なんだったの?アイツ


今のキミには興味ない

意味深な言葉を残して消えたドライ。彼は何を知ってるっていうの?私の中にある力が何か…知ってるの?いずれ分かるって言ってたけど…。

「――?名前?」
「、えっ?何?」
「どうしたの?ぼぉ〜っとして」
「あ、…ちょっと考え事」
「昨日ジョギング戻ってからずっとだよ?…何かあったの?」
「…ううん!大した事じゃないんだ」

そう?と少し納得いかない様な珠紀。
昨日ドライに会った事は話さないでおこう。別に何かされた訳じゃないし、…彼の言った事は気になるけど、今の時点じゃまだ何とも言えないしな…。

「…お待たせしました」
「あ、待ってました!美鶴ちゃんのご飯!」

ウキウキ気分の私に反して、申し訳ない顔をする美鶴ちゃん。
どうしたのかな?と思ったが、その理由は直ぐ明らかになった。

「…あらま」
「申し訳ありません」

おかずの一品である煮物が見事に焦げている。
食べれない程ではないけど、美鶴ちゃんがこんな失敗をするなんて珍しい。

「美鶴ちゃん、何かあったの?」
「いえっ、別に!」
「??」

焦る美鶴ちゃんと対照的にニヤニヤして食事をしてる珠紀。お茶、入れて来ますと言ってそそくさと居間を出た美鶴ちゃん。何か知ってるのかと珠紀に尋ねると、どうやら美鶴ちゃんに好きな人が居るっぽい。それを問いつめてたら、焦げた煮物が完成した…という事らしい。

「どんな人なんだろうね?美鶴ちゃんが好きになる人って」
「大人でしっかりしてて…って感じかな?」
「あ〜そんな感じする!」

美鶴ちゃんの好きな人談議に花を咲かせてると、顔を真っ赤にして頬をプクッと膨らませた美鶴ちゃんがお茶を持って入ってきた。
その姿を見て、女の私でも可愛いなって思う。可愛いし、家事全般こなすし、性格もいいし…美鶴ちゃんに好かれた人は幸せ者だな〜…なんて一人で考えていた。



***



「さて…やってみますか!」

珠紀を見送って自室へ戻った私は、その場に座り、目を閉じて意識を集中させた。
珠紀がやっている事が、私にも出来るのか分からないけど、何もしないよりいいよね…!

我を解放せよ…

何度も聞こえたあの言葉。
あなたは、誰なの?私の中にある力と関係してあるの?解放って、何をどうやったらいいの?
自分の中で問いかける。…だけど、それに応える声は聞こえて来なかった。

「……やっぱり、あの人に聞くしかないのかな」

あの人。私の中の力について、何か知ってるかもしれない相手。
ロゴスの魔術師、ドライ。だけど、聞いた所ではぐらかされて終わりそう。それに…正直、怖い。あの得体の知れない笑みを浮かべるドライと言う人物が。
アインやツヴァイとは違った力…。何を考えてるのか知り得ない…恐怖そのものみたいな…。

「…はぁ〜…あー!ダメダメ!」

頭を両手で叩き、フルフルと左右に振った。勢いが良すぎてちょっとクラクラした。
考えても私の頭じゃ解決なんかしない!迷う暇があったら行動に移す!

「よしっ!」

私は意気込んで、部屋を後にした。



***



「前は、ここで会ったんだよね…確か…」

昨日ドライと会った場所まで一人でやってきた。また会える…とは思ってないし、会いたくないってのも正直な気持ち。でも、ここに来たら何かある気がしたから。

「この奥に消えて行ったんだよね……なに、か…あるのかな…?」

森へと続く木に手をつき、奥へ視線をやった。その先に広がるのは、日の当たるこの場所とは違って真っ暗で、色んなものを取り込んでしまうしょうな怖い空間が漂っている。
まだ足を踏み入れてないのに、背中に寒気が走る。

「…お前、そんなところで何をしている?」
「ッ!?」

いきなり背後から声をかけられ、ビックリして心臓が飛び出るかと思った。
恐る恐る振り返ると、珠紀達と同じ制服を着た男子が私の少し後ろに佇んでいた。
色素の薄い髪に、私を睨む紅い瞳。

「その森は普通の奴が入れる場所じゃねぇ。とっとと帰れ」

偉そうな奴だな…別に森に入るつもりはなかったけど…こんな言い方されると、なんかムカツク!

「…アンタこそ、学校どうしたのよ?今授業中とかじゃないの?」
「あぁ?お前には関係ねーだろ」

なんだよ、不良かよ。口悪いし、態度でかいし。

「あ〜そうですね、全く関係ないですよ!じゃっ!」

もう関わるのが面倒だと思って踵を返してその場を去ろうとした。

「おい」

少し不機嫌に私の事を呼び止めた。

「…なに?」
「お前、ここで何をしていた」
「別に、あんたに関係ないでしょ」

言われた事をそのまま返してやった。ちょっと悔しそうに顔を歪ませたのを見て、私は心の中でしてやったり!と笑った。
そしたら、その笑みを写した様に、彼がニヤリと笑った。それを見た瞬間、彼が私のすぐ傍まで来て、いきなり腕と肩を取られ、顔を私の首元に埋めた。

「ちょ、ちょっとッッ!!」

驚いて彼を放そうとするけど、全然ビクともしない。顔を上げたそいつは、面白そうな顔をしていた。

「お前、面白い匂いするな」
「はぁ!?に、おい?ってか、どけぇ!」

喉をクツクツと鳴らして、私の肩と腕をパッと放した。
3メートル程距離を取って睨むけど、彼はさっきした事は全くどうとも思ってない様だ。

「おまえ、男に免疫ないだろ。顔、赤すぎ」
「う、うるさい!!」

オモチャで遊んでいる様なそいつの姿に、私の怒りゲージはMAX突破。

「いきなり何なのよあんた!面白い匂いって、あんた変態?!」
「誰が変態だ」
「あんただよ、あんた!」

あんた以外誰がいるんだっての!次やってきたら、大声出してやるんだから。
そしたら、フッって鼻で笑われた。

「そんだけ威勢がよけりゃ、大丈夫か」
「は?」

意味がわからず聞き返したのに、彼は何も言わずにその場を去ろうとした。

「ちょ、ちょっと!…、一体なんなのよ!!」

私の叫びに見向きもせず、彼は畦道をゆっくりと歩いて行った。
…本当に、なんだったの?アイツ…。

しおり
<<[]>>

[ main ]
ALICE+