してあげる


「お前らはどっかに隠れてろ!」

そう言って拓磨と遼がドライに向かって駆け出した。だが、杖を一振りしたドライから風の刃が遼を襲った。そして、そのまま地に杖を突き刺すと、放たれた力が無数の矢となって辺りに降り注ぐ。

「!!」
「―効かぬ」

手を天に翳したアリア。すると再び見えない壁によってドライの攻撃が遮られた。

「みんなッ!!」

アインやツヴァイを相手にしながら、懸命に大蛇さんが防御結界を張っている。でも鬼斬丸の力を得たドライの力の前にそれは脆くも崩れ去り、急所はかわすものの着実に傷をあたえられてる。
服が切れ、そこから血が滲んで見える。苦痛に顔を歪めながら、それでも目の前にいる相手に立ち向かっている。
このままじゃ…みんなが!!

「…、くっ!」
「アリア?」

アリアの顔が苦しそうに歪んでゆく。見れば、アリアの張った壁が少しずつ小さくなっていくみたい。
押されてきている―。
いつ終わるのか分からない攻撃にどこまで耐えられる?いや、もう数分…数十秒も持たないだろう。どうすれば…私は、どうすればいいの?!

―このままでは、世界は闇に沈む

神様?神様なの?!

いつも夢の中でしか聞こえてこない神様の声が頭の中に響く。

神様!!私どうすればいいの?神様の力だったら何とかなるんでしょ?!

―我が半身によって我が力の一部を奪われてしまった。このままでは、そなたの中にある我が力を解放しても飲み込まれてしまうだろう

そんな…じゃあ、もう…ドライを止めることはできないの?

―術がない訳ではない

本当?!どうすればいいの?!

―玉依とそれを守護する者の真の力が目覚めれば、我が半身を抑えている間に封印する事はできるであろう。だが、玉依も、それを守護する者も未だその力を出せずにいる

玉依と守護する者の…真の力?もし、それが目覚めなかったら?
そんな事、考えなくても分かる。私が望む未来は絶対やってこないって事。でも…――
そう思いながら、戦ってる皆の姿を目で追った。真剣な目をして必死に目の前の脅威に立ち向かってる。体が何度傷つけられても、叩きつけられても、止まることなく立ち上がっていく。最悪の状況を避ける為に必死に。神の力を持つというアリアも、あんな小さい体で頑張ってるんだ。

「私が…逃げるわけにはいかないよね」
「…名前?」

―もし玉依の力が覚醒しなければ、お前も玉依らも、この世の全ての者が闇と化すのだぞ。

そうだね。…でも、だからって私が躊躇っていても…待っている未来は同じ。…そうでしょ?

「珠紀…私が鬼斬丸の力を抑える。だからその間に玉依の力で封印して」
「…なに言ってるの?そんな事をしたら…それに、私まだ玉依姫の力が―」
「大丈夫だよ。珠紀なら、大丈夫」

笑って珠紀に言った。いつも優しく微笑んで私を励ましてくれた彼女を、今度は私が支えないと。疑っちゃいけない。私が信じなきゃ…。
珠紀なら大丈夫。拓磨や遼や真弘さん、祐一さんに慎司君に大蛇さん。それに、フィーアやアリアがいる。今まで傷だらけになって私を支えて、護ってきてくれた仲間達を――。
一歩、また一歩、ドライに向かって歩みを進める。決意は決まった…なのに、歩む足や手の震えが止まらない。大丈夫だ、大丈夫だと心の中で何度呟いても、恐怖からか涙が出そうになる。ここに来てまで、私は恐がってばかり…泣きそうになったりして、ほんと弱虫。
だけど…だけど…今回だけは…絶対に引けない!

「アリア…みんなをお願いね?」
「…行くのか……お前、死ぬぞ」

力を解放すれば、私という存在は消える…そう、神様が言ってた。私も、それを覚悟してた……でも――

「…死なないよ」
「…なに?」

私はアリアの張る防護壁を抜け、ゆっくり…先へ進んだ。降り注ぐドライの攻撃が一筋、また一筋と私に傷を与えてゆく。
痛い…傷がつく度に体が跳ねて傷口が熱くじんじんしてく。でも、それは私が生きている証拠なんだ。

「名前!!なにしてんだ!!」
「早く戻れ!」

拓磨や真弘さんの声が聞こえた。だけど…止まっちゃだめ。止まったら、もう歩き出せない気がするから。そしたら本当に終わってしまう。この世界が、私の人生が。
そんなの、嫌だ。痛みも悲しみも…、その先にある喜びも…私はまだ感じたい。

最後まで生きる事を諦めるな。

ふと拓磨の言葉が私の中に響き渡った。
うん…そうだよね。私も生きたい。みんなとの未来を…。
だってみんなが大好きなんだもん。みんなが死ぬ姿は見たくない。これからもみんなと共にいたい。…珠紀や美鶴ちゃん。真弘さんや祐一さんに慎司君、大蛇さんや遼…拓磨の横でふざけあって…笑っていたい、傍にいたい。
だから…神様。私の体、貸してあげる。

―貸す?…我に体を明け渡す。その意味は分かっているのだろう?

うん、分かってる。でも、諦めないって…最後まで生きる望みを失わないって…約束したから。いつか…また彼等のもとに帰って来れるって信じてる。
だから貸すだけ。ちゃんと後で返してもらうんだからね!

―…そなたは面白き人間だ

姿は見えないけど、何だか神様が微笑んだような感じがして、私も自然と笑みが浮かんだ。それと同時に、体から青く光る力が解き放たれた。

「名前ッ!!やめてーー!!」

天に昇る勢いで放たれた力は、ドライに向かって降り注いだ。

「はははははは!!全て私の中に取り込んでくれるわ!!」

私の中の力と、ドライの力がぶつかり合う。
衝撃波が嵐の様に舞い起こり、敵味方関係なく皆その場に伏せ、それに耐えていた。
そんな光景を薄れゆく意識の中、私は見ていた。一歩、一歩進むごとに意識が遠ざかっていく。そんな中、私の足元に何かが触れた。
視線をそちらへ向ければ、私と似た青い光を纏ったおーちゃんの姿があった。真っ直ぐ向けられた瞳は、何だかお別れを言われているみたいだった。

…珠紀の傍にいてあげてね?

心の中で呟いた言葉はおーちゃんに届いたのか、そのまま珠紀のいる方へと足を向けて行ってしまった。
視界が…感覚が、なくなっていく。もう自分が立ってるのかさえわからないや。目の前で力と力がぶつかり合って、轟音が辺りを支配している筈なのに、それさえも私の耳には届いて来ない。
皆の声も…もう聞こえない。でも…また聞けるよね?…みんなが私の呼ぶ声を…。

名前ーー!!

大好きな声が…私を呼んだ気がして、感覚のない体を懸命に彼に向けた。
霞んで見える彼は、一生懸命何かを叫んでいる。その声は聞こえないけれど…呼んでくれてる…私の名前を――。
私も彼の呼びかけに応えなきゃ。

大丈夫だから―。

私は、消えたりしない―。



私の言葉…伝わったかな―?

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