他ならない分なのだ


再び始まった戦い。しかし、やはり力の差は歴然だった。全くの一方的な戦況。戦いというのかも疑問にもつほど。
ドライは戦闘に参加せず、ただ傍観するのみ。珠紀や彼らの意志を打ち砕く様に一瞬にして決着はつこうとしていた。フィーアの言葉で動きを封じ、アインが追い討ちを掛け、宙に飛ぶ祐一さん。捕らえようと大蛇さんが陣をはるが、アインは慌てもせず、その陣を地面諸共拳でぶち壊し、次の瞬間、大蛇さんはアインの拳によって飛ばされ、地を剥いで倒れた。瞬く間にアインはその場から飛び、拓磨の体にその拳を勢いよくふるっていた。
ツヴァイと戦っていた真弘さんと慎司君も、彼に攻撃を食らわせた!…と思った瞬間、何故か二人がその場に倒れこんでしまった。

「…ぁ…」
「……そんな」

言葉にならない声が漏れる。珠紀も信じられないといった様だった。
瞬く間もないほど、あっけなく終わった――。私は、迫り来る死という恐怖に胸が抉られる思いだった。
すぐ傍で倒れるみんなは、意識があるものの、もう立ち上がる事もできないくらい深手を負っている。そんな彼らにゆっくりと近づくアインとツヴァイ。
ダメだ…このままじゃ、本当に…殺されてしまう…。
そう思うのに、体は震えて動かない。金縛りにあった様な、足を地に縫い付けられた…そんな感覚が私の体を支配する。

「……みんな…いなくなるなんて、…やだ…」

かすれた声が珠紀の口から漏れた。
そして、震える体で彼らを庇う様にアインとツヴァイの前に立ちはだかり、両手を広げた。

「この人たちを殺したら!私がおまえ達を殺してやる!」

衝撃的だった。叫ぶ珠紀の声が、必死さが伝わってきた。
珠紀!ダメだよ、逃げて!!
そう叫びたいのに…声がでない。声を出そうとする度に、死という恐怖がそれを押さえ込む。珠紀をみれば…手が、足が震えてる。…珠紀だって、死ぬのが恐くないはずないんだ…なのに…この違いはなんなの…?皆の役に立ちたいって願っていたあの思いは…なんだったの?
暫く珠紀を見てたアインとツヴァイ。そして、アインが拳をゆっくりと振り上げようとした。
珠紀ッッ!!!

「……やめろ」

しかし、その拳はアリアの言葉によって、珠紀に振り下ろされる事はなかった。

「…なぜ?」
「何でもだ。ひけ、アイン。他の者たちもだ」
「なぜですか、モナド・アリア」

咎め立てるように、それまで傍観しいたドライが問いた。

「もはや、ここに我々の敵はいない」
「また邪魔をするやもしれまぬよ?」
「再び我らの障害となるのであれば、その時は殺せばいい。それだけの話だ」

これ以上何も言うことはない。そう言うように口を閉じたアリア。他の者達も戦闘態勢を解く。アリアはゆっくりと歩み寄り、私の横を通って社へと向かう。アリアを拒む様に放たれた電光も、彼女には効かず、封印はいとも簡単に解かれた。
そこに納められていた鑑をアリアが手にした時、私と、そして珠紀の体に激痛が走った。

「ああああああ!!」
「っぅぁあッッ!!」

蹲り、体の痛みに耐える。しかし、それは一瞬の事だった。

「次に抗えば、この程度では済まさない」

警告だ、と言いたげなアリアの言葉。鑑を持って、しもべと一緒に去ろうとする彼女達の後ろ姿。みんな、自分の体を支えるので必死だ。珠紀も札を使い、宝具を奪われた時の衝撃で座り込んだまま…。
私は…?私は、何ができた?みんな必死に戦って、こんなに傷ついて…。私は、何もできてない。珠紀や、みんなの役に…立ちたいって思ってるのに…。
私の役目は…なんだったの?…そうだよ、私は戦う事ができないから、せめて宝具を守らなきゃって…宝具を…宝具を彼らに、――渡しちゃいけないッ!!

「ぅぁああああああ!!」

震えを恐怖を吹き飛ばす様に叫びながら彼らに向かい走った。
何も考えちゃダメ!宝具を取り戻す事だけを考えるんだ!
自分に何度も何度も言い聞かせ、無我夢中で彼らに駆け寄る。

「名前ッ!!」

アリアの持つ宝具に手を伸ばそうとした時、立ちはだかる様にアインが目の前に現れ、その拳を振り上げた。

「やめろぉおおおお!!」

拓磨の叫びが聞こえる。その瞬間、振り上げられた拳は目の前に迫っていた。
だめだ…死んじゃう…―そう思った時、

―我を解放せよ

その言葉が脳裏に過ぎると同時に糸がきれたかの様に、私の内から巨大な力があふれ出して来た。

「ぁッ、ぁァアあぁあアアアアア!!」

覆われていく… 視界が… 動きが…
神経・・・ガ――

「名前ーーッ!!」

薄れゆく自我の中で聞こえたのは…拓磨が私を呼ぶ声だった。



***



何が起こったのか分からない。珠紀も守護者の皆も目を見開いている。それはロゴスの面々にも言える事だった。
無謀にも、宝具を奪い返そうとロゴスに駆け寄った名前から巨大な力があふれ出した。それは蒼く光り、迸る様に解き放たれている。断末魔を上げた名前は、一瞬ガクッと体が崩れると、何事もなかったに体を起こした。…しかし、その瞳はいつもと違って、体から解き放たれる力同様、蒼い光を灯らせていた。
突風を巻き起こし、それに乗って迸る蒼き力は地や樹、肉を引き裂く。
それは敵味方関係なく、まるで自らを守る様に力を振りまく。

「…ハハハッ、これ程の力とは!」

声を上げ笑うドライ。その顔は愉快だと言いた気だ。



「…これがお前の力なのか…リメイン」
「アリア様、このままでは!」
「そうだな…」

アリアはフィーア達に守られる様に闇の中へと消えていく。続いてアインとツヴァイが。最後に消えたドライは、怪しげな笑みを残して、彼らの後を追っていった。
しかし、彼らが去っても名前の力は治まる気配はない。寧ろどんどん力が増し、その暴走は止まらない。
そしてその力は、周りだけでなく、彼女自身も傷つけていく。腕や頬、体の彼方此方が力によって傷つけられ、鮮血が彼女の肌を流れる。内に納まりきらない力がその殻を破るように。

「…名前!もう止めて!!」

珠紀の呼ぶ声は届かないのか、反応しない。人形の様にその場に立ち尽くし傷ついていく。

「…ッ!!」
「、拓磨ッ!」

拓磨は力を振り絞り、力の刃を受けるのも構わず、顔の前に両腕を翳し、ゆっくり名前に近づいて行く。

「だめだよ!死んじゃうよ、拓磨ッ!」

珠紀の言葉を聞かず、彼女に向かい手を取った時には、無数の切り傷が彼の体に刻まれていた。

「もう大丈夫だ!終わったんだ!」

ぎゅっと彼女を抱きしめる拓磨。

「……た…く…」

大丈夫だ…もう大丈夫だから…と言い聞かせる様に呟く拓磨の声が名前に届いたのか、力はゆっくりと治まり、蒼く光っていた瞳も元に戻り、拓磨に目を向けた。

「……お、にざ…――ッ!」

正気を取り戻した彼女は驚いた。身体中に走る痛み、そして、それ以上に、目の前の拓磨の姿に。刃物で切り刻んだ様な傷が身体中に付いている。茶色の制服も、血によって赤黒く染まっていた。

「…ぁ…っぁ…」

言葉を失う名前に、優しく微笑みかける拓磨。
直後に彼は倒れ、名前も共に拓磨を支えたままその場に崩れる。

「ぉ…ざきく…」

放心する意識で辺りを見渡すと、みんな、重症ながらも体を支え、体を起こしている。
しかし、その体には拓磨や名前と同じ切り傷が―。

「…ぁ…ゎ…たし……」

微かに息をする拓磨の体を力なく抱く主人公の手が、どんどん震えていく。

「…ぉに………たく…ま…」

名前は傷ついた拓磨の姿を見ながら、瞳に涙を浮かべた。

「ぅ…ぅぁあぁぁあぁーーーッッ!!」

何かを否定するように泣き叫ぶ名前。
受け入れなければならない事実を、拒むように。

―彼らを傷つけたのは、他ならない自分なのだという事を…。

しおり
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