が溢れて止まらない


夢をみた。靄のかかった白い空間に漂う身体。何度か見た事ある夢だ…。
ゆっくり瞼を開ければ、やはり知っている風景。雲の上にいる様な、何もない世界。
この後は…確か…。夢の記憶を辿っていると、周りの靄が静かに一つに集まってゆく。
ゆっくりそれに近づき、導かれる様に手を伸ばした。すると、私の触れた場所から波紋を描く様に、周りの靄が一気に晴れていった。

…これは…――

驚き見渡すと、真下に青く広がる草原や山々、キラキラと光る海面。正面には淡い青をした空に気持ち良さそうに漂う真っ白な雲。

ここは、一体…?

不思議に思うと、目の前の靄から一つの光が零れた。その光は細く長い剣の形を模している。それは、真っ直ぐと地に落ちて行き、広い平原に突き刺さる。
突き刺さったそれの周りに、一つ、また一つと淡い光が生まれ、光は広がる大地一面に増えていった。

綺麗な光…。

その中でも一番光を放ってるのは、地に刺さったあの剣。他の光のと比べ物にならないくらい強い光を放つ剣は、周りのものを魅了する―。
すると、周りの景色が変わっていった。淡く輝いていた光達が色を変え、他の光を飲み込もうと地を行きかう。一面に広がっていた光は、一際輝く剣の周りに群がる様に集まりだすと、今まで明るい光を放っていた剣から、黒く禍々しい風が巻き起こった。最初は小さな風だったが、段々台風の様に大きくなっていく。それは、地を飲み込み、私の居る宙まで届く勢いだった。
その時、私の目の前に残った靄が強く光り出した。

眩しい!――

手を翳し、光を遮るが、その光は大きくなり、私を包み込む。

―我を…解放せよ…―我が力で―――を…

聞き覚えのある声。何度も私に掛けられてきた言葉。

―我を受け入れよ

ねぇ、あなたは誰なの?受け入れるってどういうこと?解放ってどうするの?

―我を受け入れよ

お願い!!私はどうすればいいの?!教えて!!



***



「おしえて…!っ、……」

夢から醒めた私は、右手を天井に向けて伸ばしていた。ゆっくり息を整えて、挙げられた手をゆっくりと掛けられた布団の上に下ろした。
さっきの夢はなんだったんだろう…前に見たのよりも鮮明な夢だった…。あの夢は一体何を意味してるの?あの声も…――

―我を受け入れよ

一体何なのよ!何度も何度も同じ事ばっかり言って…。私にどうしろって言うのよ…教えてよ…どうしたらいいの…?
腕を額の上に乗せ、目を瞑った。

「……どうすればいいの…?」

擦れた声で呟いた言葉は、不安や恐怖、そしてみんなの傷ついた姿を鮮明に思い出させた。私の中の力が体が溢れようとする瞬間の事ははっきりと覚えてる。
心臓が飛び跳ねる様に高鳴って、力が暴れ出そうとしてとても苦しかった。意識がどんどん奪われ、頭がぼぉーっとして、周りが真っ白に染まって行くようだった。
タタリガミの様な嫌な感じはしない。タタリガミが黒ならば、私の中のそれは白って感じだ。でも白だろうが黒だろうが、自分の意識、感覚を奪われるものには恐怖を感じる。
自分の身体が…その白い存在によって簡単に操られる。私に抗う術はなくて、ただただ奪われていく意識の中で恐怖に震えるだけ。
そしてそこから記憶はない。次に意識が戻った時には、あの惨劇の様な情景が広がっていた。
だけど…記憶がなくてもわかった…あれは……私がやったんだって…。

「……ッ、…い…、たいよ…」

体を動かすと痛みが走る。でも、それ以上に、胸が苦しかった。痛かった。
どうすればいいの?守りたい、力になりたいと願っていたみんなを、傷つけてしまった。…どう…顔を合わせればいいの…?
自分の無力さが悔しくて、涙が溢れて止まらない。


泣くだけ泣いて落ち着いた私は、トイレに行こうと布団から体を起こした。

「イッ…たぁ…」

痛みの電流が走る。見れば腕や足、身体中のそこかしこが包帯で巻かれている。
きっと、美鶴ちゃんが手当てしてくれたんだろうな…。……あれ?そういえば、私どうやってここまで帰ってきたんだろう?あの後の事が思い出せない…。
そんな事を考えながら、重たい身体をゆっくりと起こす。立ち上がろうとしたけど、足の怪我のせいか、上手く力が入らない上に、一歩踏み出す度痛みが走る。
あぁ〜…トイレ行くだけでも一苦労だな…。
壁伝いに廊下に出ると、台所から物音が聞こえる。美鶴ちゃんが食事の用意でもしてるのかな?
そう思うと、私が廊下に出たのに気づいたのか、ひょこっと暖簾の間から美鶴ちゃんが顔を出した。

「苗字さん!よかった、お目覚めになられたのですね。丸二日眠ったままだったんですよ」

そうなんだ。だからか、起きる時に節々がポキポキと音が鳴ったのは…。

「心配かけてごめんね…。他のみんなは…?」
「…珠紀様は怪我も軽く、今は学校に行っておられます。守護者の皆様は自宅で療養されてます。特に…――」
「……特に?」
「…鬼崎さんは、傷が深く、まだ目覚められておりません…」

私は返す言葉が出ず、黙り込むだけだった。美鶴ちゃんの凄く心配そうな表情をみたら、状態が深刻なんだって分かったから。
いつもの私なら、大丈夫!鬼崎君だったら絶対元気になるって!…なんて言うんだろうけど…今はそんな言葉、言えない…言えるわけないよね…。

「…あ、お腹空いてませんか?お昼の残りしかありませんが…」
「……うん。ありがとう。…でも、今お腹空いてないから…夕食、楽しみにしてる」
「はい…分かりました」
「ごめんね…ありがとう」

いえ、と言って美鶴ちゃんは歩き辛そうな私に肩を貸してくれた。
拓磨……ごめんなさい……ごめんなさい…。みんなも…ごめんなさい…。

「頑張ろうね、名前!」
「お前は俺達が守ってやる―」


もう、私に微笑みかけては……くれないかな…。
そう思うと、出し切ったと思った涙が、また溢れ出してきた。

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