自分をじて


「名前ーー!!」

拓磨が名前の名を呼んだのを最後に、彼女の姿は青い光の中に溶けていった。

「名前ーッ、!」

黒と青が眼前でぶつかり合い、その衝撃が爆風となって辺りを駆け回る。バチン、バチンと聞こえる音は、名前の力がドライに対抗している事を私達に知らせてくれてる。
だけど…私はどうしたらいいの?

「私が鬼斬丸の力を抑える。だからその間に玉依の力で封印して」

無理だよ。だって私はまだ…。

「大丈夫だよ。珠紀なら、大丈夫」

名前はああ言ってくれたけど…どうしたらいいの?玉依の力は、どうやったら目覚めてくれるの?
ただただ、私達は爆風に飛ばされない様に耐え、名前が闘っているのを見守るしかできないでいる。

「どうしたら―」
「珠紀!!」
「、っ!?」

地面に視界を落とし呟くと、拓磨が私を呼ぶ声が聞こえて顔を上げた。私に向かって弾かれたであろう力が飛んでくる。間一髪で拓磨が私を抱えて避けてくれたけど…。

「大丈夫か」
「…うん、私は…大丈夫。………でも―」

言葉のかわりに視線を前に向けた。青く光る力が闇を抑え込もうと頑張っている姿が、名前の姿に見えて仕方ない。光に溶けた彼女がどうなったのか…それは…きっと…―。

「…大丈夫だ」
「―…え?」
「あいつは…大丈夫だって」

真っ直ぐ光に目をやって言う拓磨の姿は、まるで自分に言い聞かせているようにも見えた。

「あいつは…絶対に俺達のもとに帰ってくる」
「…拓磨」

帰ってくる。
…そうだよね。名前は絶対戻ってくるって…私達が信じなきゃ!私が…ドライを…鬼斬丸を封印する。…こんな戦い…二度と繰り返さない為に!

「お願い…。私の中に、鬼斬丸を…世界を襲う脅威を封じる力があるのなら…」

腕を胸の前でギュっと握り、祈る様に言葉にした。その瞬間、温かいものに覆われた気がした。

―珠紀

名前…?

―大丈夫だよ。私がいる…みんなが傍にいる。

みんな…。
自然と辺りに目をやった。私の気持ちがわかるのだろうか…みんなが力強く、だけど優しい視線を私におくってくれてる。
大丈夫だ。俺達がいる。自分を信じろと言ってくれているみたいで、私は、心の不安がどんどん癒されていくのを感じた。
私はゆっくり頷き、地につく足に力を込めて立ち上がった。
今まで沢山傷をつくりながら私を護る為に闘ってくれた守護者の皆。それに、今はアリアやフィーアもいる。
そして…名前が今、頑張ってる。私を信じて、鬼斬丸の力と闘ってる。今度は…私がそれに応えなければ!!

「封印の力よ―。」

―大丈夫。自分を信じて。私は――

 いつも あなたと共にいる

名前と違った声が聞こえた。それは外から聞こえるものじゃない…私の…中から。そう思うと温かく懐かし何かが心を満たしていく…。それは…―。

「…おーちゃん…だよね」

確信と変わると、心強さが増した。

 封印を

言葉少ないけど、私はそれだけで気持ちが満ち足りた。そして、自然に浮かんできた言葉を、口にした。
その瞬間、体中に力が吹き荒れていくのを感じる。私の体を光の粒子が包み、白の千早の袴に変転する。それが、おーちゃんだという事はすぐにわかった。そして失った筈の宝具も、私の元に戻って来ている―。
今ならば、いける!!

「我が身の内に宿る封印の力よ!!その力、今、我にしめせ!!」

言葉にすると同時に体の中にある力が眩い光となって鬼斬丸に向かう。とてつもなく大きな力にぶつかり、その衝撃が離れた所にいるはずの私に直に伝わってくる。

「ッ!!」

抗う力が強い。抑え込もうとするのに、そうはさせまいと押し上げてくる。

「ォオオォォオ゛オ゛オオオ゛ーー!!!」
「?!」

封印されまいと、鬼斬丸の力が私目掛けて襲いかかる。だけど、それは私の目の前に現れた人々によって遮られた。

「…みんな」

そこには、守護者のみんなに名前が遼と呼んでいた人、それにアリアとフィーアの姿が。

「なにすっとぼけた顔してんだ?さっさと封印しちまえ」
「お前は、俺達が護る」
「真弘先輩…祐一先輩…」
「私達は守護者。あなたを、玉依姫を護る為にいる」
「先輩なら大丈夫です」
「卓さん…慎司君…」

変わらない、皆の笑顔―。

「あいつに逃げてねえってとこ、見せてやろうじゃねーか」
「眠らせてやってくれ。ドライを」
「アリア様…」

呟く様に言った遼。愛しむ眼差しをアリアに向けるフィーア。そして…―。

「終わらせるんだ。この闘いを」
「拓磨…」

終わらるんだ。私を護ってくれるみんなを、この世界を――

「守る為に!!」

私の叫びと共に、温かな光が一気に解き放たれる。そして、その光が私達を覆い、守護者の皆の体を纏う。すると、皆の体が変化していった。角が、翼が、尻尾が、体に刺青の様な模様が浮かび上がる。遼にでさえ、犬の様な耳が生えている。
あぁ、彼もそうだったんだ―。もしかしたら、名前が引き合わせてくれたのかな…?
そう思いながら、彼らの姿が守護者の真の姿だと、頭の奥で理解できた。

「ハァアアァアアッッ!!」
「いけぇぇええ!!」

私や守護者のみんなの力が大きな一筋の光となって天に舞い上がる。

「アリア・ローゼンブルグの全てをもって、我が内にある神の力に命ず!」

アリアの言葉が夜に響く。

「邪悪なる力を、滅せよ!!」

解き放たれた力に、アリアの力を相乗し、夜を溶かす勢いで光が増した。
これで…終わる。そう確信した時、舞い上がった力が黒と青を包み込む。

「ウ゛、ァアァアア゛ア゛アアッ!!こ、…なところで、…私の、野望が、潰えるものかァアァアアア!!!」
「いいえ!!潰えるのです!!永久(とこしえ)に、この地に葬りさる!!もう…私達の、この世界の未来を脅かさせない!!」
「ッ、ゥオォオオオォォオオオーーー!!」

光が荒れ狂う。爆風と轟音が地鳴りとなって襲う。世界が終わるのではないかと思うほどの衝撃が響く。
そして―その光が一気に集約されていく。
終わったんだ。
そう思った時、光の向こうで影が見えた。

「―、!」

やったね…と、口を動かした彼女。それは、私に大丈夫と言ってくれた時と同じく、優しく微笑んでくれていた。

「―、名前ーーーッ!!」

私の叫びと共に、光は小さくなって…消えていった。
凄まじい光の後で、目は夜の暗闇に慣れず、私の前に立っている人達の姿さえ、はっきりわからないくらいだった。
だけど、さっきまで辺りを支配してた恐怖は、もうない。
封印できた。…もう鬼斬丸は、消えたんだ。
厚い雲が徐々に晴れてゆき、月明りが私達を照らし出す。拓磨が、真弘先輩が、祐一先輩が、慎司君と卓さんに遼が。そして、アリアにフィーア。
少し離れた所に、アインとツヴァイの姿が。ドライに操られたであろう二人は、ただ呆然とその場に立ち尽くすだけで、嫌な気配は感じられなかった。

辛く、苦しい戦いが、終わった。
だけど…みんな、心からよかった…なんて言えない。
目の前にいる拓磨が、視線を落とし、下ろした拳をぎゅっと握っている。震えるその手を見ても、私は、何も言えない。言葉が浮かばない。

戦いが終わった。
鬼斬丸は、もうこの世から消えた。
私に、大丈夫だと優しく微笑んで勇気付けてくれた…名前の姿と共に――。

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