…頑張れ、私!
目覚めた日の夜、珠紀が私の様子を見に来てくれた。
「名前、体の具合どう?」
「珠紀…うん、私は大丈夫…」
2人に気まずい空気が流れる。珠紀は明るく振舞ってくれるけど、私はどうしてもいつも通りにできないでいた。
「…あ、そうだ。私、あれからどうしたのか覚えてなくて…珠紀がここまで連れて来てくれたの?」
「ううん。実はね、あの後男の人が現れてね…」
「男の人?」
「うん。紅稜学院の制服着てたから、学校の生徒だと思うんだけど…私も意識朦朧としてたから、よく覚えてなくて…その人が名前を担いでここまで連れて来てくれたの」
「そうなんだ…」
でも、普通の生徒があんな場所にいるなんて考えられないって呟いた珠紀。
…まぁ、そうだよね。不気味な空気ながれるあの森に入って行こうって思う人なんていないよね……あ、私は入って行ったか…。
「兎に角、無事でよかったよ。みんなが無事で」
「……うん……ごめんね」
俯く私に、珠紀が優しく笑って覗き込んでくれた。
「謝らないで?…私だって、玉依姫なんて言われてるけど…みんなの為に何もできなかった…」
…そんな事ない。珠紀は、みんなの支えになっていたよ…。
「この人たちを殺したら!私がおまえ達を殺してやる!」
みんなが倒れてアインが迫って来た時、珠紀が言った言葉。
私も…珠紀の様に、彼らの役に立ちたかった。みんなを…守りたかった…。
「…ロゴスは、今のところ他の封印域には来てないみたい。…ゆっくり休んで早く元気になってね」
「うん。…ありがとう、珠紀」
微笑んで部屋を出て行った珠紀。私は再び布団に寝転び、ゆっくり瞼を閉じた。瞼を閉じれば、何度でも蘇るあの風景。目覚めてから何度思い返したか分からない。
その度に、私はどうすればよかったのか。この力のせいで、彼らが…――
「…っ、…く…そぉ…ッ!」
悔しいよ…。何かしたいと望むのに、何も出来ないもどかしさ。自分の力のなさが…。
力ない所か…みんなの邪魔になってるんじゃないか…。
考える度、マイナス思考になっていく自分も嫌で…でも、どうしたらいいのか、今の私には何も思いつかなかった―。それなのに、願ってしまう。私にできる事が、何かあるんじゃないかって。みんなと一緒に心から笑い合う為にできる事があるんじゃないかって…。
「泣いてなんか…いれないよね…」
頬を流れる涙を拭い、私はどうすればいいのか、月明かりしか入らぬ真っ暗な部屋で天井を見上げながら考えていた――。
***
「……」
あれからずっと考えていた。私が今、どうするべきか。前落ち込んだ時に決めた事、うじうじしてる暇があったら、何をするべきか考えよう…。過去の事は変える事ができないから、傷つけてしまった彼らの為にできる事を探そうって…。
私の出した答えは、やっぱり前と変わらない。どれだけ怖くても、私の力がどんなものか分からず彼らの傍にいる訳にはいかない。彼らと共にいるためには、力について知る必要がある。
それを知ってるのは…ロゴスの魔術師…ドライ――。
私は一人、村の畦道を歩いていた。まだ足に痛みが残ってるけど、今行かないと、決心が鈍ってしまいそうで…。
思い立ってすぐ家を出た。朝陽が昇る前に出たから…分かっていたけど、周りは真っ暗。街灯なんて立ってるわけもなく、周りを照らすのは、少し明るくなった空の光のみ。
「…お願いだから、何も出てこないでよ〜…」
小さな声で呟いた。
私の足音だけが響く畦道。何度も歩いたこの道も、お化け屋敷の中にいる様な不安感がある。川辺から何か出てくるんじゃないか。森の中からタタリガミが現れるんじゃないか…ビクビクしながら目的の場所に向かってゆっくり歩いて行く。
チュンチュンとすずめが鳴き始めた。もう朝だ。怪我のせいか思ったより時間がかかったけど、ようやっとその場所にたどり着いた。
前、ドライに会った場所。ここしか彼に会えるかもしれない場所が思いつかなかった。
「…頑張れ、私!」
自分自身を励まし、彼の現れた森へと、一歩一歩と踏み入れて行った。
陽が昇ってきたと言っても、森に入ってしまえば夜と変わらない程辺りは暗い。しかもここは普通の森とは違う。
漂う空気は温く、不穏なものだ。風に微かに靡く葉の音一つでビクッとしてしまう自分が情けない。両手で自分の頬をバチンと叩いて気合を入れなおし、森の奥目指して歩き出した。
「こんな所で、何をしている」
「…?!」
後ろから掛けられた声に飛び上がる程びっくりして一気に冷や汗が噴出した感じがした。
でも、この声は仲間のものでも、ロゴスの人達の声でもない…でも、聞いた事ある声…。
「…あ!あんたは―」
恐る恐る振り返った先に居たのは、紅い瞳に色素の薄い髪、そして珠紀達と同じ紅稜学院の制服を着た――
「またお前か」
アノ変態野郎だ!!
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