力を全て私に捧げるんだ!
「フィーアに…アリア…」
「どうして…」
私達は驚きを隠せなかった。さっき私達をドライの攻撃から救ったのがアリアの力だとしたら、何故、ロゴスである彼女が私達を庇ったのか。
「大人しく館にいればいいものを」
「…フェンフやフィーアに言われたのでな。己の責務を果たせと」
フェンフ?まだロゴスに仲間がいたの?
「ドライに問う。お前の狙いは何だ。私を館に閉じ込め、アーティファクトやリメインの力を手に入れて何を成そうとしている」
「フフフ。私の目的か…いいだろう、教えてやろう」
ドライは一泊おいて、ニヤリと笑った。
「私の目的は――神。アーティファクト、アーティファクトの対の力を持つリメイン。そしてアリア、お前の体内にあるセフィロト。世界の心理を手に入れ神になる事だよ」
神に…なる?
「アリアはまさにこの世の奇跡だ。その身の内、心の奥に神の理を隠して生まれた。だが困ったことに、アリアの体を分解したところで神の知識は拾えない。同じ、神の力を持ってしか、それは手に入らないようなんだよ」
不意に、ドライの笑みは大きくなり、それは一層、凄絶なものになる。
「神!神神神神!!黒書による予言は示した!いずれ奇跡がこの世に現れようと。それがアリアだ。それを成すにはお前の力は邪魔だ、リメイン。その力諸共、私の中に吸収してくれる!!さあ!!お前らの力を私に明け渡すのだ!!」
叫び声と共に、ドライの体から凄まじい魔力が放出された。地が揺れ、大気がざわめき、風が巻き起こる。さっきとは比べものにならないくらいの魔力だ。この世にいる、どんな神も恐れをなして逃げていくだろう。
「フハハハハハハ!!!アーハハハハハハッ!!!」
発作の様に笑い狂うドライ。
「神の力を…思い知るがいい!!」
杖を、大きく地に突き刺した途端、先端に化け物の顔を模した無数の蛇の様な力が私達に襲い掛かる。余りにも早い攻撃に私達は身動きする事も出来なかったが、さっきと同じ様に見えない壁に当たって、それは消えていった。
「私がいる。ドライの力は及ばない」
「アリア…どうして、私達を助けてくれるの?」
「…聖女として、従者の暴走を止めに来たまでだ」
淡々と言ったアリアにクスッと笑ったフィーア。
「…!、みんなは?!」
周りに目を向ければ、みんなちゃんと姿が見える。でも攻撃をかわしきれなかったのか、体に擦り傷が痛々しく見えた。
「フィーア」
「―はい」
名前を呼ばれたフィーアは、はいとだけ言って戦陣の只中へ突っ込んでいった。そこかしこで力のぶつかり合う音、魔力の波動が渦巻く。誰がどう動いているとか早すぎて目が追いつかない。
「余所見をしている余裕があるとはな」
地の底から聞こえる様な声が真後ろから聞こえて、私達はとっさに振り返った。そこには、さっきまで離れた距離にいたドライが、血走った目をして私達を見ていた。次の瞬間、ドライは持っていた杖を大きく横に振り、珠紀をそれで吹き飛ばした。
「ッ、ァアアッ!!」
「、珠紀ッ!!」
「―停止!!」
飛ばされた珠紀は、大きな大木にぶつかる寸前で、慎司君の言霊により衝突を免れた。ホッとしたのも束の間、ドライの周りに漂う黒い魔力によって体を拘束され、持ち上げられた。まるで、縄で縛られたみたいに身動きが取れない。
「ヒィハハハハハ!!!これでお前の力は私のものだ!!」
「はなッ――っ、ゥアあァアアッ!!」
抵抗しようと力を込めたが、拘束する黒い力が私の中に入って来て意識が侵食されようとしている。
憎しみ。苦しみ。恨み。色んな黒いものが私の頭の中を侵していく。
気持ち悪い。感じたこともない憎悪が私の中からも湧き出してきているみたいで…。
嫌だ…このままじゃ…私は――。
―いけない…このままでは――
「や…め、ッア、―ァあぁアアアアア!!」
「素晴らしい!!素晴らしいぞ!!お前の力を全て私に捧げるんだ!!」
辛うじて薄く開けた視界から見えるのは、アインやツヴァイと戦いながら私に向かって来てくれる仲間達の姿。
「やめろぉおおーー!!」
そう拓磨が叫んだ声が耳に届いた瞬間だった。森の影から何かがドライ目掛けて飛び掛って来た。
油断していたのだろう。ドライはその攻撃を避けきれず、もろに体にそれをくらった。ドライに捕らえられていた私も共に飛ばされ、途中で力から開放されたが、そのまま地面に叩きつけられそうになった。衝撃はあったけど、痛みはそれ程感じられなかった。
ドライの力が入り込んで頭がグチャグチャしてるからかと思ったけど、傍にあった温もりでそれが誰なのかは分かった。
「た、くま…、!」
霞む視界を上に上げると、ホッとした顔をした拓磨の優しい顔が見えた。だけどそれ以上に体中に付けられた傷とにじみ出る血が気になった。
「もう少し考えて攻撃しやがれ」
その言葉は私に向けられたものじゃない。少し険しい顔をしてその人がいるであろう方に私も目を向けた。
「うるせ。てめぇに指図される覚えはねえ」
「、遼?…なんで?」
「…逃げてるって思われるのは癪だからな」
ぶっきら棒な言葉は変わらないけど、そんな変わらない遼の姿に笑みがこぼれてきた。
「大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫だけど、私より拓磨の方が―」
「これくらいどうって事ない」
どうって事ない訳ない。額から、腕から体のいたる所から血が出ている。その辺でこけたくらいの感じで言うけど、そんな痛みや苦しみじゃないのは分かってる。
それでも大丈夫だって笑って言ってくれるから、私はそれ以上なにも言えなかった。
「名前!!大丈夫?」
「珠紀、大丈夫だよ」
まだ少しグラグラする頭を振って、出来る限りの笑みで応えた。珠紀の後ろにアリアの姿も見えた。しかしアリアの視線は森の奥に注がれいる。私が視線をそちらに向けたと同時に、倒れていたドライがムクッと起き上がった。
「――のれ…、おのれぇェエエエエ!!!ひ弱なクズ共が!!神に、神に抗うとどうなるか、その身で思い知るがいいッ!!!」
勢いよく噴出す黒い力。今までで一番膨大で底を知らない禍々しさ。
「お前らはどっかに隠れてろ!」
そう言って拓磨と遼がドライに向かって駆け出した。
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