夏と言えば花火やろ!


皆を見送っから何度かメールや電話があった。

『東京着いたさー。車ばっかで空気が悪いさー!』とか、『初戦の相手決まった。千葉の六角って所。わったーの実力見せてくるばーよ!』とか、マメに連絡をくれる。
初戦はストレート勝ちしたらしい!うちも皆におめでとうメールを送った。

そして、皆が旅立って5日目の日――
東京の青春学園に負けた…と、メールが来た。

うちは、何て返事をしたらいいか分からなかった。
…皆、あんなに頑張って全国へ行ったのに。…でも、ここでうちがしょげてたらあかんよな。皆はもっと辛いんやから。



***



負けたとメールが来てから3日――皆は沖縄に帰ってきた。うちは、空港まで皆を迎えに行った。

「負きたさー」
「やっぱ、全国は広ぇやー」
「また1から出直しさ…」
「あ、これ!東京土産!東京ばなな。結構まーさんさ!」

思ったより元気そうな皆の姿。
…うちに気を使ってくれてるのかな…。悔しいはずやのに…笑顔で話してくれる事が、辛かった。うちも皆には笑顔で応えた。

その後、バスで学校まで戻り、そこで解散となった。皆、笑顔やったけど言葉は少なかった。
…そりゃそうやんな。元気でいる方が不思議やもん…。でも、このまましょげてる皆を、うちは見ていたくなかった。
だから、家に戻ってすぐ皆にメールを送った。

『夜9時に、この前皆で行った海に集合!!』



***



「名前、くんな時間に呼び出してどうする気ば?」
「…海に入る…て事じゃないよな?」
「流石の苗字さんでも、それはないでしょう」

言われた通り、浜辺に集まった5人。でも呼び出した本人はまだ来ていない。

「にしても、苗字遅いな…」
「何してるさー」

皆、浜辺に座りこんで彼女が来るのを待っていた。

「おーーいっ!ゴメン、遅くなった!」

その声に振り返ると、両手に大きな袋とバケツを持った彼女が皆に向かって走ってくる。

「名前、遅さよ〜!」
「ってか、何持ってるば?」

駆け寄ってきた彼女に平古場と甲斐が尋ねた。彼女はにこっと笑って持っていた袋を皆の前に差し出した。

「花火しよう!」

そう言って、袋の中から大量の花火を取り出した。

「夏と言えば花火やろ!」

呆然としていたが、彼女が励まそうとしているのが分かり、皆も次々に花火を取り出した。


「うわ〜、めっさキレイ!あはは〜それーー!」

赤・黄色・青…色とりどりの光を放つ花火を両手に持ち、浜辺を駆け回った。

「走り回るとこけますよ」
「お母さんみたいな事言ってないで、木手君も花火しなよ!」
「お母さん…」

眼鏡に手を置き、かけ直して溜息を付く木手君。

「こらっ、平古場!わんの方にロケット花火向けるな!」
「デブだから当たってもなんくるないさぁ〜」
「ならんやさ!!」

田仁志君の叫びも聞かず、ロケット花火に火を点け、一気に田仁志君目掛けて発射された。
でもそれをかわしちゃうのが凄い!田仁志君って…何気に身軽やんな…。

「これ100連発だとよ。これしようぜ!」
「あそこに置くか…」

皆、花火に次から次へと火を点けて楽しんでる。うちも夢中になってはしゃいだ。
あんなにいっぱい有った花火も、後は線香花火だけになってしもた。

「〆はやっぱ線香花火やんな!」
「にしても、沢山ありますね」
「100本位あるんじゃね〜か?」
「こんなの、1本1本してたら時間かかるやし」
「…じゃあ、6本だけ残して〜…残りを6つに分ける…と」

はいっと皆に線香花火の束を渡した。

「よしっ!じゃあこれで誰が一番長くもってられるか競争や!」
「これ…一気にか?」
「そやで!元気玉作るでぇ!!」
「ってか危険やっし〜!」
「大丈夫!ちょっと火傷するだけやって。なんくるないさぁ!」
「…こういう言葉は直ぐ覚えるんですね…」

文句を言う皆。そんなの気にせず蝋燭の周りに皆を座らせる。
いっせいの〜で!で線香花火に火を点けた。皆の線香花火から勢い良く火が上がり、それが徐々に球状になっていく。

「あははっ、出来た〜!元気玉〜」
「あぎじっ!落ちる落ちる!!」
「ってか火花強っ!」
「線香花火って、こんなのでしたっけ…」
「…違うな…」
「だぁぁ、落ちたさ!」

大玉線香花火は一瞬にして落ちてしまった。そりゃ、あんな球でかかったらすぐ落ちるわな…。

最後にうちらは本当の線香花火をした。
小さい火花が6つ。パチパチとかわいい音がうちらの間に響く。

「きれいやな…」
「だな〜」

言葉少なに、火花を見つめる。

「なんか、…暖かい光ですね」
「じゅんにな…まるで名前みたいさ」
「えっ…?」

そんな事を言われて驚いた。

「なっ、な〜に言ってん!褒めすぎやって〜」

照れて笑ううち。冗談やって〜って言うのかと思ったけど、皆は優しく微笑んで見てた。

「じゅんに、にふぇーでーびる」
「花火したの、わったーを元気付ける為だろ?」
「えっ、べっ別に…」
「苗字さんはすぐ顔にでますからね」
「わかりやすい」
「ゆくしつけんば〜、ぃやー」

うちは頭を掻いた。ちょうどうちの線香花火が消えて、うちはゆっくりと立ち上がり、海辺へ歩いて行った。

「全国は…まだ終わってない…」

皆も花火を終えて、うちの傍に寄った。

「中学での全国は確かに終わったけど…でもまだ高校がある」

うちの言葉を皆は無言で聞いてくれてる。

「もし、別々の高校に行っても、全国を目指すって事は一緒。目的も…」

うちは振り返り、皆の顔を見た。

「…うちなーの力を全国に…な!」

そう言って笑ったうちを、裕次郎君がぎゅっと抱き締めた。

「そぅさ〜…次は必ず優勝するさ」
「まだ諦めた訳やあらんさ〜」
「借りは、利子を付けて返さなくてはね」
「みてろよーー!やまとんちゅー!」
「うちなーの底力、みせたるんどーー!!」

叫ぶ凛君と田仁志君。うちは、泣きたくなかったのに涙が出た。
うちの前で泣けない皆の代わりに。
辛さも、悔しさも…少しは和らいだかな…?うち…皆の役に立てたかな?
泣いたうちを皆が抱き締める。励ますつもりが、逆に励まされてしもた。でも、皆笑ってくれた。
帰ってきた時の辛い笑顔じゃなく、心から笑った笑顔。
それだけで、うちは嬉しいかった――。

しおり
<<[]>>

[ main ]
ALICE+