芽生えた新しい


しかし、その力は未だ何か分からない。私達にとって、善か、悪かなのかも

頭の中に何度も言葉が繰り返される。

ロゴス同様、彼女の行動にも一層注意を払うように

考えもしなかった。この力の事が分かれば、珠紀達の力になれるって…そう信じてた。
だけど…そうじゃないかもしれない。もしかしたら、この力は珠紀達にとって…害をなすものなのかもしれない。

「………ッ…んっ…」

そう思ったら、喉の奥が熱くなって…涙が零れ落ちた。
居場所が欲しくて…皆の力になりたいって思ってたのに…。友達に…仲間になりたいって…思ってたのに…――

ロゴス同様、彼女の行動にも一層注意を払うように

仲間として…一緒にいる事はできないの…?


あの後、珠紀が体調どう?って襖越しに声をかけてくれた。私は、まだその場に座ったままだった。涙は治まった…だけど、こんな顔見せられないから、ちょっと気分悪いからとだけ言った。
美鶴ちゃんがお粥を作って持ってきてくれたけど、そこに置いといてと言って襖は開けなかった。
…あんな会話聞いて…素直に会えないよ。皆の…目を見るのが怖い。もし…私に向けられる瞳が、警戒心をもつものだったら…?
そんな事ない…珠紀達は、そんな目で見たりしない!そう、自分に言い聞かせても、彼女達が近くにくると、拒んでしまう。

居間では、晩御飯を食べる皆の声が聞こえる。特に鴉取さんの声ははっきり聞こえる。
美鶴ちゃんの作ったご馳走、美味しいもんね。
ほんの数日前の事が脳裏に浮かんだ。皆で肉取り合って、ワイワイ騒いでトランプして…。あの空間が…みんなと一緒にいる空間が…温かくて…。

「………」

でも…私は入っていけない。あの輪の中に…私は入れないんだね…。
襖にもたれ、窓の外を見れば、遠くに光る綺麗な星。

「…私は…どうすればいいの…?」

星に聞くように、小さく呟いた。

「とりあえず、飯を食え」
「え――、ぅわッ!」

襖越しに聞こえた言葉に驚いた瞬間、勢いよくその襖が開かれ、もたれかかってた私はそのまま床にゴツンと頭を打ち付けてしまった。

「…なにしてんだ、お前」

お盆を持った彼が、呆れ顔で私を見下ろしていた。

「お、にざき君」
「お前、まだ顔赤いぞ?そんな所で座ってねえでさっさと布団入れ、バカ」

私は頭を擦りながら、しぶしぶ布団の上に座った。土鍋と小さな袋が乗ったお盆を持ったまま部屋に入り、それを私の枕元に置いてくれた。

「体調はどうだ?」
「…あ、なんとか。大分マシになったよ」
「そうか」

暫しの沈黙が部屋に流れる。
どうしよう…何か…話題が…。

「何泣いてたんだ?」
「え…」
「目、赤い」
「あ…あ〜、ゴミが入ったのかな?」
「のかな?ってなんだよ」
「…入ったと思う」
「分かり易い嘘つくな」
「……」

鬼崎君は…私が話しだすのを待ってるのかな…。

「…わたし…」
「……」
「…さっきの話…聞いたの」
「…ん」

ゆっくり、言葉を探して話す。それを察してくれてるのか、彼はじっと私が言葉を続けるのを聞いてくれてる。

「私…この力が何か分かったら…皆のちからになれると思ったの」
「……」
「いつも、守ってもらってばかりだから…この力の事を知って、みんなの役に立ちたいって思ってた…」
「……」
「でも…宇賀谷さんの言葉聞いて…そうだなって思う所もあって」

段々と、喉の奥が熱くなって、視界がぼやけてくる。それを必死に止めようと、足にかけられた布団をギュっと掴んだ。

「みんなの傍が…凄く温かくて…でも、もしかしたら、私はみんなにとって…良い存在じゃないのかもしれないって…」

自分で初めて言葉にして…それが凄く辛くて…

「み、…んなと……一緒、に、…ッい、れないのか、も、って……」

一人になるのが…こわくて…。

「……バカ」

大きな溜め息と、そう呟いた鬼崎君の言葉が聞こえた瞬間、頭にまた激痛が走った。

「いッッ、たー!」

その痛みが鬼崎君によるものだと、すぐに分かった。

「な、何すんのよ!」
「お前がつまらない事でウジウジしてるからだ」
「ウジウジって…私は真剣に―!」
「俺達が、もうお前は仲間じゃないって言ったのか?」

鬼崎君が、真剣な目をして言ったから、言ってやろうとした文句の続きが出なかった。

「お前の力の事で、俺達がお前を遠ざけると思ったのか?」
「……それは」

俯く私の額に、鬼崎君はデコピンをした。

「いたッ!」
「そんな事ウジウジ考えるなら、皆に直接聞けばいいだろ」
「え…―ッちょっ!!」

有無を言わさず、鬼崎君は私の腕を取り、引っ張って歩き出した。向かったのは、皆がいる居間だ。ガラッと居間の襖を開けた鬼崎君。食事中の皆は、突然来た私と鬼崎君にびっくりしてる。

「ほらっ」

そう言って私の体を前に押した。一歩出た私を、みんな、じっと見てる。
震える。言葉が…詰まりそう。もし…って考えると、喉の奥を塞がれた様に。何も言葉が出てこない。嫌な方ばかり考えちゃって、また視界がぼやけてきた。

「…大丈夫だ」

私のすぐ後ろで、小さく囁く鬼崎君の言葉。その声は優しくて、不思議と詰まっていた言葉が小さく出てきた。

「…わ…私の中の、ちからが…」

小さく聞き取りづらい言葉だと思う。それでも、みんな何も言わずに聞いてくれる。
あの鴉取さんも、茶化したりせず、じっと私を見てくれてる。

「もしか、した、ら…みんなにと、って…いいものじゃなかったとし、ても…」

ぎゅっと浴衣を握って…私は思っていた言葉を紡いだ。

「私…は、みんなと一緒にいたい…!……だ、から…そばにいて、も……いいですか…?」

言った――。
この後、みんながどう言うのか怖くて…私は俯き、グッと瞳を閉じた。

「なーんだ。んな事かよ」

アホらしいと言いたげな言い方をしたのは、鴉取さんだった。

「んな当たり前な事聞くな!飯がまずくなるだろ!」
「…へ?」
「どんな力を持とうとも、お前はお前だ。…違うか?」
「それに、ここにいる僕達自身、普通の人でもありませんしね」
「そうですね。そんな事で名前さんを仲間はずれにはしませんよ」

笑って言う大蛇さんに、微笑む慎司君。

「…名前」
「…珠紀」

珠紀はバカっと言って私に抱きついてきた。

「名前が嫌だって言ったって、私は名前の友達なんだからね!」

ギュっと私を抱きしめる珠紀。私は嬉しさで、涙が止め処なく溢れ出した。
ありがとう…と小さく呟いた私に、珠紀は何も言わずに頷いた。



***



「…ありがとう、鬼崎君」

まだ熱の引いていない私は、また部屋に戻って来た。でも、さっきまでの暗い気持ちはどこかへ行ってしまった。それは、私に一歩踏み出させてくれた、鬼崎君のおかげ。

「鬼崎君、私があの話聞いてたの知ってたの?」
「俺だけじゃなくて、珠紀以外みんな気づいてた」
「え?!」
「お前の気配くらい、すぐ分かる」
「あ…そ…」

なんか、やられた様な気分になるのは私だけか?

「とにかく――」
「ん?、ッ」

ポンっと頭に大きな手を置かれた。

「早く風邪治して、元気になれ」
「…うん」

わしゃわしゃと私の髪を乱して、彼は部屋を出て行った。
襖を閉められた部屋は凄く静かだった。ゆっくり布団に腰を下ろし、お盆に乗った土鍋に手を伸ばした。蓋を開ければ、温かい蒸気を上げたお粥。

「……あたたかい」

美鶴ちゃんが持ってきてくれたのは随分前なのに、温かい。
もしかしたら、鬼崎君が温め直してくれたのかな…?
自然に頬が緩むのが分かった。
ありがとう、みんな。…ありがとう、鬼崎君。みんなの温かさと…芽生えた新しい感情を感じた…そんな一日だった。

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