きな人いないの?


「う〜……っん!今日も良い天気っ!」

まだ低い位置にある陽に手を翳した。
昨日は皆が帰ってからお風呂入ってすぐ寝ちゃったから、目覚めも良くてすっきり爽やか!…ま、寝る以外する事なかったってのが正直な所だけど。自分の家だったら何かしらする事あるから暇はいくらでも潰せるんだけどね。
とりあえず、これから暫くはここにお世話になる訳だし、何もしないのも悪いって事で、何か仕事ちょうだい!って美鶴ちゃんに頼み込んで、境内の掃除を任された。
私がやりますから、苗字さんはごゆっくりしてて下さい。なんて美鶴ちゃんは言ってくれたけど、タダ飯食らって何もしないなんて、天国の両親にはり倒されるよ!って真剣に言ったら、

「…苗字さんって、面白い方ですね」

ってはにかみ笑顔で言ってくれたの!その顔がま〜可愛いくて可愛くて、朝から癒させて頂きました。…って、何か変態オヤジみたいな事言ってるな…私。さ、せっかく仕事もらったんだし!張り切って掃除しますか!料理は苦手だけど、掃除は得意だからと、一人腕捲りをして用意しておいた箒を手にとった。

「あ、名前。おはよ〜!」
「おはよ〜珠紀!早いね」

掃除を始めた所で玄関の方から制服姿の珠紀が姿を現した。

「早く目が覚めたから、散歩ついでに今日の運勢を引きにきたの!」
「運勢……あ〜おみくじ?」
「そっ!由佳もする?」
「やるやる!」

おばあちゃん達には内緒ね!と口の前で人差し指を立てた珠紀にOKと言って大きな御神籤箱を振ると小さな穴から一本の棒が飛び出てくる。その先に書かれた番号のおみくじがその人の今日の運勢になる。珠紀は大吉を引いてご満悦のようだ。
よし!私もいい運勢引き当てるぞぉー!

「…小吉」

…なんとも微妙な。なになに…

新たな運命が切り開かれ
る。個人行動に注意。諦
めず、前に進めば求める
未来が待っている。


ん〜…兎に角頑張れって事かな?にしても、もっと分かり易い表現で書いてほしいよね。
買い物に行ったらおばちゃんにオマケしてもらえるよ!とかさ〜。結構当たるんだよ!と言う珠紀と一緒に引いたお神籤を近くの木の枝に結びつけた。

「いい事がありますように!」
「名前、お御籤に祈っても…」

私の行動を苦笑しながら見ている珠紀。たかがお御籤だけど、今はそれにも縋りたくなるんだよね。

「さて、はりきって掃除するかな!」
「あ、私も手伝うよ。朝食までまだ時間あるし。お喋りしながら済ませちゃお!」

珠紀の提案に喜んで応え、裏の物置から箒を持ってきた彼女と色んな話をしながら境内の掃除をした。
お互いの学校の話や最近あった芸能人の噂話。それから、女の子のお喋りでコレは欠かせない話題だよね。

「珠紀って、好きな人いないの?」
「え?」

ニヤニヤしながら聞くと笑っていないよ〜って答える珠紀。

「でも珠紀の周り凄い豊作でしょ?」
「周り?」
「守護者の皆とかさ」

あれは大豊作でしょ。もしうちの学校にあの集団がいたら女子達が騒ぎまくりそう。

「あ〜…確かに顔はいいよね。でも好きとかはわからないな〜。どっちかって言うと兄妹…みたいな?」
「兄妹か…確かに鴉取さんとか弟っぽいよね」
「年上なのにね」

鴉取さんが聞いたらまた怒るから、この話はナイショね!って笑いながら言った。

「名前は?」
「ん?」
「名前は好きな人いないの?」
「私か〜…」

そうだな〜…なんて考えてる時点でいないんだけど、…でも…。

…俺達がいるから。心配するな。ちゃんとお前を家に戻してやるから

あの言葉は…嬉しかったな…。

「………」
「…ッ!な、なに?」

気がつくと、ニコニコ笑いながら私の顔を覗き込んでいる珠紀が目の前にいた。

「今誰の事考えてたの?」
「え?…別に、なにも!」
「ウソだ〜。あれは絶対好きな人の事考えてる顔だった!」
「してないしてない!好きな人とかいないし」

そんな口論をしながら、私が切り出したその話を打ち切る様に掃除を再開した。
そうだよ…別に好きとかじゃないよ。ただ、男の子に優しくされて…ちょっと嬉しかっただけだもん。うんうん!ただそれだけだ!
心内でそう自分に言い聞かせる私を余所に、珠紀はまだ笑いながらこっちを見ていた。



***



「いってきまーす!」
「いってらっしゃ〜い!」

玄関で美鶴ちゃんと一緒に珠紀を見送った後、美鶴ちゃんは掃除や宇賀谷さんの頼まれ事を済ませる為、家の奥へと姿を消した。
…さて、………どうしましょ〜かね〜…。予定がない…。
いつもの私なら今頃のんびり学校行く支度しながら、今日の授業なんだっけ…とか考えてるんだけど。そんな日常が急になくなると、人間何していいのか分からなくなるんだね。
あ、人間って纏めると他の人に失礼か。とりあえず、私は何をしていいか分からない。
まだ美鶴ちゃんが向かった方をぼぉ〜っと見ながら立ち尽くしている。
珠紀が帰って来るまで、ここでこうしている訳にもいかず、自室へ戻ってみるが、暇な事に変わりはない。

「…散歩にでも行くか…」

窓の外に青々と広がる空が見えてそう口にするが、昨日の出来事が脳裏に浮かび、少し躊躇ってしまう。
森に入らなければタタリガミに遭遇する事はないって言ってたけど…判っていたのに昨日は森に足を踏み入れてしまった。行きたくないって思ったのに、身体は意志に反して森の奥へと足を進めた。
本当に…なんなんだろう…。

「…はぁ〜。止めよう。考えたって解らないんだし」

嫌な事を吹き飛ばす様に身体を動かす。手始めに、一人でラジオ体操とかしてみたけど……なにしてんだ、私…って一通りやり終えてから思った。
…美鶴ちゃんに手伝う事ないか聞いてみよう。ゆっくりしてて下さいって断られそうだけど、このままじゃ嫌な事ばかり考えそうだし!

「…よしっ!」

小さく意気込んで、美鶴ちゃんを探しに自室を出た。



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