く風邪を治さないとね


あれから、苗字は眠ってしまった。
いつも元気な苗字が弱ってると、何か調子狂うやー。
わったーは苗字が起きた時に何か食べさせてやろうとキッチンへ向かった。

「風邪の時って、何食べさせればいいんだ?」
「やはり、お粥ですかね?」
「具とかどうするば?」
「…梅干?」
「ニラがいいっておばぁが言ってたんど!」

色々話して、男4人で料理が始まった。自炊する術は叩き込まれてるけど、病人食は別。何食わせていいか分からん。
とりあえずニラ粥を作る事になったけど、4人で作る料理でもねーし、じゃんけんで知念がお粥作り担当、木手と凛が買出し担当。
で、わんは苗字の看病係になった。

二階へ上がり、苗字の部屋のドアをゆっくりと開けて中を覗くと、あにひゃーは静かに寝息を立ててた。
わんはベットの横にある椅子に腰をかけて苗字を覗き込んだ。
真っ赤なちらして…本土とうちなーじゃ気候が違うやし、体調崩すのも無理ないさ。
…1人見知らぬ所に来て、何であんな元気でいれるば?
わんは苗字の頭を擦った。

「……ん…」
「あっ、悪ぃ。起こしたか?」
「ううん…いいよ。……甲斐君の手……冷たくて気持ちいい」
「そ、そっか」

ぃやーの体温からしたら、たーの手だって冷たく感じるって。
そう思いながら頭を撫でる手に力が入る。
…何でこんなに緊張するば?…いなぐの頭撫でるなんて…別に初めてでもないあんに…。

「…っな、何か食べるか?一応、知念がなまお粥作ってけど」
「…うん…お粥食べる…」

舌ったらずで喋る苗字がやけに色っぽく見えてしまう。
……ッッ何考えてるば?!わん!

「……甲斐君……」
「あぃ!ぬ、ぬーやが」
「……ありがとうな……お見舞い来てくれて……」

目を瞑ったまま、呟く様に言った。

「…うち……ほんまは…寂しかってん…ここに…来た時……」
「……」
「…でも、……迷子になった時…汗だくになって探してくれた事……ほんまに…嬉かってん…うちは、1人やないんやなって……思えて…」

ゆっくりと…瞼を開け、わんの方に目を向けた苗字。

「…ここで、甲斐君達と出会えて……ほんまに嬉しい……だから……にふぇーでーびる…」

虚ろな目で優しく笑う苗字。
『ありがとう』って言う言葉が、じゅんに嬉しくて――。

「わんも……名前に逢えて……よかったさ」
「……うん。…ありがとう……裕次郎君」

わんの名前を言った名前は、また瞳を閉じて眠りに就いた。
その姿をみて――てーじかなさんさ…思った。



***



眠りから目を覚ますと、裕次郎君がうちの手を握ってベットに寄りかかって寝ていた。
うちの傍に…おってくれたんや。…ありがとうな。
裕次郎君の髪にそっと触れてみる。…寝てる顔は…やっぱ幼くて可愛い。
そう思った時、部屋のドアが叩かれた。返事をしたら、木手君と凛君が果物持って、知念君が小さな土鍋を持って入って来た。

「くら、裕次郎!何寝てるさー!」

凛君が裕次郎君の頭をスパン!といい音をたてて叩いた。

「あぎじっ?!ぬーがや!……って、わん寝てた?」
「みたいやね」
「あぃ!いつのまに…」

真っ赤な顔をして頭をかく裕次郎君。

「苗字さん。体調はどうですか?」
「寝たら少しマシになったわ〜」
「…お粥作ったさ。食べれ」

棚にゆっくりと置いた土鍋。蓋を開けると良い匂いが漂ってきた。すごく美味しそうや!

「体力つける為に、食べた方がいいですよ」
「果物もあるんどー」
「うん、頂くわ〜!ありがとう」

知念君が作ったお粥を凛君が食べさせてくれた。
マジ恥ずかしかったけど、わんが食わすっつって聞かなかった…。
お粥は凄く美味しくて、知念君にありがとうって言ったら照れてた。

「では、そろそろ帰りましょうか。俺達が居ては休めないでしょう」
「そうだな」
「何かあったらいつでも連絡しろよ?」
「わったー飛んでくーさ!」

そう言って立ちあがった皆。

「今日はほんまにありがとう」
「いいんですよ。次会う時は元気な顔を見せてください」
「お粥、下にまだ残ってるから、腹減ったら食べれ」
「うん、ありがと」

ドアがゆっくり閉められ、去って行く足音を聞いていた。
少し寂しかったけど、元気になってまた皆と遊びたい。だから、今は早く風邪を治さないとね!

その日の夜、田仁志君からメールがあった。

『風邪引いたらとにかく食べろ。食べれば元気になるやさ!』

田仁志君らしい文章に笑ってしまった。

『うん!モリモリ食べて元気になるわ!…ありがとうな…』

送信…っと――。


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