やるべき事をす為に


私達を挟んだ状態で二手に分かれて戦う彼ら。
何も考えずにここに来たわけではない。ちゃんと作戦を練ってこの戦いに臨んでいる。
直接的攻撃力を武器としたアイン、ツヴァイには拓磨と真弘さんが。フィーアは支援攻撃に強いらしく、それは攻守ともにバランスのいい大蛇さんが。直接攻撃の弱そうなドライを祐一さん、慎司君で短時間で倒し、他のグループの支援に回ってもらう。そうすれば五対三。封印を守って、敵を退かせる事ができるかもしれない。
アイン、ツヴァイ、フィーアは拓磨、真弘さん、大蛇さんと対峙し、ドライには祐一さん、慎司君が。順調に作戦通り進んでいる。でも…気なる…ドライのあの表情。
追い詰められてるなんて表情は少しも感じられず、寧ろ笑みさえ浮かべて楽しんでいる様だ。
そんな彼らを、心配するでもなく私達と対峙したままのアリアが観戦していた。ふと、こちらに目を向ける。珠紀を見て、私に視線が移ると、感情を持たぬ人形様にじっと私を見ていた。数秒、私を見た彼女はゆっくりその視線を逸らし、周囲で起きている戦いに目をやった。
皆、必死に戦っている。敵からも味方からも凄い殺気が迸ってるのを感じて、私はその勢いに押しつぶされそうになるのを堪えるのに必死だった。
何ができるだろう。何かできるのではと思ってここまで来たけど、結局戦う彼らの為に何ができるのか分からず仕舞い。ただ、封印の社を背に、彼らを近づけまいと立ちすくむだけ。…ううん、ただ、動けないだけなのかもしれない。でもそれでいい。下手に動いたら彼らの邪魔になるだけ。こうして、封印の社の盾になる事…そう…これが私の、仕事だから…!

――ドゴォォオオオン!!

そう思った時、私の隣に居た珠紀のすぐ近くで轟音と共に突風が舞った。
もうもうと立ち込める砂煙の中、人影がむくりと立ち上がる。

「…くそ、あの長髪オヤジ!」

拓磨だった。
その姿を確認した瞬間、土煙の中から人影が現れた。――アインだ。前会った時と同じ、鋼の様な威圧感。それに触れるだけで、手足が震えて動けなくなる。アインが再び拓磨の傍に立ち、その拳を振り下ろした。間一髪で攻撃を避けた拓磨。彼に向けられた拳は地に食い込み、再び轟音と突風が押し寄せる。

「珠紀ッ!」

やばい!巻き込まれる!
私は咄嗟に目の前にいた珠紀の手を引いて抱き寄せた…と思った瞬間、体がフワッと浮いた。アインの攻撃風とは違った風が私達を爆風の外へと運んでくれた。
…これは……――
地に体が付き、顔を上げると、そこには真弘さんが立っていた。

「バカやろう!ぼっとしてるんじゃねえ!」

返す言葉もなく、真弘さんは空中に飛んだ。その先には月夜に光る鎌を持つ―死神。その瞳は真っ直ぐ珠紀を捉えていた。手にある鎌を私達目掛けて振り下ろそうとする――が、

ギィィインッ!!

「あいつらに手を出す奴は俺がぶっ殺す!」

突風を巻き起こし、彼は死神を弾き飛ばした。

「吹き飛べ死神!」

静寂を突き破る叫び声と共に、突き出された両手にエネルギーが集まり、巨大な竜巻となって死神を襲う。
死神の鎌と真弘さんの風が激突し、余波が私達に襲い来る。

「くっ…ぅわッ!!」
「名前ッ!!」

風に絶えられず、私の体は宙に舞う。

「停止!」

その言葉が聞こえた瞬間、風に乗って飛ばされてた私の体がピタリと止まった。

「…え…?」
「大丈夫ですか?名前さん」

駆け寄って来てくれたのは慎司君。声のする方へ振り返れば、私の真後ろには大きな樹の幹が…。
あの勢いで当たってたら…どうなっていたか…。それを想像したら…震えが止まらない。

「ここは危険です。もっと安全な所へ…―ッ、軽化、加速!」

急に慎司君がそう言うと、彼は私の体を抱き上げ、その場から颯爽と飛んだ。その瞬間、私達がさっきまでいた場所に黒い触手の様なのもが襲い掛かる。

「言葉そのものに力を添えるか。なるほど短縮詠法より余程効率がいいかしれんな」

薄気味悪い声。闇夜へ引きずり込む様なその声の主は、楽しそうに私達へ目をやっていた。――魔術師・ドライ。
黒く禍々しい力がドライの体を覆っている。まるで生きているかのようにうねる触手の様なその力を、不気味な笑みを浮かべたまま、私達に向けて再度攻撃してきた。

「ッ硬化!」

勢いよく襲い来る無数の触手に逃げ切れないと見た慎司君は身を投げ出し、その身で力を受け止めた。その一撃を受け、彼は吹き飛んで石畳に激突し、石畳に亀裂が入る。

「慎司君ッ!!」

慌てて駆け寄ろうとした、が、その前に黒い力がそれを遮る。

「君は少しじっとしててくれるかな」

目の前に現れたドライは、私に向けて力を放とうとした。瞬間、ゴウっと言う音と共に彼の身体に纏わり付いていた触手が切り落とされ、その傷口からぷすぷすと黒煙が上がった。

「敵を、見誤るな。魔術師」

声の主は、祐一さんだった。

「ほお、幻術だけではないのか?」

面白そうに口を曲げ、そして手に持つ杖でコツンと地面を叩いた。
杖を突いたその場から、再び触手が飛び出し、祐一さんに向かい襲い掛かる。
同時に祐一さんの周りに青く光る炎が幾つも現れた。その炎は瞬時に触手とぶつかり、それを燃やし尽くす。
力と力がぶつかり合い、その衝撃が爆風となって押し寄せる。その風から私を守る様に慎司君が盾となってくれた。

「社の裏へ」

それだけ言って慎司君はドライと戦う祐一さんの下へ走った。
…慎司君の言う通りにしなきゃ…。ここにいても…私は邪魔になるだけ…。私に出来る事は…彼らの守ろうとするものを……私も守らないと!!
私は震える足に力を込め、やるべき事を成す為に走った――。

しおり
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