自らをとるか、仲間をとるか
まどろみの中に漂っている様な感覚。ふんわり浮かぶ体に、あぁ、いつもの夢の中だって冷静に考える自分がいた。もう何度目になるんだろう。こんな夢をみるのは。
ゆっくり瞼を開けると、亜麻色の靄がかった空間に私はいた。
―目醒めの時が来た
何度となく、私の頭の中に響いた声。何度問いかけても、それに返事をしてくれた事がない、声。だけど、今なら…応えてくれそうな気がした。
ねえ…あなたは…誰なの?
そう問うと、私の目の前に靄が集まり始めた。それは徐々に人の形になり、青く光を帯びてゆく。光の中から、ゆっくりと現れたのは…その光と同じ青い瞳に長く靡く髪。長身で…とってもイケメンな男の人だった。
我はこの世に最初に生まれし存在。
最初に生まれし存在。えっと…走馬灯で見たものがそれを表すなら、あなたは最初にうまれた神様って事でいいんですか?
そなた達の世で神と呼ばれているのであれば、そうなのだろう
この人が神様…。すっごいイケメンなんですけど…。
我に実体はない。そなたの思い描く我を模したまでだ。
あ…そうですか…さすが私というべきか…。でも…確か、最初に生まれた神様って消えてしまったんじゃ。
そう。我は遠く遥か昔、半身を地に残し消えた。我はこの世にもう存在しない。そなたに語りかけてるのは、そなたの内に残る力の思念
思い…って事ですか?
そうだ
へえ…。
そんな会話をイケメンな神様と交わしていた。そして、私は走馬灯で見た力の記憶を思い出し、神様に問うた。
私の中にある力は…消えたと思われてた神様のもう半身の力なんですか?
ああ。お前の中にあるは、我が地に残した力の対。剣を模したあの力が、世に混沌を齎す時、もう半身の力でそれを永遠に封印する。その為に残したのが、そなたの内にあるものだ
じゃあ、この力があれば、鬼斬丸を封印できるんですね!皆の力になれるんですね!
やっと、私はみんなの力になれるんだ。嬉しさがこみ上げ、私の問いに早くそうだと答えて欲しいと願った。…だけど、神様は無表情のまま、私をじっと見ていた。
確かに、そなたの中の力は、我が半身を打ち消す力を持つ。だが、今のままではそれは叶わぬ。
今のままでは?じゃあ、どうすればいいの?!
食い入るように聞けば、神様はゆっくりと言葉を紡いだ。
そなたの体を我に明け渡せ。抗わず、我を受け入れよ。
何度となく頭に響いた言葉。明け渡すと言う言葉が心に引っかかる。
…どういう、意味ですか?
我と同化するという事だ
同化…する?私が神様になるという事?
そなたが神になる訳ではない。そなたは我が力に溶け、そなたと言う存在は消えるのだ
――え…私が……消える?ちょ、ちょっと待って!何で、私が消えなくちゃならないの?!
その為に、そなたがいるからだ。混沌迫る時に、それを永久に消し去るために眠っていた力。人の身で我が力を完全に使う事はできぬ。意志を持ったまま力を振るえば、力は暴走し、更なる混沌を招く事となる。
力が暴走…それは、拓磨達を傷つけた…あの力の事?意識を取り戻した時のあの惨劇は、今でも鮮明に思い出せる程。だから…そうならない為に…力の事を調べて…って思ってた……なのに――
…じゃあ……なに。…これは、決まっていた事なの?私がこの村に来たのも、たまたまじゃなくて必然だというの?
そうだ。
この力がいきなり現れたのも……消えて、しまうのも……決まっていた事なの…?
………。
神様は何も言わなかったけど、沈黙は肯定って事だって誰かが言ってた気がする。
私は…道具なの?私が生まれたのは、今まで生きてきたのは―ここで消える為だけだったの?!
……世界の混沌を防ぐ為だ
だからってッッ――!!
その先の言葉は出なかった。
封印の宝具が無事なら、それでよかった。しかし宝具は奪われ我がかけた封印も不完全なもの。いつ壊れるかもしれぬ。そなたが我に身を捧げるか…
捧げるか…?それ以外にも方法はあるの?!
玉依、そして守護者の血により、我半身は永久に消える
―ッ!?
それは…珠紀や…拓磨達が…生贄になるってこと?
今ならば、まだ選ぶことができる。自らを取るか、仲間をとるか…
わ…わたしは――!
そう言うと空間に光が差し込んで、周りは目も当てられないくらい眩しくて…私はぎゅっと瞳を閉じた。その中で神様が私に語った。
選ぶのだ。自らをとるか、仲間をとるか。二つに一つだ――
次、瞼を開けた時は、元の部屋に戻っていた。
「ぅ…っっぁッ――」
胸を鷲掴みされた様に苦しくなって、吐き気までした。
「…ぁぁぁっっーッッ、ぅ、あぁっ…」
今まで、皆を守れる力が欲しいと思った。守られてばかりで、後ろで震えてるだけの自分が嫌で…。やっと…力になれる…皆と対等にいられるって…そう思ったのに。
わたしは…最初から…対等になんてなれないんだ。私はただの…器。鬼斬丸を封印する力をもった…ただの器だったんだ。
皆が死ぬ思いでわたしを守ってくれたのに…わたしは、自分が死ねって言われて…凄く怖い。自分の命か、みんなの命かって言われて…何も言う事ができなかった…。
ずるい…皆を守りたいのに…自分の命は惜しいなんて…。
「ッッ…ぅぁあぁッッ――!!」
蹲って、自分の腕を力いっぱい掴んだ。死という恐怖に、自分と皆を天秤にかけた愚かさに、手が震えて止まらなかったから。
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