かに似てる気がする…


あの後、鴉取さんは学校に戻り、鬼崎君は傷を負った為、宇賀谷家の一室で休む事になった。私を庇って傷を負ったのだから、私が看病するよと言ったけど、寝てれば治ると言ってそれを拒否した。

「鬼崎さんの看病は私にお任せください。苗字様もお疲れでしょうからお部屋でゆっくりなさって下さい」

その間に服を洗濯しておくからと渡された浴衣に着替え、昨日今日と使わせて貰ったこの部屋に入った。
まさか、戻ってくる事になるとは思わなかったな。
入り口の向かい側の壁にもたれ、ゆっくり腰を落とした。
どうしてこんな事になったんだろう?あの時、バス停で眠らなかったら、こんな事にはならなかったのかな?

―貴女がこの村に来たのは、偶然ではないようですね

偶然じゃない…。こうなる事は、決まっていた…とでも言うの?…わからないよ…。封印とか鬼斬丸とか、カミ様とか…そんなの御伽話じゃないの?
整理のつかない頭を抱え、蹲った。
私…これからどうなるんだろう?
倒れる様に横に寝そべってぼーっと目は何を見るでもなく、ただ先に向けた。
ただ…ただ一つの救いは、珠紀や鬼崎君達が傍にいること。たった一人だったら…私は混乱して気が狂っていたかもしれない。でも、彼らが大丈夫だと…守ってやるって言ってくれた言葉が、私の不安を少し取り除いてくれた。だから…何があるのか凄く怖いけど…なんとかなるんじゃないかって思えたんだ。



***



いつの間にか眠っていたらしい私は、ガヤガヤと廊下からする話し声に目が覚めた。
…珠紀が帰ってきたのかな?
目を擦りながら重たい身体をゆっくり起こした。窓に目をやると空がオレンジ色に染まっている。
どれくらい寝ていたんだろう。夢をみないくらい深く眠っていたようだ。
着ている浴衣を直して廊下に出ると、玄関に珠紀の姿が見えた。珠紀だけじゃない、他のメンバーも勢揃いしている。

「皆、おかえり〜」
「名前!大丈夫だった?」

鴉取さんに話を聞いたのか、駆け寄ってきた珠紀は私の身体を心配してくれた。

「大丈夫。私はかすり傷程度だから」
「そっか…よかった」

そう言った珠紀が私の顔をみてクスッと笑った。

「…なに?」
「ほっぺた…畳の痕がついてる」
「うそっ?!」
「ほんとっ」

慌てて珠紀が指した方の頬に手を当て、ごしごしと擦った。恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じる。
…あのまま寝ちゃったんだもんね…そりゃ〜つくよね。…涎の痕とかついてないよね?!
慌てる私を、皆が笑ってみていた。その中に…寝ていると思っていた彼が立っているのに気づいた。

「…鬼崎君、起きてて大丈夫なの?」

何の違和感もなくそこにいた鬼崎君。私と同じく別の部屋で休んでたはずだけど…。

「言ったろ?大したことないって」
「………」
「…なんだよ、その顔は」
「…あれで大したことないとか…鬼崎君って…マゾ?」

真剣にそう言ったら、思いっきり頭を殴られた。私の言葉に鴉取さん始め、他の皆も笑ってたけど。
だって…あんな血出てたのに平気とかおかしいっしょ?!
殴られた頭を擦りながら顔を上げると…見た事ない顔が輪の中にいた。

「…その子は?」

私の視線の先にいる子は、黒く短い髪に可愛い顔をした…男の子…。うん…多分、鬼崎君達と同じ男子制服を着てるから男の子だと思う。顔だけ見たら女の子と間違うくらい可愛いんだけど…。なんか…誰かに似てる気がする…。

「あ、初めまして。犬戒慎司と言います。珠紀先輩達の後輩です」
「初めまして!私は苗字名前。よろしくね」

手を差し出すと、少し照れた様にその手をとってくれた。
…可愛い!ほんと…なんでこの集団は可愛いのとかっこいいのばっかりなんだ?!…ま、目の保養になるからいいんだけどさ…。

「では、犬戒君、珠紀さんは私と一緒にババ様の所に。みなさんは居間でお待ちを」
「なんだよ。俺らだけ仲間はずれか」
「あんまり大勢で行けば、ババ様が驚かれてしまうでしょう」

大蛇さんが諭すように言うと、鴉取さんはう〜んと唸った。

「大蛇さんは俺達のまとめ役だ。同席するのも当然だ」

弧邑さんの言葉に鬼崎君と鴉取さんがうんうんと頷く。では、と言って大蛇さんと珠紀、犬戒君が宇賀谷さんの部屋に向かった。私はその3人を目で追いつつ、洗面所で顔を洗ってから他の皆がいる居間へ向かった。

「…犬戒君って鬼崎君達と同じ…え〜なんだっけ…?」
「…守護者?」
「そうそう!その、守護者なの?」

居間の中央に置かれた大きな座卓を囲むように座る彼らに聞いてみた。
ババ様…宇賀谷さんに挨拶しに行くから、そうなのかな?って思って。

「さぁ〜な〜…ま、そうなんじゃねぇの?」

肘をついて机に視線を向けたまま鴉取さんが答えた。
何だかはっきりしない答えだな…。

「慎司は小さい時にこの村を離れて、今日戻ったところだ」
「あ、そうなんですか」

淡々と話す弧邑さん。

「じゃあ、久しぶりに友達が戻って来てよかったね!」

素直にそう思って言った言葉だったけど、3人は余りいい顔をしていない。

「…戻って来なかった方が…良かっただろにな…」

小さく呟いた言葉だったけど、私は鬼崎君の言葉を聞き逃さなかった。

「ちょっと!友達が戻って来たのに何でそういうこと言うの?!」
「…俺はそう思ったから言っただけだ」

キッと睨んだ私に悪びれもなく言う鬼崎君は、本当にそう思って言っただけなんだろう。
悪気も何もなく…多分彼らの持つ力が関係しているんじゃないか…ってなんとなくそう思った。鬼崎君の言葉に、いつも明るい鴉取さんも、ぼーっとしてる弧邑さんも難しい顔をして視線を落としていたから。
私もそれ以上、何も言えなかった。それを察した様に、居間の襖が静かに開いた。

「皆様、ババ様がお呼びですので、こちらへ」

襖に手をかけたまま、中にいる私達に声を掛けた美鶴ちゃん。
弧邑さんは無表情だが、私と鬼崎君に鴉取さんは何故呼ばれたのかは大体分かる。今日あった事を、これからの事を話す為だろうと…。
周りの3人が立ち上がり、居間を出ようとしても、私の重たい腰はなかなか上がらなかった。

「…名前」

鬼崎君に呼ばれ、頑なに落としていた視線をゆっくりと上げると、私を待つように3人が入り口に立っていた。
…行かなくちゃ…だめだよね。

「……」

覚悟を決めてゆっくりと腰を上げ、私を待つ彼らの下に足を向けた。


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