もう一かみ締めたかった


その後も、トランプ合戦が続いた!
ペットボトルに入ってたゴーヤージュースもすっからかんになって、そこでお開きになった。

「じゃあ、うち部屋に行くわ〜」

時計を見れば11時を回っていた。
明日も朝から練習がある皆は布団を敷いて、寝転んだ。皆疲れたのか欠伸をしている。

「お〜おやすみ」
「…名前、気ぃつけろよ〜」

凛君がニヤニヤして言って来た。

「…なにが?」
「名前の寝る部屋…出るらしい」

………で…でる…?

「…な、なにが?」
「さーなー」

何なん?!その意味あり気な言い方は!!で…でるって…まさか……。

「やめなさいよ、平古場くん」
「へいへい」
「…気にさんけ。冗談さ」
「そ…そうやんな!あはははっ!じゃ、じゃあうち寝るから!また明日ね!おやすみぃ〜」

静かにドアを閉め、暗い廊下に出た。
……何でこんな静かなん?!…ってうちしかおらんねんから当たり前やねんけど…ぅぅうぅぅうう…おらん!おらん!何もおらん!!
そう自分に言い聞かせながら足早に部屋に向かった。
部屋に入り、電気を点け、布団を敷いて寝転んだ。…電気を消そうとしたけど…消したら何か出そうで…。
…そうや…ここ学校やねんな……………あかん!怖くて眠れん!!…ちょっと夜風に当れば落ち着くかな…。
うちは体を起こし、静かにベランダに出た。



***



「苗字、大丈夫だば?」
「ん?何でさ?」
「あにひゃー、すっげぇちら青かったさ」

裕次郎が心配そうに言った。

「大丈夫さー。名前も20歳やっし」
「…そうだな」

軽く笑って布団に入った。永四郎が電気を消して、わったーは眠ることにした。
…でも、確かにでーじ青いちらしてたな…名前。1人で大丈夫ば?…って脅かしたのわんだけど…。…ちょっと様子見に……ん?
ふと外を見ると、隣の部屋から灯かりが見えた。
あにひゃー、まだ起きてるば?
わんは布団から体を起こし、ベランダに出てみた。外に出ると、1人ベランダに佇む名前の姿があった。

「…名前?」
「うわぁっ!!…って凛君か…びっくりしたぁ」

ビックリして少し後ずさりしてた。…ビックリし過ぎやっし…。

「寝れんば?」
「えっ…あはは〜まぁね」
「心配さんけ。何もでねぇから…って脅かしたのわんやしが…」
「あはは、ほんまやで〜」

静かに笑った名前。笑って、ゆっくり空を見上げた。

「うわぁ〜…めっちゃ綺麗やな〜」

満天の星空を見上げて感嘆の声を上げた。

「くんなの、沖縄じゃ当たり前やし」
「そうなんや!大阪やったらこんなぎょ〜さん星見えんもん」
「…ぎょーさん?」
「あぁ、沢山って意味。…フフッ、初めてやな、うちが関西弁教えるの。いつもうちが沖縄弁教えてもろてるから」
「…だな」

そう言ってまた星を見た。わんも一緒になって空を見た。
…そういや〜、こうやっていなぐと星見るの初めてやし。

「…今日は、じゅんに迷惑かけたさ。わっさんやー」
「…もう!まだそんな事言って!気にしすぎ〜」
「でも、名前怪我したやし」
「体に出来た傷はいつか治るものやの!だから大丈夫やって!」
「そっか…」
「そうそう!」

…何でかやー。名前と居ると心が安らぐのを感じる。
いなぐの隣に居るなんて、別に珍しくも無いのに…。タメの奴と違って名前はわったーを…包み込んでくれる感じがするからか?…くんなの初めてさ〜…。

「ん?どないしたん?」
「―なっ、何でもない!」

じっと名前を見てて視線に気付かれた。わんは恥ずかしくなって視線を外した。

「さぁ!そろそろ寝るんどー」
「そやね。明日も早いし!…凛君」

名前に呼ばれて顔を向けた。

「ありがとうな。凛君と話してたら落ち着いた。これでゆっくり寝れそうやわ!」

…あにひゃーは優しく笑ってくれた。

「別に…礼言われる筋合いないやー」
「えへへっ、でもうちが言いたいから言う!…えっと、にふぇーでーびる」

片言の様なうちなーぐちで『ありがとう』と言った名前。
…やしが、ありがとうって言われて…嬉しいと思ったのは初めてだった。

「じゃあ、おやすみ。明日も頑張ろうな!」
「…あぁ」

手を振って部屋の中に入って行った名前。
わんは、部屋の灯かりが消えるまでその場に立って、名前の入っていったドアを見ていた。
わんも部屋に入って寝なきゃならんに…名前と話した事を…もう一度かみ締めたかった。

「……名前…」

わんが小さく呟いたその声は、海から吹いてくる風に流されて行った。

しおり
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