いい子やから泣いたらあかんで
学校の近くまで来ると、正門前に人影が見える。皆は既に集合してるみたい!
凛君が慌てて繋いでた手を離した。
「みんなぁ〜、お待たせ〜!」
「おっ、やっと来っ……」
「……どした、裕次郎君」
「あぃ!いやっ、……」
「……?」
口ごもって目線を逸らす裕次郎君。うちが顔を覗き込んでもすぐに目を逸らされる。
「苗字さん。その浴衣よく似合ってますよ」
「あぁっ!木手!それ、わんが言おうとした台詞さー!」
「そんな事言われてもね…」
呆れ顔で溜息を付く木手君。…それを言おうとして口ごもってたんや。
「いっぺーかなさんやー」
「馬子にも衣装か?」
「……田仁志君、ぶつで…」
「ゆくしさ〜!本気にさんけ!」
腕まくりをして拳を握ったうちを見て、田仁志君が1歩2歩と後ずさりしていく。その光景を見て、他の皆は面白がって笑った。
そのままゆっくりエイサー祭の行われる会場に向かった。
途中、屋台が沢山あってうちは大興奮!屋台の物って値段高いんやけど、何故か買ってしまうんよな!焼きそば、りんご飴、わたがし…田仁志君の手には、歩く度に何か増えていく。…それ、ほんまに全部食べるん?
他にも射的、金魚すくい…ありとあらゆる物に挑戦。
射的は木手君、知念君がめっさ上手くて、戦利品をうちに沢山くれた!
金魚すくいは、誰が一番沢山すくえるかで競争。
裕次郎君が何気に上手くて、すくい皿の中が金魚だらけで…ちょっと気持ち悪かった。
寄り道をしながら歩いたうちら一行は、1時間かけて会場まで辿りついた。
「うわ〜結構人おんねんな〜!」
「沖縄の一大イベントですからね」
周りを見渡すと人・人・人…エイサー祭って初めて聞いたけど、こんなに凄いイベントなんや〜。
「苗字、余所見してると迷子にやさ」
「なっ、ならんよ!」
知念君が笑いながら言った。
うちらはエイサーを観る為、手ごろな場所を探していた。うちは皆の後について歩いた。
人ごみに差し掛かった時、不意に浴衣の裾を引っ張られた。
見ると、3歳位の女の子が浴衣をひっぱってうちを見上げていた。
すると、女の子の目がうるみだした。
「ど、どうしたん?」
「…あんまーやあらん…」
泣きながらそういう女の子。
あんまーって…確かお母さんやんな?って事は、この子迷子か!…何してんねん、この子の親は…。
「うわぁぁあぁ〜〜っっ、あんまぁぁ〜〜!」
「あ〜、よしよ〜し、いい子やから泣いたらあかんで〜」
どうしよう…って考えてもしゃーないよな。
うちは泣いてるその子をゆっくりと抱き上げた。
「よし!お姉ちゃんと一緒にあんまー探そう!」
「ひっく…じゅんに?」
「うん!絶対見つけてあげるから、だから泣いたらあかんで〜。泣いてたらあんまー見つけられへんからな〜」
女の子はコクリと頷いた。
迷子になってしもた女の子、ユウナちゃんを抱いて、人波をかき分けながら歩いた。
「ユウナちゃんのあんまー!いませんかー!」
「あんまー!」
声をかけながら人波を歩く事数十分。ユウナちゃんのお母さんはまだ見つからない。
迷子センターみたいなトコがあると思うねんけど、どこにあるか分からんし。
…それに、ユウナちゃんを1人にする訳にもいかんしな。
気を取り直し、もう一度声をかけながら歩きだした。
太鼓の音が胸に響く。エイサーが始まったらしい。うちも観たかったけど、今はユウナちゃんの親を見つける方が先!途中でユウナちゃんに綿菓子を買ってあげて、ご機嫌取り。
***
あれから1時間位経っただろうか…祭ももう、お開きの時間。
ユウナちゃんも疲れてうちに抱かれて寝てしもた。こんなけ探してるのに、何で見つからんねん…そう、思ったときやった。
「ユウナーー!ユウナーー!!」
遠くからユウナちゃんを呼ぶ声が聞こえて来た。
「ユウナちゃん!あんまー見つかったで!」
目を擦り、ゆっくりと顔を上げるユウナちゃん。
お母さんの姿を確認すると、パッと目を開き、お母さんの下に駆け出して行った。
「あんまーー!」
「っ!ユウナ!!」
お互いをしっかりと抱きしめあって、お母さんもユウナちゃんも泣いてた。うちはホッと胸を下ろした。
ユウナちゃん達はお別れを言って帰って行った。ずっと不安そうな顔をしてたユウナちゃんが満面の笑みで帰って行くのを見て、うちは嬉しかった。
2人の姿が消えて行くまで、うちはその場で見送っていた。
「――名前っ!!」
うちを呼ぶ声に返ると、知念君が汗まみれで走ってきた。
「知念君。どうしたん?そんな汗かいて〜」
「ちゃーさびたがやあらんに!急に居なくなったから、でーじ心配したやし!!携帯何度かけても出ないし」
知念君が声を出して怒った。
…そうか、うち皆に何も言わんとユウナちゃんの親捜してたんやっけ?
携帯鳴ってたの、全然気づかんかった…心配して、捜してくれてたんや。
「ご、ごめんなさい。…迷子の子が居て、一緒に親捜しててん。心配かけてほんま、ごめんなさい」
「……」
深々と頭を下げる。本当に申し訳ない…こんなに汗だくになるまで捜させて…。
「…見つかってよかったさ」
「ほんま、ごめんな。…ありがと」
知念君は笑って許してくれた。うちもその笑顔で、顔が自然にほころぶ。
その後携帯を見ると、不在着信が20件フルに入ってた。皆の携帯から何回も…。
うちは一番上にあった裕次郎君の携帯に電話をした。
『ふらぁぁあぁああ!!ぃやーなままで何してた!!』
…第一声で怒られた。…自業自得ですけど…ほんますいません。
事情を説明して、会場の入り口で待ち合わせる事にした。携帯を切り、2人で待ち合わせ場所に向かおうと歩き出したときだった。
「っっ!」
「…ん?ちゃーさびたさ」
「あ〜…」
足元を見ると、足の親指と人差し指の間が紐で擦れて血が出てきてる。
…ユウナちゃん抱いて1時間以上歩き続けたからなぁ…当たり前か。
「大丈夫か?」
「あ〜大丈夫!ちょっと離して歩けば問題ないない!」
黙ってみてた知念君が急に体を屈めた。
切れてる方の下駄を脱がし、うちに渡したその瞬間、うちの体が宙に浮いた。
「ち、知念君?!」
「…こうすれば大丈夫さ」
大丈夫って…めっちゃ恥ずかしいんですけど!知念君にお姫様ダッコされてる。
…まだおんぶの方がマシ…って浴衣だから難しいのか?
「知念君、うち大丈夫やし!歩くって」
「ならん…名前、また1人でどこかいくかもしれんやし」
「も、もうどこも行かんって〜」
断固として降ろそうとしない知念君。うちは諦めて知念君に身を寄せた。
…あれ?知念君…今、うちの事――。
「…心配してくれて…ありがとうな…寛君」
「…ん」
ゆっくりと、うちを抱きかかえたまま歩く知念君。
皆と合流すると、めさめさ怒られた。凛君と裕次郎君はふりむん!って言って抱きしめてくれた。田仁志君は走り疲れたのか壁にもたれ、うちを見て笑ってる。木手君は…眼鏡を光らせてゴーヤーですね…って呟いた。
…凛君や裕次郎君の台詞取るかもだけど…ゴーヤーだけは勘弁!
皆で一緒に来た祭やったのに、とんだトラブルを起こしてしもた。
皆…ほんまにゴメンな…。でも…うち嬉しかった。
寛君と、皆と再会した時の喜び――ユウナちゃんもこんな気持ちやったんかな?
「名前、何笑ってるんば?」
「ううん!何でもない!」
「…変な奴」
笑い、満天の星を仰いで、家路をゆっくりと並んで歩いた。
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