日焼け対策に決まってるやろ!
「ほっ!」
「っやぁっ!」
「へへっ、名前〜やるやっしー」
「中学の時は結構上手かったんやで!これくらい朝飯前…やって!」
「へぇ〜、じゃあこれはどうさー。ハブッ!」
「っええぇぇえ!!何今の?!あんなん打てる訳ないし!」
「あっはははっ、まだまだやっさー」
今日は皆とテニスをしてます。前にテニスを教えてくれるって言ったの思い出して頼んだら、早速一緒にする事に。木手君と田仁志君は用事があって来れなかったから、今回は凛君・裕次郎君・寛君・うちの4人。
学校のコートはレギュラーならいつ使ってもええみたい。うちはレギュラーちゃうけど…合宿でお世話したし、別に構わんよな?
「にしても、名前。あちくあらんば?見てるこっちがあちさよー」
ベンチに座ってポカリを飲んでる裕次郎君が聞いてきた。
うちの今の格好はTシャツの上に黒の長袖パーカー。下は長袖ジャージ。見てる方が暑いって言うけど、実際一番暑いんは、うちやで!
「そら暑いに決まってるやん」
「じゃあ何でそんな格好してるば?」
「日焼け対策に決まってるやろ!」
「別に焼けてもいいやし」
「いい訳ないやろ!若い時はどんだけ焼いても冬になったら白ぉなるけど、20歳過ぎたら染みになるおそれがあんねん!だから絶対焼かん!」
「へぇ〜、いなぐって面倒だな」
「…ほんまやで」
溜息混じりで言う裕次郎君に、うちも溜息を吐いて応えた。
…ほんま面倒やで、女って…。
「よーし、次はダブルスやるんどー!裕次郎〜知念、入れー」
「おっしゃー!じゃあペア決めよ!負けたペアはジュース奢りな」
グッパーでうちは裕次郎君と組む事に。
聞けば凛君と寛君は元々ダブルスペアだとか…やたらと不利やん…でもだからって負けへんでぇ!うちは負けず嫌いなんや!!
「よっしゃ、裕次郎君!いっちょいてこましたろか!」
「あぃ?いてこます?」
「あ〜、…ギャフンと言わす?って感じ…のニュアンス?」
「なんだそりゃ。意味解らずに使ってるば?」
「時と場合によって、意味が変わるねん!例えば喧嘩の時やったら、痛い目に合わすぞ!みたいな」
「…ぃやー、結構おっかねーのな」
「何話てるば?やるんどー」
「おー!」
1セットマッチの試合が始まった。
皆、力を抜いてくれてるのか、うちでも追い付ける球を打ってくれる。一度皆と本気の打ち合いしてみたいけど、そんなんしたら5分も持たんと試合終わってまうなぁ。
結局、うちと裕次郎君のペアは6―4で負けてしもた。
「ちぇっ、負けてしもた。…裕次郎君ごめんなぁ〜、足ひっぱってしもて」
「何言ってるば?ぃやー、結構頑張ってたぜ」
「そぅ?へへっ、ありがと」
「じゃあ、わんアクエリ〜」
「わんも」
「はいは〜い。裕次郎君は何がいい?」
「あぃ?わんも負きたさ」
「ええって!ジュースくらい奢るって」
「…じゃー、ポカリ」
「了解!」
財布を持って、購買横にある自販機に向かった。
…にしても、ほんま暑っついわー。でも、汗はいっこも出ぇへんな〜。あんなに動いたのに…まぁ、ベトベトせんからええねんけどな!
「えーっと…アクエリ2本と、ポカリと…うちはお茶にしようかな?」
自販機に小銭をほりこみ、目当てのジュースを買う。冷えたジュースが気持ちよくておでこに当ててみたり。
「っと…これで最後!!…よし、早く持って行ったげんと…な――」
ジュースを取り出しコートに向かい歩こうとした時、不意に目の前の景色が歪んだ。
体が崩れていくのが分かり、踏み止まろうとしたが力が入らず、地面に倒れた。
アスファルトが鉄板の様に熱く感じる。起き上がりたいのに…体が言う事をきいてくれへん。頭がボーッとしてきて、目が閉ざされるのを止めらへんかった。
***
「なぁ。名前どこまでジュース買いに行ったば?」
「もう15分位経つやー」
ベンチに座りながらジュースを買いに行った名前を待っている3人。
ここから自販機まで往復5分もかからない。近くのスーパーに買いに行っても、多く見積もって10分で帰ってこれる。
なのに15分経った今でも名前は帰って来ない。
「どっかで道草食ってるんじゃないんば?」
「また変なジュースでも買ってくるかもな〜」
「うげー、それは勘弁やっし〜」
そんな会話を笑いがらしてた平古場と甲斐。でも、その横にいる知念は深刻な顔をして何か考えている。
「どうしたさ、知念。そんなちらして」
「何考えてるば?」
「……名前、真っ赤なちらしてたと思ってやー」
「あぃ?そりゃ、この暑さだからな〜」
「……だよな」
「……そう言えば……あにひゃー、あんなに動いてたのに汗一つ掻いてなかったさ…」
「「「…………!!」」」
顔を見合った3人は、ベンチから腰をあげ、走り出した。コートを出て少し走った所にある購買横の自販機。
その前に、表面に汗を掻いたペットボトルと、顔を真っ赤にした名前が倒れていた――
「名前!!」
駆け寄り、名前の体を抱き起こす知念。
でも、名前はぐったりして声に答えない。
いつから倒れていたのか、太陽に照り付けられたアスファルトに倒れてたので、体が赤く焼けている。
これだけ暑いのに汗一つかかない……熱中症の症状だ。
「早く日陰へ運べ!」
「裕次郎!濡れタオル!!」
「わかっとーさ!!」
名前を抱え、3人は急ぎ日陰へ向かった――。
***
「……っ…んっ……」
「おっ!気がついたば?!」
重たい瞼をゆっくり開けると、心配そうにうちを見る3人の顔があった。
…何で、うち……寝てんねやろ……。
「あ…れ?……うち…なんで…?」
「ぃやー、自販機の前で倒れてたんさ」
「熱中症起こしてたんだよ」
「大丈夫か?」
あぁ、そうか。…確かジュースを持ってコートに向かおうとして、目が回って…倒れたんだっけか?だからか…何か肌がヒリヒリすると思った。あんな熱っついアスファルトに倒れとったんやもんな…ちょっと火傷してもーてるわ。
うちは重い上半身を起こし、寝かせられていたベンチから足を下ろした。
「まだ寝てた方がいいんど」
「大丈夫!寝たせいか、頭スッキリしたし!」
「…わっさんや…」
「…えっ?」
「…名前が熱中症だって早く気づいてやれなくて…ゴメン」
「助けに行くの遅くて…火傷させちまって…」
「じゅんに…わっさいびーん」
3人がしゅんとして頭を下げた。
「えっ?!そんな3人が謝る事やないやろ?うちの不注意なだけやし」
「でも、汗掻いてない時点で気づいてやるべきだったさ」
「…でも、…名前とテニスするの楽しくて…気づいてやれなかった」
裕次郎君、寛君が言ったその言葉。
うちとテニスするの…楽しかった?皆にとったら、お遊び程度のラリーしか出来なかったうちとのテニスを…楽しんでくれたん?
「こんなに楽しんだテニス…久しぶりやっし。いつも全国全国って、辛い練習ばっかりだったさ。でも…名前とやるテニスは…じゅんに、笑って楽しめるんばーよ」
しゅんとした顔のまま、熱さのせいか頬が赤くなってるのを見て、自然に笑みがこぼれた。うちは3人の頭を交互に、わしゃわしゃと撫でた。
「ぬ、ぬーがやいきなり?!」
「あんたらが嬉しい事言ってくれるからやろ!」
そう言ったうちの顔は、多分赤くなってるんやろうな。
暑さのせいなんかやない。…照れくさくて……凄く嬉しくて。
「ありがとうな。…ほんまに。うちも、皆と一緒にいるとほんまに楽しい。こんな楽しい思いしたん久しぶり。…ありがと」
「…わんも、にふぇーでーびる」
「これからも、いっぱい楽しいことしよやー!」
「あんせー、今度は遊園地に遊びに行こうぜ!新しくできた絶叫マシーン乗りたいやさー」
「あっ、遊園地ええなぁ!!よし、今度はそこに皆で行こうな!」
オー!と掛け声をあげ、皆と目が合い、笑った。
「よーし!まだ時間あるし、また試合しよう!」
「名前、もう大丈夫なんば?」
「大丈夫!」
「でも先に水分はとっておけ…。んじらんと、汗掻かないさー」
「あと、ぃやーはコレ被っとけ」
差し出されたお茶と、無理矢理被せられた帽子。その帽子を被り直して、ペットボトルの蓋を開けググイっとお茶を飲む!
「…プハァァーー!生き返るッッ!」
「…ハハッ、親父臭いやー」
「うるせっ!」
笑いながらコートへ向かったうちら。その後も、試合中笑いが絶える事は無かった。
本当に楽しくて……気づかなかった…
だいじなこと――
***
日も沈んだ頃、自分の家に着く。誰もいない家の扉を開け、ただいま〜…なんて言ってみる。玄関横のスイッチを押して、電気をつけると、目の前に白い封筒が落ちていた。
「…手紙…?」
差出人の名前もないその封筒を開け、中の手紙を取り出した。
その手紙を読んで……うちは…息が止まった。
―苗字名前様
拝啓、如何お過ごしでしょうか。楽
しい毎日をお過ごしでしょうか。
期限の日まで、後1週間となりまし
た。どうか最後の日まで、楽しんで
下さい。
8月31日、日付が変わる時刻にお
迎えに参ります。
そうや……忘れとった。うちは、ずっとここに…おられへんねや。皆といるのが、…当たり前に思とったけど……違う…。うちは…この時空(とき)の人間や…ないんや――
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