ふしぎと怖くはなかった
ロゴスのドライに会う為、森を訪れた私の前…いや、正確には後ろに現れたのは、前会った変態野郎だった。
「またお前か。そんな怪我した身体で、この森に何しに行くんだ」
「あ、あんたには関係―」
あれ?服で包帯を隠してるのに、なんで怪我してるって分かったんだろう。…あ、そういえば、珠紀が確か――
紅稜学院の制服着てたから、学校の生徒だと思うんだけど…その人が名前を担いでここまで連れて来てくれたの
「…もしかして、私を家まで運んでくれたのは…あんたなの?」
「…だったら何だ」
うわ〜まじでか。こんな奴に…でも助けてくれたのは事実だし…。
「あ、いや…ありがとう」
「ふん」
なんなんだよ!人が礼を言ったのにその態度!
私は奴を無視して森の奥へ進もうと、踵を返した。
「おい、待てよ女」
誰が女だ!女だけどよ!
「…女なんて名前じゃありません。私には苗字名前って名前があるの」
「名前。お前、この森に何しに行くんだ」
いきなり名前呼び捨てするかな普通。
「買い物に行くように見える?」
「てめぇ、俺をバカにしてるのか」
「バカになんてしてませ〜ん。被害妄想やめて下さい」
「なんだと!」
売り言葉に買い言葉とはこの事か?当初の目的を忘れて言い合いをしている事にハッと気づいて、私は首をふるふると横に振った。
「悪いけど、私、あんたと喋ってる暇ないの」
「一人でいったら、お前確実に死ぬぜ?周りにいた奴ら連れて出直しな」
その言葉に、私はズキンと心が痛んだ。
連れて…来れるわけないよ…。
「………私といた方が…危険だもん」
「あぁ?」
「…なんでもない」
また…脳裏に映るあの情景。思い出すたびに目や喉の奥が熱くなって言葉に詰まる。
込み上げるものを押し止め様と俯いて堪えた。私が泣いたって何も変わらない!泣くな!名前!と心の中で何度も呪文の様に唱えてた。
私が黙っていると、アイツは少し溜め息をついてゆっくりこちらへと近づいてきた。私の前を通り過ぎ、森の奥へと行く様だった。
アイツもこの森に用事があるのか?と疑問に思っていた時、その歩みが止まった。
「…いつまでそこに立ってる気だ。さっさと来い」
「………え?」
まぬけな声だったと思う。だって、彼が何を言っているのか理解できなかったから。でも私が問う前に、彼は歩みを再開し先へと進んでいく。
「ちょ、…ちょっと待ってよ!」
ズキズキと痛みの走る足で彼に追いつこうと駆け足になる。やっと追いつくと、彼は私を見ず、ずっと先を見ていた。
「…一緒に行ってくれるの?」
「……暇つぶしだ」
ぶっきらぼうに答えたそいつ。
「暇なら学校行ったらいいのに…」
「てめぇ…それ以上減らず口叩くなら、カミ達に殺(や)られる前に俺が殺るぞ」
「…あんたがヤルって言ったら別の意味に聞こえてくる」
「あぁ?」
紅眼がギッと睨んでくる。…でも、ふしぎと怖くはなかった。どっちかと言うと…心強かったり。
「心配すんな。てめぇ相手にどうこうしようなんて思わねぇよ」
「なっ!」
失礼な!確かに可愛くはないし胸もないけど、それなりに魅力は……ないけどよ…。
「……そういえば、あんた名前何て言うの?」
「お前に教える義理はねぇ」
「義理はなくても私はあんたに名前教えたんだから、アンタも教えてよ!」
「お前が勝手に名乗っただけだろ」
そうだけど!勝手に名乗ったのは私だけどさ!
「…名前教えないなら勝手につけるよ」
「は?」
「じゃあ、タマで」
「俺は猫か」
「ポチでもいいよ?ほらポチ!棒投げしてあげようか?」
ニヤニヤ笑って彼の前に折れて落ちた木の枝をチラつかせていると、急にそれを振っていた手首を掴まれた。
「…遼」
「え…?」
「狗谷遼」
それだけ言って、掴んでいた手をゆっくり離した。
…びっくりした。怒って殴られるかと思った。てか、紅い目でじっと見られて、不覚にもドキドキしてしまった私が腹立つ。だって…こいつ嫌なヤツだけど…顔はかっこいい部類に入るんだよね…。
「何突っ立ってんだ。さっさと歩け」
ハッと気づくと、彼は少し先で止まってこっちを見ていた。
「あ、ごめん!」
下を向きながら彼の下へと向かった。駆け寄る間、まだドキドキが止まらなくて彼を直視する事ができなかった。
狗谷遼…か―。
嫌なヤツだけど…悪いヤツじゃないみたいだな。
彼の横を歩きながら、そんな風に思った――。
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