私達…達でしょ?


「知りたければ…自力で調べなさい」

だから、あんたに会いに行ったんだっつーの!!
彼の言葉が頭を過ぎる度、この言葉を心の中で叫んでいた。ほんと、私の一大決心をどうしてくれる。殺されるかもしれないけど、どうしても知りたいから覚悟を決めて乗り込んだのに…結局手がかりはなし。

「はぁ〜…どうしたもんかな…」

境内の掃除をしながら、私は溜め息一つ吐いた。昨日の事を考えながらしている掃除は、始めてから結構経つのに余りはかどっていない。最近お手伝いできてなかったから、今日からまた頑張ろう!なんて、張り切って始めたのに…これじゃ美鶴ちゃんに怒られそうだ。
気を取り直して、掃除を再開する。…でも、少しするとまた昨日の事が脳裏に過ぎる。
彼に聞かずに…どう調べたらいいのか検討がつかない。唯一の手がかりだったのにな…。

「はぁ〜…」
「朝から溜め息ついてると、幸せ逃げちゃうよ?」

優しい声が後ろから聞こえて来た。それは、もう耳に慣れた声。

「―珠紀」
「おはよう、名前」

にっこり笑顔で私の前にやってきた珠紀。私も笑顔を返すが、少しぎこちない…自分でも分かるくらいに。
だって…昨日の事を思い出したら――


ドライとフィーアが森の奥へと姿を消して、辺りに静寂が訪れた。緊張で強張っていた体から徐々に力が抜けていってホッとしたのも束の間、力に関する手がかりが去っていったんだと思って、肩を落とす。

「…お前、いつまでそうしてるつもりだ?」
「え?」

そう拓磨に言われて、まだ遼に抱きかかえられたままな事に気づいた。

「あ、ちょっ!いつまで抱えてんのよ!もうおろッ――!」

言い終わる前に支えてくれてた腕から解放され、そのまま地面に落っこちた。

「った〜……もっと優しく下ろしてくれたっていいでしょ?!」
「重たいお前を抱えてやってたんだ。文句言うな」
「お、もたいとは失礼な!これでも平均体重ですよ!」

私達が言い合いをしていると、まぁまぁと大蛇さんが仲裁に入って来て、一先ず会話は終了した。
なんか…私ってこういうパターン多い気がする。

「君は、前に一度会いましたね」
「知り合いですか、大蛇さん」
「先日の戦いで倒れた苗字さんを運んでくれたんですよ」
「お前は気ぃ失ってたからな。知らなくて当然だ」
「……」

そう言われた拓磨は悔しそうに視線を落とした。拓磨をそうしたのは、少なからず私が関係しているから、何も言う事ができず、私も視線を地へと落とした。

「…で、何でお前はこんな所に来たんだ?安静にしてろって美鶴に言われなかったか?」
「……みんなだって…あんなに傷だらけだったのに…なんで…それに、どうしてここ―」
「俺たちは、傷の治りが常人のそれよりずっと早いからな」
「あんな禍々しい気配感じたら、飛んで来ずにはいられねぇだろ?」

祐一さんと真弘さんが静かに言った。
確かに、皆何もなかったかの様だけど…それでも…拓磨はまだ寝てなくちゃだめだって私にも分かる。

「…私だって…もう大丈夫だから」
「大丈夫じゃねーだろ?傷、開いたんじゃねーのか?」

私の足首を見ながら言った真弘さん。私はその足を片方の足の後ろへずらし、平気だとだけ答えた。

「とにかく、帰るぞ」
「っ―」

拓磨が手を伸ばして私に触れようとした時、咄嗟に彼の手を避けてしまった。

「…名前…?」
「あ、…ご、めん……大丈夫、一人で歩けるから」

私も拓磨も、多分皆も驚いた顔をしているだろう。実際私自身が驚いた。無意識に伸ばされた手を避けてしまった事。
多分…私は怖いんだと思う。また私に触れて、彼が傷ついてしまうかもしれない事が―。

「…さ、帰ろう!もうここに用もないし」

居た堪れなくて、痛む足を無理やり動かしてみんなの横を通り過ぎた。
皆の顔を見れなくて、道があってるのかも分からなかったけど、少し後ろから皆が歩いてくる気配を感じながら、下を向いたままひたすら真っ直ぐ進んだ。


運よく森を脱出できて見慣れた場所にホッとしたけど、それから私達はまだ少しぎくしゃくしたまま。
私と珠紀は、お互い視線を外したままその場に立ち尽くしていた。

「私もね…」

言葉を切り出したのは珠紀だった。

「調べてみようと思うの。自分の事を」
「自分の事…?」
「うん。玉依姫や鬼斬丸の事。昨日の名前の姿をみて、私も決めたんだ」
「私…?」
「そう…私も、何も分からないまま皆の背中ばかり見てきた。守られるだけじゃ嫌なのに、何も出来なくて歯痒かった。昨日名前が一人でロゴスのところに行ったって知って…私も頑張らなくちゃって…」

真剣に私を見て、胸に当てた手をグッと握りしめていた。

「私も調べよう。過去に何があって、今何が起きているのか。そうすれば、なにか突破口が開けるような気がするの」

…そっか。珠紀も悩んでたんだね。
玉依姫で…皆に守られる存在で、それでいて強くて…なんて、勝手にそう思ってた。
でも、珠紀も悩んでたんだ。同じ様な事で、同じ気持ちで…。

「だから…一緒に調べよう!」
「…一緒に調べる?」
「そう!思ったんだけど、名前の力が鬼斬丸に関係があるかもっておばあちゃんが言ってたじゃない?」
「うん、そうだね」
「だから、鬼斬丸の事を調べれば名前の力についても何か手がかりがつかめるんじゃないかと思って」
「…あ…うん、そうだね」
「鬼斬丸を調べるなら、それを管理してた玉依姫の事についても自ずと分かって来ると思うの」

…確かにそうか。玉依姫と鬼斬丸は密接に繋がっていたなら、鬼斬丸に関係あるかもしれない私の力の事についてもわかるかも…。

「だからさ…これからは一人じゃなくて、一緒に調べない?一人より、皆で調べた方がきっと心強いよ」
「…珠紀」
「私達…友達でしょ?」

私の手を取って、少し照れくさそうに笑う珠紀を見て、ふっと肩の荷が下りた様に体が軽くなった。
これが…玉依姫の力?…ううん、これは珠紀自身のものなんだろうな。あたたかくて、優しくて眩しい、素敵な力。
彼女が微笑むと、自然に相手も笑顔になる…これって誰にでも出来る事じゃない。

「…凄いよね、珠紀は」
「え?」
「…憧れるよ、ほんと」
「な、…いきなり何言ってるのよ!」

照れた珠紀は、そろそろ朝食の時間だ!って言って家の中へと戻っていった。そんな姿が可愛くて、私はクスクスと笑った。

「……ありがとう、珠紀」

呟いた言葉は、私以外の誰の耳にも届かないけど、言わずにはいられなかった。
何度となく、落ち込んでは彼女達に助けてもらっただろう。もう数えるのも面倒になるくらい沢山、皆に救ってもらった。
皆を支えたいって思って、それはまだ叶わないけど…いつか、珠紀みたいに皆を心から支えられる人になりたい…そう思った――。

しおり
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