は…何か知っている


もう考えるのはやめよう。考えたって私の頭じゃどうにもならないんだもん。悪い方向にばっかり考えがいってしまうのも分かりきってるし。
それなら、彼らを信じよう。珠紀達の為に、みんなの助けになれると信じて、自分の中にある力の事を知ろう。どんな事があっても、私を友達だと言ってくれた彼女達を信じて…――

「しかし…知るって言ってもなぁ〜」

朝。境内の掃除をしながらう〜んと唸る私。あの後、薬を飲んでぐっすり寝た私は、次の日の朝には元気になっていた。でも一気に高熱が出たせいか、体の節々が痛くてその日一日は家で安静にする様に言われた。
安静にって言われても私本人は元気な訳で、暇だな〜なんて思ってたら珠紀や守護者のみんながお見舞いに来てくれた。土曜で学校が休みって事もあって、みんなでワイワイお話しながら時を過ごした。
そんな中でも時折、守護者のみんなが外に目を向け、真剣な顔をしていた。最初は何とも思わなかったけど、何度か見るうちに、ああして宝具の封印に異常がないか、調べてるんだって分かったんだ。結界内に侵入者があれば、感知出来るって言ってたし。
私の力も、そんな風に役立てられるものであって欲しいな…。

「どう調べるべき?」

誰に問うでもなく呟いた。
あぁ〜、この力の教科書か参考書みたいなのがあったらいいんだけどな〜。そしたら、解決できちゃいそうなのに…。…そんな本、国立図書館でもないだろうな。

「う〜〜〜〜ん」
「何唸ってるの?」

立てた箒の柄で首を支えながら考えていると、玄関の方から珠紀が姿を現した。

「あ、おはよ〜!」
「おはよう!…で、何を唸ってたの?」
「うん…どうやったら、この力のことが調べられるかなって」
「あ〜」

私の言葉を聞いて、珠紀は言葉を濁した。

「珠紀はどう?玉依姫の力…?」

同じ様な境遇にある珠紀なら、何か考えがあるかもしれないし、そこからヒントが得られるかも。

「ん〜、玉依姫の力が覚醒する事に繋がるかわからないけど、毎日やってる事はあるよ」
「どんな事?」

えっとね、と言った珠紀はゆっくりと瞳を閉じた。
意識を集中してるのだろうか。風や木々の音を感じ取ってるかの様に見える。そしてゆっくり開かれた瞳は、正面にある森をじっと見つめた。

「こうやって意識を集中させると、普段見えないものが見えるようになってきたの」
「見えないものって…お、化け…とか?」
「お化け…じゃないけど…小さい神様とか?」
「あ〜、そっちか」

神様もお化けも幽霊も似たようなものなんだろうけど、私にとっては全然違う。
タタリガミとかいう化け物も嫌だけど、幽霊はまた別で嫌だ。どっちの方が嫌いって言われたら…私は幽霊、お化けって答える。
見えないものが見える訓練か…それは力を操れる様になる事に繋がるのかな?私も、やってみよう!と、真似して目を瞑り、意識を集中させてみる。
吹き抜ける風の音、木々の葉音。全てが生きている様に私の周りに舞うのが分かる。
なんだか…私も自然の一部になった感じがする。
ゆっくり、瞼を開ける…けど、そこに広がってたのはさっきとなんら変わらない景色。

「…やっぱ何もないか〜」

何か起きそうな気がしたんだけどな〜。そんな簡単にいくわけないか…。気を落とす私に、焦らないでやろう!と励ましてくれる珠紀。
そんな珠紀の言葉は、まるで自分に言い聞かせている様にも聞こえた。



***



「大丈夫なの?」
「平気平気!もうバッチリ元気だし、ずっと寝てたから体動かしたいんだ!」
「そっか…でも、気をつけてね?」
「うん!じゃっ、行ってきまーす!」

つま先でコンコンと地面を突き、私は玄関を出た。
体力つけなきゃって思った矢先に寝込んじゃったから、今日からまた再挑戦だ!
外に出て準備運動をしてから意気込んで石段を駆け下りる。
お昼食べた後だから、ちょっと胃が重いけど、ゆっくり走れば大丈夫かな?
隣に小川が流れる畦道をゆっくりペースで走る。鳥の囀りや川の水音しか聞こえてこないくらい、のどかな田舎の風景。
ここはこんなに静かなのに、一歩横にそれると、神様達の住む異界が広がってる…なんて普通想像つかないよね。

「…その異界に、ちからのヒントが隠されてるのかな…」

何度となく襲い来る胸の苦しみや頭痛。そして、声。それは必ず私をあの深い森へと誘(いざな)った。

「我を…解放せよ……か」

何度も聞こえて来た言葉。
解放しろって言うんだったら、やり方教えろっての!
心の中で悪態をついていると、何かに見られている気がして、走ってた足を止めた。

「……」

森に入った時の様な感じとは違う。沢山の何かに見られてると言うより、…ストーカーに狙われてる様な…って、そんな事された事ないからどんなのか分からないんだけど…。
じっと…影から私の行動を観察している様な、そんな気配。

「……誰かいるの…?」

視線の感じる先にじっと目を向けた。
これが、勘違いであればいいんだけど…。

「おやおや、気づかれましたか」

飄々とした声がしたと思えば、木の陰から声の主が姿を現した。

「気配を読まれてしまうとはね。封印が崩れたおかげかな?」
「ッ!あ、なたは――」

確か、ロゴスのメンバーの…。

「モナドに仕える魔術師、ドライ。キミに会うのは二度目だね」

そう、ドライだ。あの不気味な笑みを浮かべた顔は忘れない。
こんな所でロゴスのメンバーに会うなんて思わなかった。
どうしよう…守護者のみんなですら苦戦する奴らなのに。それにドライの能力は未知数。どんな奴なのか分からないけど、体から放つ嫌な空気は、アインやツヴァイを凌駕している。緊張と恐怖が徐々に迫って来て、私の心臓は口から出そうになる程高鳴り、地に足がついていない感覚に襲われる。
今までは珠紀や鬼崎君達が傍に居てくれたけど、今は違う。
私、一人とロゴスのメンバー、ドライが向かい合っている。
もし戦いになれば、私は一瞬にしてやられてしまう。

「…私に…なんの用…なの?」

震えを相手に悟られない様に、虚勢を張った。
だがドライは、そんな私の心情をあざ笑う様にニヤリとした顔で見つめてきた。

「残念だが、今のキミには興味ない」

クックッと喉を鳴らして笑うドライ。
今のキミ…には?

「…どういう事?」
「時がくればわかる。それまで、死なない様に気をつけなされ」

怪しい笑い声を上げながら、彼は森の中へと姿を消した。
気配が完全に消えて、さっきまでののどかな空間が戻ったのを確認して、私は崩れる様にその場に座り込んだ。
大きく息を吐いて、何も起こらなかった事に安堵した。

「…一体、何しに来たんだろう」

ドライの行動がよく分からなくて、彼が消えた森へ視線を向けた。
それに…気になる…あの言葉――



残念だが、今のキミには興味ない



彼は…何か知っている。
私について……もしかしたら、私の中にある…ちからについて――。

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