何か歌、おうぜ!


うちは暑さで目を覚ました。汗をかいて体温は少し下がったけど…やっぱりまだ熱はあるのか頭のボォーっとする感覚はなくならない。
体を起こし、汗で濡れたTシャツを着替えようとクローゼットへ向かう。
時計に目をやれば夜中の2時。
…皆が帰ってすぐ寝たから…結構長い間寝たなぁ。…にしても…暑いな…クーラーかける訳にもいかんし…そや、ちょっと風に当たってみよ。
思うように上がらない足を引きずりながら、廊下に出た。

真っ暗な廊下にテラスの窓から月明かりが入ってきてる。窓をゆっくりと開けると、潮風がさっと中に入ってくる。肌にあたる風がとても心地いい。
柵に手を置き、少し欠けた月を見上げた。目を瞑って耳を撫でる風の音を聞いた。…聞こえるのは、風と波の音だけ。

…静かやなぁ。…夜中やし、当たり前やけど…。皆は…もう寝てるんやろな…。
柵に額を当て、小さく溜め息をついた。
…体弱ってると……あかんな…。独りやと……キツイわ。人恋しいって…こう言う事なんかな…。
頬に…一筋涙が流れた。
…寂しい…誰か……傍におってほしい…。
声を殺して…その場に蹲った。…泣いたってしゃーないやん。そう自分に言い聞かせて立ち上がった。
…寝よう。…寝てしまえば…大丈夫。

部屋に戻り、ベットに倒れ込んだ。…目を瞑ってもなかなか寝れない。
うちは枕に埋めた顔を少し横に向け、ベット横の棚に置かれた携帯に手を伸ばした。

『何かあったら、いつでも連絡しろよ』

裕次郎君の言った言葉を思い出した。
…いつでも…って言っても今は迷惑やんな。
着信履歴を見ながら溜め息ひとつ。
…でも…もしかしたら起きてるかも…。
変な期待をし、通話ボタンを押した。
…って、起きてる訳ないよな…明日も部活やろうし。
1コールもしないうちに電話を切った。
携帯を棚に戻し、布団を頭まで被って寝ようと羊を数え出した時だった。

ピピピピピ…ピピピピピ…

被ってた布団から勢いよく顔を出し、携帯に手を伸ばした。画面には『甲斐裕次郎』と出てる。うちはゆっくりとボタンを押した。

「……もしもし」
『名前?ちゃーさびたさ、くんな時間に。何かあったば?』

裕次郎君の声を聞いた瞬間、抑えていた寂しさが一気に溢れ出した。

「……っ…ゆぅ…ろぅく……」
『あぃ?!…名前、泣いてるば?何があったさ!』

いきなり泣き出したうちに驚いた声で聞いてくる裕次郎君。

「…ぅじろ…くん……っっ」
『大丈夫か?苦しいんば?』

首を横に振るが、携帯だから見える訳がない。

「ごめ……こ…な夜中に…〜でんゎっ…」
『いいってそんな事』

なかなか言葉が続かないうちの電話を、裕次郎君は心配そうに聞いてくれる。

『…名前』
「……っん?」
『何か歌、唄おう!』
「う…歌?」

いきなり言った裕次郎君。…何でいきなり歌?

『いいから!何か唄おうぜ!』
「唄うって…なにを?」
『そうだな〜…じゃあ島唄!知ってるば?』
「…うん」
『じゃあ、唄うんど〜!』

そう言って裕次郎君は電話越しに唄い出した。うちも一緒になって唄った。唄ってるうちに涙が引いていき、心が落ち着いていった。

歌を唄い終えて一息ついた時だった。

『名前、テラス出てさ〜』

…テラス?
ベッドから降り、部屋のドアを開け廊下に出た。

「…ゆ…裕次郎君」

廊下からテラスを見ると、柵に腰を乗せた裕次郎君が手を振っていた。うちは急いでテラスに出た。

「ど…どうして」
『言ったやっし。何かあったら飛んでくーってさ』

目の前に居るのに、携帯で話すうちら。やっと耳元に添えていた携帯を下ろし、お互いの顔を見た。
…ビックリと嬉しさでひいていた涙がまた溢れ出してきた。

「ははっ、ぃやーじゅんになちぶさやさ」

裕次郎君がうちの顔を覗き込んで笑って言った。

「…うるさい〜不法侵入者〜」
「仕方ないやし、玄関鍵かかってんだから」

うちの言葉にも笑顔で返してくれる。
ほんま…どっちが年上か分からんよな…でも、ほんまに嬉しくて涙を止める事はできんかった。

「うり、まだ熱あるやし!中へーるぞ!」

額に当てた手を肩にのせ、一緒に中に入った。ベッドに寝転び、裕次郎君が布団を被せてくれた。

「んで、ちゃーさびたさ」

椅子に座ってうちに話し掛けてくれた。

「…大した事ちゃうねん…ただ…少し寂しくなって」
「そっか。いきなり泣き出すから何事かと思ったさ」
「ほんま…ごめんな。こんな夜中に」
「んやっ」

体を前に出して、うちに顔を近づけてきた。

「さびさんなら、いつでもわんを呼べばいいさ。ぃやーが寂しくなくなるまで、傍にいてやんよ」

心臓の高鳴りが聞こえた。
…中学生なのに…彼氏でもないのに…なんでそんな言葉をかけてくれるん…?
恥ずかしさと嬉しさで、また涙が溢れる。この気持ちを何て表現すればいいんだろう…。
――ただ…今は――

『ありがとう』

そう言いたい。



***



それから2人で話をした。裕次郎君の話。うちの話。話疲れて寝てしまうまで、傍におってくれた。
寝て…次目覚めた時、裕次郎君はおらんかった。…でも…全然寂しくはなかった。裕次郎君と話してた楽しい時を、夢の中でも過ごす事が出来たから。

「…そや!木手君に、裕次郎君が部活に遅れても怒らない様にメールいれとこ!」

それと…裕次郎君に、お礼メールも送っとかなな…。
うちは笑顔で携帯に手を伸ばした。

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