中ーー!ファイオーー!


「プハッ!…へへっ、いいの見つけたさー」
「凛、何か見つけたか?」
「まーなー」

そう言って名前の居た岩場に目を向けたが…名前の姿が見当たらない。

「あぃ?名前いないな」
「どこいったば?あにひゃー」

海辺を見ても見当たらない。少し視線を上に向けると、名前がいた。
…男2人が名前の後ろに立ってる。

「…たーか、あの2人」
「…さぁ。…ナンパか?」
「…あったー」

平古場と甲斐は名前の下へ行こうと岩場へ向かって泳いでいた。
――その時だった。
名前が海の方を見て何か言った。
その先にはキラリと光る物が見てた…その瞬間、名前がその光る物目掛けて飛び降りた。

「「名前!!」」

平古場と甲斐が声を揃えて名前を呼ぶが、聞こえる訳もなく、名前は水しぶきを上げて海に落ちた。
2人は急いで名前の落ちた所へ向かい、泳いだ。



***



ピンクの巻貝を掴んだ…と思った瞬間…目の前に海が広がっていて…一瞬にして海に飲み込まれた。
結構高くから飛び込んだから、体が深くまで沈んで行く。それに影になってるから、上と下が分かり難い。
海に入った時に海水を飲んでしもて…だんだん苦しくなってきた…
――やばい……い………き…が……。
もう駄目だ…そう思った時…誰かに腕を取られ、薄く瞼を開けると…
――り…んくん……ゆ…じろう…く…ん……
幽かに見える見える2人の顔…凄く真剣な顔…してる…。
助けに…来てくれたんや―。
凛君に抱きかかえられ…うちは海面に顔を出す事が出来た。

「ゴホッ!ゴホッ!!」
「名前!大丈夫か?!」
「う…ゴホッ…うん。だいじょ…ぶ」

砂浜に座って呼吸を整える。
凛君と裕次郎君が焦った顔をして覗き込んでくる。
…ほんま…死ぬかと思った…。

「何があったんば?自分から飛び込んだように見えたが…」
「え…あぁ。…これ、海に落ちちゃって…それを取ろうと…」

手にしっかり持った淡く光る巻貝を2人に見せた。

「これが…落ちたから飛び込んだ…って言うんば?」

裕次郎君が呟く様に言った。凛君は大きく溜息を付く。
その時、海から他の3人が浜辺に上がって来た。

「何があったんですか?」
「苗字…大丈夫ば?」
「あ、うん。大丈夫!ちょっと――」
「この、ふらぁぁああーーー!!」

うちが3人に説明しようとした時、裕次郎君がいきなり叫び出した。
うちも皆もびっくりして一斉に裕次郎君を見た。

「ゆ、裕次郎く――」
「何考えてるば?!もしかしーね死んでたかもしれんだのに!こっちはどんだけ心配したと思ってるば!!」

…こんな怒った裕次郎君、初めて見た。

「ご、ごめんなさい。でも、貝無くしたくなかったから―」
「そんな貝どこでもあるやっし!後先考えずあんな事さんけ!のーぱーあらに!」
「おい、裕次郎。それは言い過ぎやし」
「…っ!」

凛君が裕次郎君の前に立つと、裕次郎君が舌打ちをしてどこかへ行ってしもた。

「裕次郎君…」
「…はぁ〜…」
「…なぁ…何があったんば?」

蚊帳の外だった3人に事情を説明すると、3人も凛君と同じ様に大きな溜息を付いた。

「それは…甲斐君が怒っても仕方ないですね」
「た…確かに心配掛けたのは悪かったと思うけど…」
「…甲斐は、責任感じてるんじゃないか?」
「…責任?」

知念君の言葉が分からず聞き返した。

「苗字、甲斐のあげた巻貝取る為に海に飛び込んだんだろ?」
「うん…」
「もしそれで苗字に何かあったら…甲斐がどう思う?」

…あっ――。

「とりあえず、なだぐるぐるあらに?」
「あははっ、見てみたい気もすっさー」
「…とりあえず、もうこれからはそんな無茶しないで下さい」
「…じゅんに。寿命縮まったさー」

ホンマやな…あの時は取らな!思て何も考えてなかった…。
うちがもし裕次郎君や皆のの立場やったら――。

「うち…ほんま…ごめんなさい。…それから、ありがとう。心配してくれて」

うちが笑って言うと、やっと皆も柔らかく笑ってくれた。

「…うち、裕次郎君探してくる!」
「そうですね。彼なら、多分向こうの浜辺にいますよ」

木手君が指で指した方を見た。今うちらがいる浜辺から岬を挟んだ向かう側に、もう1つ小さな浜辺があるらしい。
うちは走って裕次郎君の下へ向かった。


岬を越えて行った先に、裕次郎君はいた。1人浜辺に座って海を見ている。
うちは裕次郎君の横にちょこんと座った。

「…綺麗やな…海」
「…あぁ」

お互い、海に目を向けたまま話した。

「…さっきは…わっさんやー……わん、言い過ぎた」
「…ううん。…うちこそごめんな。後先考えんと行動してた…心配かけてごめんな?」

2人顔を見合わせて微笑んだ。

「それから…ありがとう。必死に怒ってくれて」

それくらい…うちの事心配してくれたんやもんな…?

「別に…お礼言われる事やあらんに…」

照れて言う裕次郎君が可愛くて、頭をくしゃくしゃにしてやった。裕次郎君は嫌がってたけど―――うちらは笑ってた。

「…仲直り、出来たみたいやし」
「全く…世話がやけますね」
「…そうだな」
「じゃあ、また泳ぐか!」

皆がうちらの周りに集まって、また海に入った。
田仁志君の背中に乗って泳いだり、凛君と裕次郎君に手をひいてもらって泳いだり、知念君と木手君に面白い魚見させてもらったり――。

時間はあっという間に過ぎて行って、気がつくと、夕陽が水平線に沈もうとしていた。
うちらは浜辺に座って、夕日を見ていた。
日が沈んで、次に太陽が顔を見せた時、皆は全国へ旅立つ…。
皆…今、どんな気持ちでこの夕日を見てるんだろう……きっと皆、同じ事考えてるんだろうな……。

『全国で優勝―――』

それだけを考えて、毎日練習してきたんだもんね。

「明日やな……いよいよ……」

うちの言葉に、皆が頷く。

「絶対、優勝してやるさ…」
「うちなーの力を全国に…」
「それが…わったーの目標さ……」

皆、夕日を見たまま喋る。その一言一言に彼等の想いが感じられた。
うちは立ち上り、波打ち際まで走って夕日めがけて叫んだ。

「比嘉中ー!全国優勝するぞーー!!」

そう言って振り返った。皆もふっと笑ってうちの横まで走ってくる。

「待ってろよ全国!!わったーの力見せてやるんどーー!!」
「名前の為に優勝旗、持って帰って来ぅさーー!」
「打倒!やまとんちゅーー!!」
「うおぉぉぉぉおお!!」

皆思い思いの事を夕日に投げかけた。

「ほら、木手君も一緒に!」

そう言って木手君の手を取り、皆の所まで引っ張っていった。

「…明日から、わったーの時代がちゅーさ。力出し切っていくやさ!!……苗字さんの為にね」

不意にそんな事を言われ、顔が熱をもっていくのが分かった。
皆も木手君の言葉に、おーー!!っと声を上げた。



***



出発の日――。
皆は学校からバスで空港へ向かう。うちは皆の見送りをしようと、学校まで来ていた。

「頑張ってきーや。全力出して戦っといで!」
「おう!」
「また、東京着いたら電話するさ!」
「…寂しかったらいつでも連絡すればいいさ」
「まーさん物作って待ってるば〜よ」
「うん!」
「…では、行ってきますね」

そう言って、皆バスに乗り込む。
バスの窓から身を乗り出して手を振る皆。どんどんと遠くに行くバスに、うちはエールを送った。

「比嘉中ーー!!ファイオーー!!」

遠くに見えるバスからエールに応える声が聞こえた。

「頑張れっ、皆。…うちはここから、応援してるからな……」

淡く光る巻貝をぎゅっと握りしめ、皆を乗せたバスが消えるまで、うちはその場に佇んでいた。皆の勝利を願って――。

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