開いた。

「あ、ごめんなさい!」

駆け足で過ぎ去って行った彼女は、黒髪に綺麗な青い服をまとっていた。歳は私と同じくらいだろう。そう思った時、外から何やら聞こえてきた。

『感激です!これはオンラインではありません!電波による放送です!実に17年ぶりに再開された、電波による放送なのです!』

電波放送が始まった!音の元はこの店のTVではない。近くに街頭TVでもあるのだろうか?

(早くティンバー班と合流しないと!)

私は彼女の出てきたドアの先へと進んだ。裏路地の先に螺旋状の階段があり、その近くに大きな街頭TVがみえる。その前に、見覚えのある頭3つがTVに目を向け、佇んでるのを確認!

「スコール!ゼル!セルフィ!」

私の声に振り返った3人は、驚いた顔をしている。

「ファーストネーム!お前何でこんなトコに?」
「ファーストネームも任務?」

呑気に聞いてくる2人に対し、スコールは冷静な顔をしている。そうしている間に、デリング大統領が画面の前に現れ、この電波放送の意図を伝え始めた。内容は、今世界のあちこちで起きている紛争を終わらせる手段を我々は持っている。その為、各国の代表と話し合う大使をこの放送で紹介しようって事らしい。

「お〜い!大使を紹介するのにこの騒ぎかよ!」

ゼルの意見に私も同意する。それに、紛争を終わらせる為に派遣する大使を紹介する為に、他国に攻め入って電波塔の受信を可能にさせるって…ちょっと矛盾がうまれる。

(その大使って…一体…)
『彼女は魔女……』
「…魔女?」
(……魔女?)

その言葉にドグンと鼓動が大きくなった。次の瞬間、画面の横からガシャンと言う大きな音と共に鋭利な刃物を振り回す彼の姿が―

「あ!」
「サイファー!」

セルフィとゼルがビックリしている。それもそうだろう。ここにいる3人もサイファーが懲罰を受けている事は知っているはずだ。
ガルバディア兵をけり倒し、その兵士がカメラに接触したらしく、映像が斜めに傾いた。サイファーが大統領に迫り、首元にガンブレードの刃を沿えた。サイファーの後を追って画面に出てきたのは、キスティスだ。次々にサイファーを取り囲むガ兵。そんな様子を、私達は噛り付く様に画面に目を向けていた。

『無闇に近づかないで!彼を刺激するだけなのが分からないの?!』

ガ兵をけん制するキスティス。

「ど、どうする!?スコール!」

あたふたするゼルにセルフィ。スコールは1人落ち着いて画面を見ている。

『ティンバー班見てる?ここへ来てちょうだい!許可は得ています!手を貸して!』

そこで画面は砂嵐になってしまった。

「ファーストネーム」
「…そう言う事。行きましょっ!」

スコールを先頭に歩道橋を駆け上がっていく。長く続く橋を渡った先に大きなTV局。入り口はサイファーが騒ぎを起したお蔭で難なく突破できた。狭い通路で倒れるガ兵を頼りに先へ進んだ所に、彼らはいた。

「彼の身柄を拘束します!」

さっき観た映像と同じ、大統領の喉元に刃物を沿わせたまま壁に背を向けて立っているサイファー。それを取り囲む様に、私達は立った。キスティスのお蔭か、スタジオの中にガ兵はいなかった。

「なにしてるんだ、あんた」
「見りゃわかるだろうが!さあ、こいつをどうする計画なんだ?」
「…計画?」
(そっか…サイファーはクライアントの知り合いなんだよね。だから、こんな無茶…でも、これ以上何かあれば…素性がバレる前にサイファーを連れて撤退しないと)
「わかったぜ!おまえはリノアの――」
「チキン野郎!喋るんじゃねえ!」

リノア…クライアントの名前だ。サイファーの声でゼルの言葉は遮られた。

「彼は懲罰室を脱走したの。何人にも怪我を負わせてね」

呆れた様に溜息を吐くスコールと対して、体を震わせ怒りを露わにするゼル。…嫌な予感がする。

「この大バカ野郎!!」
(まずい…ゼルは感情的な面がある。初任務中にこんな問題起されて怒る気持ちも分かる。でも、ゼルをこのままにしておくと、どんなボロを出すか分からない!)

私の横にいたスコールも危険を察知したのか、睨む様にゼルに目を向けた。…が、ゼルはそんな視線に気づく事はなく…。

「先生、わかったぜ!このバカ野郎をガーデンに連れ戻すん――」
「だめ!!」
「やめろ!言うな!」

私とスコールはゼルの言葉をかき消す様に声を上げた。嫌な予感的中。

「なるほど…。君たちはガーデンの連中か」

大統領の言葉でゼルは自分の発言にハッとした様だ。自分の口に手を被せ、目を見開いている。サイファーも小さく舌打ちをした。

「私に何かあったらガルバディア軍は総力を挙げてガーデンを潰しにかかるぞ。さあ、離してもらおうか」

もし、大統領を離したとしてもガ軍はガーデンを敵とみなし攻撃してくるだろう。それは明白だ…。

「面倒な事になっちまったぜ。…ん?誰のせいだあ?」

ゼルへ目を向けるサイファー。ゼルは申し訳なさそうに下を向いていた。

「後始末は任せたぞ!先生と班長さんよ!」

キスティスとスコールをそう呼んだのは…名前を隠す為のサイファーの気遣いなのだろう。サイファーは大統領に剣を突きたてたまま、後ろの狭い通路を私達に背を向けない様ゆっくりと下がっていった。

(サイファー…この先、何をするっていうの?)

私の脳裏には最悪な状況が描かれていた。それが現実にならない事を願って、私達は彼らの後を追った。



***


 
「来るな!」

通路の奥から、サイファーの声が聞こえた。いつもの自信満々の声ではなく、どこか怯えた様な声だ。やっとサイファーの姿を確認すると、いきなり突風が吹き荒れ、花びらの様な物が飛び交う。視界を遮られ、風が止んだと思ったら、何故か体の自由は利かなくなっていた。

(なに…これ!金縛りにあったみたいに…動かない!)

辛うじて動かせるのは視線だけ。サイファーを見ると、彼の目の前に女の人の姿があった。黒いドレスを身に纏い、顔を仮面で隠した女性。多分…彼女が大統領の言ってた…魔女―。圧倒的な力をその身に秘めているような…その姿を見た時…私の中の血が騒ぎ出した。
サイファーの傍に行き、何か囁くその魔女は私の方へ顔を向けた。仮面で顔は見えないが…何故かニヤリと笑ってる様に見えた。

「俺は…俺を少年と言うな」
「…もう少年ではいたくない?」
「俺は少年じゃない!」

最初は勢いのあったサイファーの声が…凄く弱い者の様になってる。

(魔女はサイファーに何を囁いたの?)
「もう戻れない場所へ。さあ、少年時代に別れを」

魔女がそう言った時、懐に捕らえていた大統領を離し、私達に向かって手を振った。まるで…別れを告げる様に…。

(サイファー!行っちゃだめ!!)

そう叫びたいのに、声が出ない。ゆっくりと背を向け奥へ下がって行くサイファー。

(サイファー!!)

その瞬間、また突風が吹き込んできた。霞む視界の先で、サイファーと目が合い…優しくも…哀しく微笑んだ様に見えた…。

「……」

視界が開けた時には、体の呪縛から解放されていた。でも、サイファーも…魔女の姿もそこにはなかった。

(サイファー…)

皆が言葉に詰まっていると、奥の通路から誰かが来た。

「こっちこっち!」

さっきパブで会った彼女だ。この子が多分、リノアなんだろうな。

「ね、サイファーは?」

キスティスが彼らが向かった先を見たが、そこはすぐ行き止まりになっていた。

「あいつならきっと大丈夫だよね」

自分に言い聞かせる様に呟くリノア。

(…そうだよね。サイファーならなんとかする…)

サイファーが消えた場所に視線を移すと、さっきの光景が甦る。微笑んだサイファーと…私の方をみた魔女の姿。魔女…圧倒的な力の差を感じた…だけど―

(…同じ…なにかを感じた…)
「…ファーストネーム」
「…えっ」

スコールに呼ばれ顔を向けると、その場所には私達しかいなかった。他のメンバーはもう先に進んだんだろう。

「…ごめん。行こう」
「……」

後ろを振り返らず、私達ははその場を後にした。

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