活してしまったのね


突然の事だった。
俺達がロゴスの奴らと対峙してると、木の陰からアリアが出てきた。

「遅いと思って来てみたら、案の定か」

じっと俺達を見るアリアの瞳。二つ同時に襲われた封印。そして、さっきまでいなかったあいつらが姿を現した。…って事は――。

「…二人は、祐一先輩と慎司君は?」

珠紀の言葉にアリアは返事もせず、ドライを見やる。ドライは静かに頷き、持っていた杖でコツリと地面を叩いた。
すると、音もなく、俺達とロゴスの間に名前と…遼って呼ばれてたヤツが現れた。
…コイツ、どうして名前と?
一番に思った事がそれだった。守る様にアイツの腕が名前を抱いていた。その姿に無性にイライラしてしまう。でも、視線を移した瞬間、そんな事思ってる場合じゃないって思った。ドライの足元に傷だらけの祐一先輩と慎司が見えたからだ。

「うそよ。うそでしょ…」
「安心しろ、死んではいない」

それを確かめる為に珠紀と真弘先輩が二人に駆け寄った。俺は名前の前に立ち、いつ何が起こっても動ける体勢を取った。
そして静かにアリアがアインの名を呼び、アインが最後の封印に手を入れた。そこに封印されていた宝具、鈴が姿を現したときだった…。

「ぅ、アァッ!!」
「名前?」

名前の苦しむ声と名前の名を呼ぶアイツの声が聞こえた。慌てて振り返れば、両腕で自分の腕を掴んで苦しんでる名前。

「ァ、っぅあぁァアアァアアア!!」
「名前ッ!!」

断末魔を上げる名前の名を呼んだ瞬間、名前から突風が吹き荒れる。真弘先輩の風に匹敵する程の威力に、近くにいた俺とアイツがその場から吹き飛ばされた。
飛ばされた俺を真弘先輩の風が受けてくれ、木々に激突することもなかった。同じく飛ばされたアイツに目をやれば、腕を眼前に翳したまま、体勢を低くしていた。どうやら無事だったみたいだ。

「目覚めの時か…」

アリアがポツリと呟いた。始めは鬼斬丸の事かと思ったが、アリアの視線は名前に向いていた。

「…た、…くま――」
「名前!!」

あいつの口元が俺を呼んだ様に見えて名前を呼んだが、次の瞬間、名前の瞳が蒼く光を帯びてゆく。
前に一度見たことがある。俺達じゃどうしようもない強大な力が名前の体から放たれた、あの時と―。
名前のもとから出てた風が徐々に威力を弱めると同時に、あいつの体の周りに漂う力が蒼く光る帯の様に目に見えてきた。
それと同時に森の奥深くで巨大な力が生まれようとしてるのを感じた。森がざわつき、空気が変わっていく瞬間。

「鬼斬丸……」

珠紀が呟く。その視線は森の奥深く、鬼斬丸が封印されている場所―。
すると、立ち尽くしていた名前が一歩、また一歩と歩き出した。名前の歩調は徐々に速くなって、次の瞬間、風の様に森の奥へと消えて行った。

「名前!」

名前を追いかけようとすると、俺の前にアインが立ちはだかる。

「どけよ、長髪オヤジ」
「行かす訳にはいかん」

俺の睨みなんてどうとも感じない様なアインは壁となって俺の行く手を阻んだ。

「……アイン、先に行け。アーティファクトとリメインを確保せよ」
「……」

リメイン…名前の事だ。こいつら、鬼斬丸だけじゃなく、名前まで連れて行く気か?
アインは無言でアリアの言葉に従い、名前が消えて行った異界の森へ向かった。直にでもアインの後を追いたかったが、アインの代わりに俺の前に出たアリア。

「下がれ。もはやおまえたちには目的がない。おまえたちは、負けた」

アリアがそう言った。アリアは見逃してやるって言っている様だ。
だけど…それで引き下がれるわけねえ。ここで引き下がったら、名前を誰が止める。

「お前は、一人じゃない……俺が傍にいてやるから、心配すんな」
「…ありがとう…」


蔵の中で約束した。何が起きても、俺が止めてやるって。

「…拓磨」
「珠紀、逃げろ。俺があいつらを追う」

そう言って名前達の消えた森げ走りだすと、ツヴァイが襲い掛かってきた。それに応戦しようとすると、横から出てきたそれによって、ツヴァイが体勢を崩した。

「…お前」

名前の隣にいたアイツがツヴァイに足蹴りを入れ、佇んでいる。

「早く行け、赤頭」
「…なんで」
「お前の為じゃねえ…こいつらが気にくわねぇだけだ」

殺気立ったそいつは背中を向けたままツヴァイを睨んでいた。ムカツクやつだと思ってたが、今はアイツの言葉に甘えて、俺は再び異界の森へと足を進めた。


奥へ進むたびに増す嫌な感じ。神々がざわめきたっているのが肌で感じられる程に。走り続けて少し経つと、蒼い光が見えてきた。あの光は…名前のものだ!
走ってた足を速め、その場に向かった。光の下に2つの影が確認できるのに時間はかからなかった。時々、その閃光が光を増す。その瞬間、その影が何かはっきりと分かった。
名前とアインだ――。
ようやっと名前の近くまで来ると、名前は鬼斬丸の封印されている場所である沼の前で手を翳していた。その手の前には蒼く光る壁の様なものが、沼を囲む様に張り巡らされている。それを壊そうとアインが名前に襲い掛かるが、名前の纏う力によって何度も跳ね返されている。
どんどん増す邪悪な気配。鬼斬丸が、目覚めようとしている。

「拓磨!!」
「珠紀―」

息を切らせた珠紀が俺の傍までかけてきた。アイツや…真弘先輩の姿はない。
その直後、今までにない巨大な力が沼から溢れ出した。世界を何百回壊しても有り余る程の強大なエネルギー。沼は波立ち、やがてその中央までの足場になる石段が現れた。
その先に…それはいた。宙に浮いた、白鞘の刀――。

「鬼斬丸――」

遥か昔から、玉依の血によって封印され、世界を終わらせることができると言われた刀―。

「…ほう、これは想像以上だな」

声がして振り向くと、そこにはアリアの姿が。その後ろにツヴァイ、ドライ、フィーアもいた。そして――

「…ついに、復活してしまったのね」

ロゴスと対峙した場所にババ様の姿が。そう思うと、名前の体から放たれる光が青さを増してゆく。鬼斬丸の復活を阻止する様に強くなる力。それに抗う様に刀からも黒く歪んだエネルギーが名前目掛けて放たれる。名前の放つ青く光る膜によって鬼斬丸の力が遮られているが、巨大な力と力のぶつかり合いにより、凄まじい衝撃波が俺達に向けて走り抜ける。

「ッ!!」
「名前ーッ!もう止めて!!」
「名前ッ!」

俺達が何度も声をかけると、微かに名前の指が動いた気がした。

「…タ…ケテ―」
「名前?!」

名前が言葉を話し、一瞬青い光が弱まったと思った瞬間、膜の中で黒い力が一気に名前目掛けて放たれた。

「ッ、ァアァアアアアァァアア!!」
「名前!!」

黒い力は膜を通り、名前の体を這う。まるで、名前を飲み込もうとする様に。しかし、再び青く光る力が増し、体を這う黒いものをゆっくりと膜の中へ押し戻した。
発せられた力は、周りにも迸り、木々や地に傷をつけてゆく。鬼斬丸と同じくらい強大な力。俺達は近づく事すら叶わない。どんどん勢いを増す力に、ロゴスの奴らも眉を顰め身構えるしかできない。

「…仕方ない。ここは退く」

手が出せないと判断したのか、ロゴス達はフッと森の闇に紛れて消えた。しかし、力のぶつかり合いは止まらない。止まる所か、強まる一方だ。ここままじゃ、あいつが壊れてしまうような気がする。

「珠紀はここにいろ!」
「拓磨?!」

ゆっくり俺が近づくと、背中を向けたままのあいつの体から青い光が鞭の様に襲い掛かる。何度と攻撃をかわしながらあいつの傍まで近づき、手を伸ばした。名前の肩に触れると、勢いよく手を払われ、名前の振り上げた腕に纏われた力がナイフの様な切り傷を俺の手に負わせた。

「―ッ!」
「……ぁ…」

その瞬間、名前の瞳の青が少し薄くなった。

「…た、……くま…」
「名前、」

名前が俺の名を呼ぶと、それまで纏っていた力が一気に引いていくのが目に見えて分かった。俺を見たまま立ち尽くしてた名前が、力が完全に引いたと同時にその場に倒れ込み、俺はその体を抱き止めた。
鬼斬丸をみれば、名前の張った膜の中でまだ暴れている。その膜が徐々に狭まり、青い光を纏う様に白鞘の刀が光輝き漂っている。
……封印された…のか?しかし、確かに感じる鬼斬丸の気配。消えたわけではないようだ。いったい――どうなったんだ?

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