…違いますか?


 期限の日まで、後1週間となりました。

そうか…これは、現実じゃ……ないんや……

 8月31日、日付が変わる時刻にお迎えに参ります

ここは過去で……今のうちは、…ここにいるべき存在やない…

あと…一週間――


「………」
「どうした、名前?」
「えっ?な、何?」
「今日はずっとぼーっとしてるさ」
「練習中にぼけっとするなんて、珍しいやんに」

裕次郎君と凛君がうちの顔を見てる。
あっ、そっか。皆で文化祭のダンスの練習してたんやっけ…おとつい届いた手紙の事が、頭から離れへん。

「…熱でもあるんば?」

裕次郎君が私の額に手を当てて、自分の額にも手を当てる。

「別に熱くはないな〜」
「大丈夫やって。…ちょっと寝不足なだけやねん!」
「…そうか?」
「そうそう!…さぁ、練習しよう!」

そう言って、2人の背中を押し鏡前に立つ。
暗くなってもしゃーないよな…最初から、決まってたことなんやし……期間限定の旅やって…。
いつかは別れがくるんや。それやったら、最後まで…皆と楽しみたい。だから、しょげてたらあかん!
そう自分に言い聞かせ、皆とダンスの練習を再開した。8月の中旬から練習し始めて、皆全体の流れはバッチリできた。あとは細かい所を固めて、最終調整や!



***



「さぁ、練習しよう!」

いつもの様に元気に振る舞う苗字さん。ですが…いつもと何か違う。
何か悩み事でもあるんでしょうかね。時折見せる、沈んだ顔が頭に残ります。

「苗字さん」
「ん、何?」
「話があります。練習終わってから時間、よろしいですか?」
「…うん。ええよ」

不思議そうに頷く苗字さん。
…何でこんな事を言ったんでしょう……俺らしく…ないですね。


「よし、じゃあ今日はこれて上がり!お疲れさん」
「お〜疲れたさー」
「今日もいっぱい踊ったやっさー」
「腹減ったさ〜〜」
「…慧君。いつもそればっかりやっさ」
「……」

上がりと言った彼女は、首にかけたタオルで額の汗を拭いている。
タオルで隠してはいるけど、…でも分かる。多分…彼女は笑顔ではない。ダンスで疲れているとかじゃ…ないでしょうね…。
俺はゆっくりと彼女の傍まで寄って行った。

「苗字さん」
「あっ、木手君。そう言えば話があるって言っとったよな?何?話って」
「…テラスに出ましょうか。少し、外の空気を吸いに行きましょう」
「…うん」

俺と苗字さんは静かに部屋を出て、テラスへ出た。

「ぬーしたがや…あの2人」
「2人とも深刻な感じだったな」
「…気になるやっし」
「「「………」」」
「ん?ぬーがや」
「デブはお菓子食ってろ!」
「あぁ?!」



***



木手君と一緒にテラスへ出た。海に面したこのテラスからは、真っ赤になった陽が水平線に顔を隠そうとしているのが見える。
真剣な顔でおる木手君。
一体何なんやろ〜。ダンスの相談?でも、それなら中でも出来るよな…。
そんな事を考えながら、柵に膝を置いてる木手君の横に立った。

「何を悩んでいるんですか?」
「…えっ」

いきなり聞かれて驚いた。

「…別に…別に何も悩み事なんかないっ―」
「嘘をつかなくていいです」
「う…嘘じゃ…」
「あなたを見てると分かります。時々、何かを考え込んでいる――」
「……」
「……とても悲しそうな顔をしてね」
「…!」

言葉が出なかった。
…皆には気付かれない様に明るく振る舞ってたつもりやのに…。
…悲しい……うん…悲しいよ……だって――

「その涙の訳を話してくれませんか…?」
「えっ…」

気付くと、うちは泣いていた。別に泣くつもりなんて少しもなかった。でも、…自然と溢れ落ちる涙を止める事ができんかった……。

「夏休み……もうじき終わって…しまうやん」
「………」
「そしたら……皆とも…お別れ、やん」
「………」
「ここに来て…毎日が…ほんまに楽しくて…楽し…くて…っっ」

何も言わず、うちの言葉を聞いてくれてる木手君。言葉を1つ1つ紡ぐ度、溢れ出る涙。
我慢して…話してたのに…。

「皆と…いっ…事が……当た、前みた…にっ…思って…たけど…」
「………」
「うち…は…っ……この…時代の…人ちゃうか…ら…」
「………」
「もうじき……帰らな…あ…かん」
「………」

子ども見たいな事を泣きながら言った。心の中では、情けないって思った。
でも、悲しい気持ち…まだまだ皆と一緒に居たいと言う気持ちは止まらない…。

「…ゃや…皆と……離れてまうん、が…ぃゃゃっ――」

そう言ったうちを、黙って聞いていた木手君が、優しく抱き締めてくれた。
…驚いた。抱き締められるなんて思わなくて、溢れ出た涙も止まった。

「あなたを……ここに留めておく術を……俺達は知らない…」
「……」
「でも、永遠の別れじゃない。……違いますか?」
「!」

…そう…ここは過去。うちが昔過ごした時代。でも、皆には過去だなんて言っとないはずやけど……

「あなたがダンスの曲を聴きながら、懐かしいって言ってましたからね」

不思議そうな顔をしていたのか、そう私に説明してくれた。
そんな事、うち言ってたっけ。

「例え離れてしまっても……信じていれば…必ず会えます…ここで、俺達が出会ったようにね」

優しく微笑んで、言ってくれた―――
そうやんな……信じていれば……きっと会えやんな。だって、…うちらは…こうして出逢えた…奇跡の様な……この出逢い…だから、また…奇跡は訪れる……信じていれば………きっと――。
うちは涙を拭った。

「そうやな!…信じとったら、いつかまた会えるよな」
「ええ」
「へへっ、…ありがとうな。…話聞いてくれて…。これじゃ、どっちが子どもかよー分からんな」
「本当ですね」
「なんやと!」

バシっと木手君の背中を叩く。そして…2人で笑った。声に出さなかったけど…微笑み合った。

ありがとう。


「ぬーあびちょーば?あったー」
「くまーからじゃ、わからんやさ」
「やしが、ぬーがらーいい雰囲気やあらんがやー?」
「「「………」」」
「なぁ、何してるさ。飯食おうぜ〜」
「デブは黙ってれ!」
「何だと平古場!」

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