私の耳には届かなかった
「祐一さん！慎司君！」
ドライの足元に倒れていたのは、体中に焦げ跡や切り傷がついた祐一さんと慎司君。意識を失っているのか私の声に反応してくれない。
頭を抑えたままの遼を抱きとめたままドライを睨めば、そんなもの気に留めていない様子で笑みを浮かべてこちらを見ている。
「大丈夫。まだ息はある」
ドライの後ろから現れたのは、無垢な大きな瞳をした金髪の少女―アリア。それに寄り添う様にフィーアの姿があった。
「もう一つも、じき我らが手にする」
「…どうして、人を傷つけてまで鬼斬丸を手に入れたがるの？」
ドライの足元で倒れてる二人の姿。その姿を見ると胸が苦しくなる。もしかしたら他の皆も…拓磨も…って考えると―。
「黒書にそう記されている。それが私の役目だからだ」
「役目って何？」
「神の言葉に従い、この地に眠る力を開放し、リメイン…お前の中に眠る力を我が物とする。神の代行者である聖女の役割だ」
「…私の中にある力…それが、あなた達が私をリメインと呼ぶ事と関係があるの？」
ドキドキと高鳴る鼓動を抑える様に胸に手をやりギュっと服を掴む。アリアなら…答えてくれる…私の知りたい答えを―。
「…それは、リメイン―お前がアーティファクトの対だからだ…」
「――え？」
どういう…事？アーティファクト…って…何？
そう思ったけど…なんとなく分かっていた。初めて聞く言葉…だけど、凄く身近に感じてしまう―。
「話はもう終わりだ…ドライ」
アリアがドライに目を向けると、ドライは何も言わず持っていた杖を再び地から離し、コツンと地を叩いた。その瞬間、黒い闇が襲い掛かった。
「！！」
「名前！」
痛みや苦しみは襲ってこない。ただ、周りが真っ暗になっただけ。
視界が黒に染められる間際、遼が私を庇う様に覆いかぶさって来たのが見えた。
何が起こったのかと思った瞬間、どこからか声が聞こえて来た。
―…二人は…祐一先輩と慎司君は？
この声は…珠紀…？
そう思うと、周りの闇が徐々に薄れてゆく。目の前にいる遼がはっきりと視界に入ってきて、お互い目を合わせた。
「大丈夫か？」
「あ、…うん」
思いのほか顔が近くてびっくりした…。遼が私を庇った体勢のまま視線を周りに移すと、さっきと少し景色が違っていて驚いた。
「ここは…」
「―名前？」
声のする方に顔を向けると、私の見知った人達がいた。
「珠紀！」
拓磨と真弘さんも珠紀の後ろにいた。よかった、無事だったんだ。
「…、祐一先輩！慎司君！」
珠紀の声でハッとした。珠紀達の視線の先へ目を向けると、暗闇に襲われる前同様、ドライの足元に倒れてる祐一さんと慎司君の姿。
「うそよ。うそでしょ…」
「安心しろ、死んではいない」
珠紀と真弘さんが祐一さんと慎司君の下に駆け寄り、拓磨は私達の前に立って構える。駆け寄った珠紀が二人が息をしてるのを確認してからキッとアリアを睨む姿が見えた。…アリアは何も言わず、視線を逸らした。その瞳は…少し寂しさを帯びていた。
「アイン…」
呼ばれたアインは何も言わず、傍にある水が沸く場所に体を向けた。岩場から湧き水が滴り、小さな川となり流れていく。…そこが…最後の封印の場所なのだろう。
アインはゆっくりとその水が沸く場所へ手を伸ばした。
珠紀達は、それをじっと見ていた。ここで戦っても…結末が見えていたから…。
そして、アインが宝具である鈴を手にした瞬間だった…――。
―ふ う い ん が
―と か れ た
頭に響く声と共に、今までにない苦しみが襲い掛かった。
「ぅ、アァッ！！」
「名前ッ？！」
心臓が破裂しそう。喉がやける。腕が裂ける。内に潜んでた力が、一気に外に出ようともがく様に暴れだす。
そんな痛みの中、走馬灯の様に流れる映像が目の前に浮かんだ。それは何度も夢に見た映像。
広がる大地、漂う雲、地に突き刺さる闇と私に溶ける光。
最初の神が、神の世から消える時、半身をその場に残した。
その力は剣の姿を模し、神々はそれを巡って争うようになった。
映像と共に響く声―。何度も私に語りかけて来た声…。
もう半身は消えてしまったと思われていた。
しかし神は消える間際、言った。
もし、私の残した力がこの世に災いを及ぼすものなら、もう半身の力でそれを消し去ろうと。
混沌が渦巻く時、その力が目醒める様に。
願わくば、この力が永遠に目醒めぬように、と…。
「ァ…、あ、」
も う 半 身 の 力 で
混 沌 が 渦 巻 く 時
目 醒 め る 様
「ァ、っぅあぁァアアァアアア！！」
「名前ッ！」
白くなる…頭が…目の前が――。
まただ…私はまた、自分じゃないものに支配される―。
「…た、…くま――」
すがる様に呼んだ名。それに応える様に彼の口が私の名を呼んだが…その声は私の耳には届かなかった―。
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