あれ、れてたん?!


あれから2日。やっと風邪が治った!裕次郎君が来てくれた次の日には熱も引いててんけど、体力落ちたみたいで、どうにも動く事ができんかった。
その間も、皆がお見舞いに来てくれた。だから…全然寂しくなかった。
そして…体力も戻り、完全復活したうちは――

「海に行きたあぁぁあい!!」
「あぃ?!ぬーがいきなり…」

いつもの様に部活帰りに遊びに来た皆は、いきなり発したうちの言葉に驚いていた。

「だって夏やで?!夏と言ったら海やろ!うち、自分の世界じゃ働き通しで今年は1度も海行ってへんねん」
「別に夏じゃなくても、海は入れるやっし〜」
「ここと大阪は全然ちゃうの!せっかく沖縄来たんやし、この綺麗な海に1度は入れらな勿体ないやん」
「勿体ないって…」

拳を固めて力説するうちに皆は苦笑している。それでもうちは続けた。

「とにかく、うちは海に入りたい!…よし、明日行く!思い立ったら即実行や!」
「風邪が治って元気になったと思えば…それでまた風邪ぶり返したらどうするんですか?」
「いけるいける!十分休んだし。ずっと寝てたから動きたいねん!」
「んじゃ〜わんも一緒に海行くさー」

裕次郎君がはーいと左手を上げて言った。それじゃあと、凛君も参戦。

「でも、明後日から全国大会行くんやろ?前日は体力温存しとかなばてるで?」

そう、皆は明後日から全国大会の為東京に行く。
前日は体を休めるため午前中で練習は終わりって聞いてたけど、だからこそ、ゆっくりしとかなあかんやん!

「そんな事でバテる訳ないやっしー」
「ぃやー、1人で行く気か?思ってるより海は危険だぜ?」
「怪我をするのが目に見えますね」
「だから、一緒に行くさ」
「うちなーの海はわったーに任せろ!」

皆、付いて来る気満々だ…。
確かに1人で海は寂しいな…ってかイタイ子?皆と一緒なら色々教えてもらえそうやし…。

「よし、じゃあ明日皆で海水浴や!部活終わったらここ集合な。昼飯作っといたるから!」
「お〜!ぬー作ってくれるんば?」
「……ゴーヤチャンプル?」
「「うえっ、ゴーヤーは勘弁…」」

同じ顔をする裕次郎君と凛君。
仕方ないので、明日は別のメニューにするか。ってか、うちもゴーヤージュース以来ゴーヤー苦手になったし…。



***



そんなこんなで――やって来ました!海ぃぃぃぃいいい!!
青い空、白い雲、照りつける太陽、そして周りにはカッコイイ男の子達!…何かのキャッチフレーズみたい。
部活を終えた皆と昼食を食べ、一同海にやって参りました。沖縄の海って言えば珊瑚礁とか、イソギンチャクとかあまり見れないものが見れるんやんな?今からめっちゃ楽しみや!

「よっしゃぁぁ!泳ぐでー!」
「その前に準備体操しなさいよ?海の中で足でもつったらどうするんですか」
「あっ、そっか。よ〜し、1・2・3・4、5・6・7・8っと」

皆もうちの声に合わせて準備体操をし始めた。
十分体操したし…さぁ、夏を満喫しようではないか!
うちは海に向かって走り出した。

「うわ〜!冷たくて気持ちいい!」
「遊びで海入るのは久々やっし〜!」
「そうなん?毎日入ってるもんやと思っとった」
「早乙女のスパルタでならほぼ毎日入ってるけどな…」

あ〜、あの監督ね。だから『遊びで入る』のは久々なんや。

「よ〜し!名前、どこまで泳げるか競争しようぜ!」
「遠泳?!無理無理!うち最高50m位しか泳いだ事ないし!」
「そっか…なら、いい物見せてやんよ!ついて来ちみ〜!」

うちは裕次郎君、凛君に付いて泳いだ。
でも…2人とも泳ぐの早っ!さすが海っ子。都会っ子のうちの体力と君らの体力一緒にしたらあかんて…。

「ゆっくり行けばいいさ。わん、一緒に泳いでやるやし」

うちのペースに合わせて知念君が泳いでくれる。こういう優しさ、知念君らしいよね…。
少し先で、裕次郎君、凛君、木手君に田仁志君が待ってくれていた。

「ここさ〜」
「いっぱい息吸い込むんど!」
「分かった!」

うちは大きく息を吸い込んだ。それと同時に凛君がうちの手を引いて海の中へ潜って行った。うちらが潜った先にあったのは、紅く彩る綺麗な珊瑚礁だった。
海が綺麗だから、ゴーグルを付けてなくてもはっきり見える。珊瑚礁から見たこともない色とりどりの魚達が顔をヒョコっと出してる。太陽の光を浴びて、キラキラ光って泳ぐ魚を見て、宝石の様だと感じた。
うちは息が苦しくなってきて、1度海面に顔をだした。

「…凄くキレイ!めっちゃ感動した!」
「ちゅらさんばーよ。うちなーんちゅしか知らない所やし」
「魚もキラキラしてて、可愛かった!もう1回行こう!」
「よーし、行くんどー!」

そう言って、また海へ潜った。
何度みても飽きる事はない。見る度に、姿が変わって見える。
こんな綺麗な所を泳いでいると、まるで人魚にでもなった感じ。

その後も、何度か海面に上がっては潜りの繰り返し。もっと肺活量あればよかったのに…。皆、平気な顔して潜ってる…。うちは結構必死なんですけど…。やっぱ現役離れて数年経ってるからな〜。
普段見れないものを沢山見れて大満足したうちは、少し休憩しようと浜辺へ上がった。

「は〜、いい目の保養ができたな!」

海辺にある大きな岩に腰を下ろして、まだ海で泳いでいる皆を見ていた。
裕次郎君、凛君、田仁志君は遠泳競争してて、知念君と木手君はさっき潜ってからまだ出てこない。
……まさか溺れてたせーへんやんな?
うちが心配してるのが伝わったのか、ひょこっと2人が海から顔を出して、うちのおる岩場までやってきた。

「長い間潜ってたな〜」
「この位、俺達なら何てことないですよ」
「監督のスパルタに比べたらな〜」

…海には監督のスパルタ思い出が満載なのね…にしても――

「木手君って、髪の毛下ろすと雰囲気変わるよな?」
「そうですか?」
「うん!かっこいい!」
「……それは、普段の俺はかっこわるいと言いたいんですか?」

髪をかき上げ、溜息混じりに言った。

「ちゃうちゃう!普段もかっこええけど、それとはまた違うかっこよさ?」
「…よくわかりませんね…」
「とにかく、似合ってるって事!」
「……そうですか……」

一言そう言ってまた潜ってしまった。…怒らせた?

「照れてる木手、初めてみたさ〜」

えっ!あれ、照れてたん?!……もっとじっくり見とけばよかった。

「おーーーい!!」

向こうから3人が泳いでくる。結局誰が1番やったんかな?

「誰が1番やったん?」
「もちろん、わんが1番やさー」

得意げに言う凛君。2番が裕次郎君で、最後が田仁志君だったらしい。

「あ、名前。手ぇ出してみ?」
「手?」

言われた通り手を出すと、その上に裕次郎君が手を乗せて来て、掌に何か置いた。
見ると、淡いピンク色をした小さな巻貝だった。

「うわ〜…キレイ……」
「泳いでる途中で見つけたんさ。中見たら空だったから名前にやろうと思って」
「嬉しい!ありがとう、裕次郎君」

照れて頭を掻く裕次郎君。

「じゃあ、わんも何かないか探してくるかな〜」
「よし、じゃあ宝探しでもするか?たーが一番名前が喜ぶ物を探してこれるか」
「面白そうですね。俺も参加しましょう」
「…わんも」

結局皆で宝探しゲームが始まった。うちの合図で一斉に海に潜り込んだ。
うちは上から皆を観察しようと、少し高くなった崖の所に登った。

「皆は〜…あ、あそこに誰かいる!…あれは…田仁志君かな?」

他の皆は沖まで行ったんかな?姿が見えないや。
崖の先端で足を下ろして座った。視線を上げれば水平線に浮かぶ入道雲。うちは思いっきり背伸びをした。
う〜〜ん!気持ちいいなぁ!風がいい感じに吹いてくるし。
うちは手に持っていた巻貝を太陽に照らし合わせてみた。淡いピンクが七色に光ってめっちゃ綺麗や。

「おねぇちゃ〜ん、1人ぃ?」

ん?うちか?
視線を後ろに向けると、褐色のいい肌をした歳の近い男の人2人が寄ってきた。

「何か用ですか?」
「あれ?君地元の子じゃないの?」
「…まぁ」

話をしながら笑顔でうちの後ろまでやって来た。

「俺達も観光で来たんだ〜!一緒に遊ぼう」

肩に手をのせ、馴れ馴れしく話しかけてくる。…正直うっとおしい…。

「うち連れおるから無理。他当って」
「おっ、関西弁!俺関西弁の女の子って好みなんだよね〜」

知らんわそんなん!

「…それはどうも」

うちはこれ以上話しかけんなってオーラをかもし出して海に顔を向け直したが…。

「だからさ〜一緒に遊びたいんだよね〜!遊ぼうよ!」

…こいつらは空気を読めんらしい。

「それに、連れって言ったけど見当たらないし、連れさんが来るまで俺達と一緒に泳ごうよ」
「ほっといて!」

肩に置かれた手を払いのけた。

「…っ、なぁ…ちょっと態度悪くねぇ?人と話す時はちゃんと顔見ましょうね〜」
「ちょっ、触んな!」
「あぁ?!調子づいてんじゃねぇよ!!」

無理やり腕を掴まれてカッとしてしもた。それにキレた男達は掴んだ手に力がこもる。

「ぃっ、離してって!」

勢いよく腕を振り払った時だった。…持っていた巻貝が手から離れ、海へ落ちていく。

「あっ!!」

裕次郎君がくれた巻貝!…そう思った時、うちは考えるより先に体が動いて…落ちていく巻貝目掛けて、飛び降りた――。

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