今、それを望んではいない
「――君を始末してから、ゆっくりリメインと語り合うとしよう」
「?!」
ニヤリとしたドライは、持っていた杖で地を付く。
「ッ!!」
その瞬間、彼の周囲に纏っていた空気が一変した。空間が歪み、それが波となって襲ってくる。
私を抱えたまま間一髪で横に跳ねた遼。私達がさっきまで居た場所は刃物で切られた様に、大木が何本も倒れていた。
「チッ…」
ドライを睨みつけたまま舌打ちする遼。その片腕に抱きかかえられたままの私は、地に足が着かず足がブラブラしたままだ。
でも、下ろしてなんていう暇なくドライの攻撃が次々と襲い来る。
ドライの纏う禍々しい黒いオーラが生きているかの様に私達に襲い掛かる。私を抱えながらそれらをかわす遼。そこかしこにドライの攻撃によって地が抉られ木々がなぎ倒される。
攻撃をかわし続けてる遼だが、私を抱えてる分動きにくそうだ。
「遼、もういいから!早く逃げて!」
「うるせぇ!俺に指図すんな!」
「でも、―ッぅわっ!!」
息をつく間もなくドライの攻撃が襲い来る。直撃は免れたが爆風で視界が遮られる。
「さぁ、リメインを渡してもらいましょうか」
追い討ちをかける様にドライが杖で地を突く。私達を飲み込む勢いで迫る驚異は眼前まで迫って来た。
攻撃が当たるっ!と、咄嗟に目を瞑った。
「現出ッ!」
声が小さく聞こえたと思うと、目の前に光る壁が現れ、阻まれた禍々しいものは消え去った。これは――
「名前ッ!!」
「っ!」
聞き覚えのある声…この声は…
「……拓、磨…?」
名を呼んだ彼は、着ている黒の長袖Tシャツで身体の傷は見えないが、首や頭などは包帯が巻かれており、あの時の傷の深さを物語っている。
その彼の後ろから続々と守護者の皆や珠紀がやってきた。
「…どう、して…」
傍にいたくて…でも、いたくなくて…そんな彼らが…どうしてここに?
「話は後で聞く…今は…――」
彼らが睨む先には、あの笑みを崩す事のないドライがいた。
横には私を未だ片手で抱きかかえたままの遼。それを庇う様に拓磨や真弘さんがドライと私達の間に立ちはだかる。
祐一さんと慎司君、大蛇さんが珠紀を囲む様に支援準備をしているみたいだ。
「おやおや。まぁぞろぞろと出てきたもんですね。大人しく寝ていればいいものを」
「生憎、いつまでも寝てられる程暇じゃねーんだよ、俺達は」
笑って言う拓磨。
嘘だ…寝ていられるなら…寝ているべきなのに…傷も治ってないんでしょ?どうして…来たの…?みんな…――。
「さぁ、一人でこの人数をどう相手するつもりだ?」
「…ほう…まさか、これで私に勝てると…――」
戦闘態勢のまま真弘さんが言う。見る限り一人のドライが不利なのは誰でも分かるだろう。だけど、ドライは不利なんてそんなの微塵も思っていないようだ。クククと嘲笑いを浮かべ…じっと私達に視線を向けた。冷酷で…鋭い眼を――。
「私を見くびらない方がいい――」
周りの空気が一気に変わった。赤黒く禍々しい渦がドライの周りを囲んでゆく。それは小さな台風の様に周りを飲み込み、どんどん大きくなっていく。
拓磨に真弘さん、遼が体勢を低くし、いつでも動ける様に構える。
両手で持つ杖を軽く地に打ちつけるドライ。その瞬間、彼の周りで渦巻いてたものが一気に私達に向けて解き放たれた。
私の後ろで呪文を唱える言霊が聞こえた、…と思った瞬間、放たれた黒いものは、私達の目の前に突如現れた透明の壁によって遮られた。
「?!」
「…これは」
後ろにいた大蛇さんの声が轟音の波間に届いた。驚いた様子の声からして、あの壁は大蛇さんが出したものではないらしい…。
不思議に思った私の前にいたドライも、さっきの笑みは消え無表情のまま杖を携えたまま、さっきの場所に立ちすくんでいた。
「…これはどういう事ですか…?――」
ゆっくり首を横へ向けたドライ。その先の闇から人影がフッと現れた。
「――フィーア」
名を呼ばれたその人は褐色の肌にしなやかなボディをしたロゴスのメンバー…フィーアだった。
…じゃあ、今の壁は彼女が?…でも、どうして?
「一体…なんのつもりだね?フィーア」
「それはこちらの台詞よドライ。単独行動は止めてもらいたいものね」
腕を組み、ドライを見るフィーア。
「なに…不要なものは今のうちに消してしまおうと思ってね。それに、私から仕掛けた訳じゃない…リメインから、会いに来てくれたのだよ」
「どちらにしても、アリア様は今、それを望んではいない」
一歩も引こうとせず話すフィーア。私達は彼等のやり取りを見ているだけだった。
「……仕方ないですな」
軽く溜め息を吐き、森の奥へ体を向けたドライ。
「―、ちょっと待って!」
まだ聞けてない。私が知りたいことを!
その一身で帰ろうとするドライに声をかけると、彼は足を止め、首だけを横に向けた。
「リメイン…君が知りたいことは求めずともいずれ分かる。それが待てないのであれば…自力で調べなさい」
不穏な笑みを浮かべ、ドライはフィーアと共に森の奥へと姿を消した。
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