現実なの?なの?


「さて、大分落ち着いた様ですし。あなたがどうしてここにいるのか教えてもらえますか?」

彼の一言ではっとした。そうだよ、こんな和やかに笑ってる場合じゃないんだよ!

「あ、そうだった!バス停!」
「バス停?」
「はい、気づいたらここで寝てて、田舎が法事に来てて、それで―」
「待て待て!落ち着いてゆっくり喋れ。何言ってっかさっぱり分かんねぇ」

…ですよね。私も自分で何言ってるか分からないもん。
一度深く深呼吸して、今までの事を説明した。法事で田舎に来た事。帰りのバスを待ってる間寝ようと思って寝て、目が醒めたらここにいた事。ここを通りかかった彼女にバス停への道を聞いた時、先程の化け物に襲われた事。

「…おかしいですね。この村に出入りする者がいれば、結界が反応するはずなんですが…そんな気配はなかった…」
「結界が弱まってるから気づけなかったとかじゃないんすか?」

結界?一体なんの話だ。結界って小学生が鬼ごっことかで使うバリアーみたいなものなのか?そんなもの、現実にある訳ない……。落ち着いて考えれば、おかしい事だらけじゃないか?あんな化け物がいる事も、それと互角に闘える力をもってたり、光の壁だしたり、青い炎操ったり殴ったら風が吹き荒れて敵飛ばしたり…おーちゃんだってただの狐じゃないよね?!え、何?ここはなんなの?現実なの?夢なの?
パニック状態でいると、ガシッと大きな手で頭を掴まれた。

「何百面相してんだ?」
「ひゃ…百面相とは失礼な!」

ニヤリとして言った拓磨少年。
そんなに顔に出てたかな…。急に恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かる。

「とりあえず、私の家に行こう。おばあちゃんに聞けば何か分かるかもしれないし」
「そうだな。それが一番早いだろうな」

え、何の話ですか?

「彼女のおばあさんは巫女様でして、この村の相談役をしているんですよ」
「あ、そうなんですか」
「もうバスも出ちゃっただろうし、今日は私の家に泊まったらいいよ」
「あ、…うん。ありがとう」

とりあえず、今は彼女達の言う事を聞くしかなさそうだ。



***



「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私春日珠紀。17歳。珠紀って呼んでね」

彼女の家へ向かう道中、まだお互いの名前を知らない事に気づいた。

「あ、私は苗字名前。名前でいいよ。一緒の17」

宜しくと言って、私は他の4人に目を向けた。

「…鬼崎拓磨。17」
「大蛇卓。歳は25です」 
「弧邑祐一。18だ」

一つ違い。こっちはもう少し歳上だと思った。

「俺は鴉取真弘先輩様だ!」

弧邑さんと同じ18とか…考えられない。でこぼこな2人だな…。

「何か言いたそうな顔だな、おい」
「い、いいえ!なんにもありませんとも!」

訝しげな顔で私をみる鴉取さん。それを宥める大蛇さんに我関せずといった風の鬼崎君。
少し後ろでこの光景を楽しんでいる様な弧邑さん。そんな彼らを改めてみると…イケメンだな…。
いや、普通の女子の感想だと思うよ!だって、私の周りにこんなイケメンいなかったもん!珠紀も可愛いし…何なんだこの集団。…なんか、私だけ場違いみたいじゃん…。
一人で落ち込んでいると、珠紀がどうしたの?と顔を覗きこんできた。
あぁ…私に珠紀の可愛さの10分の1でもいいから下さい!

「腹でも減ったのか?」
「あ〜確かに腹減ったな」

腹を押さえて唸る鴉取さん。あ、確か鞄の中に…。
掛けていたボディーバッグの中から、法事の帰りにバスの中で食べようと買ったたい焼きを取り出した。

「冷えててちょっと形崩れちゃってますけど、よかったらどうぞ?」

差し出すと、鴉取さんはサンキューと言って私の手からたい焼きをとった。

「たい焼きより、焼きそばパンの方がありがたかったけどな〜」

会ってそれ程時間経ってないけど思う。この人、一言多い。

「文句言うなら返して下さい」
「食う食う。ありがたく食わせていただくって」

鴉取さんのもってるたい焼きを取り上げようとしたら簡単によけられてしまった。
くそぉ〜…歳は18でも中身は見たまんまのガキじゃんか!
心の中で悪態ついてると肩をちょんちょんと突かれた。

「たい焼き、もうねぇの?」
「え?あるよ?」
「俺にもくれ」

お腹が空いてるのか?それともたい焼きが好きなのか?ま、どっちでもいいかと残っていたたい焼きを鬼崎君に差し出した。パクッと口にたい焼きを突っ込んだままムシャムシャと食べる。
…イケメンってどんな姿でもイケメンなんだな…。顔がいいってほんと得だよね…。

「ん?なんだよ」
「あ、いや別に」

なんだか恥ずかしくなってとっさに目を反らした。

「あ、あの神社だよ!」

珠紀が指差す先にあったのは……長い階段を登った先に小さく見える鳥居。家はその先にあるんだろう。
……これ、登らなきゃだめなんだろうな。
足を止めた私を余所に、珠紀達はなんの躊躇いもせず、その階段を登っていく。さっきの出来事のせいか、精神的にも体力的にも結構きてるのに…特に部活もせず、普通の生活をしてる私に、これが登れるのか…?

「担いでやろうか?」

ニヤリと言った鬼崎君。それは恥ずかしいから絶対に嫌!

「結構です!」

絶対登りきってみせるんだから!!
そう意気込んで、石段に足を踏み入れた。でも、やっぱり普段からスポーツも何もしてない私の持久力が持つはずもなく、半分も行かないうちにへばってしまった。

「お前、体力なさすぎだろ」
「う…うるさい」

階段の上の方で鴉取さんが笑ってる。
くそぉ〜ムカつくけど本当、私こんなに体力ないんだな。

「…ほら」
「…え?」

膝に手を当てて立ってる私の前に差し出された大きな手。

「たい焼きのお礼」

…律儀なヤツ。そう笑って、私は鬼崎君の手を取った。そして後ろから珠紀が私の背を押してくれた。

「あともう少しだ。頑張れ」

弧邑さんと大蛇さんが激励してくれ、

「お前、明日は筋肉痛だな」

…最後まで鴉取さんは鴉取さんだった。でも言い返せる言葉がない。確実に明日は筋肉痛だろうから。
登りきった時、鴉取さんがお疲れさんと頭をポンポンって叩いた。…子ども扱いされた。鴉取さんの方がよっぽど子どもっぽいのに。
なんて思ったけど、それは心の中で言うだけにした。

「ただいまー」

珠紀が家の玄関を開けた時、やっと休めるんだと思って力が抜け、崩れる体を鬼崎君が支えてくれた。そんな姿を見て、周りの皆は笑っていた。
皆の笑ってる顔をみて、私も自然と笑顔になった。

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