夏の終わり


「あ〜!気持ちよかったー」

お風呂から上がり、頭にバスタオルをのせたまま冷蔵庫からお茶を取り出した。
冷蔵庫の横に目をやると…一枚のカレンダー。
沖縄に来てから、1日過ぎる毎に日付に×印を入れてきた。
……明日で…とうとう最後なんやな…。
指先でなぞった『31』の文字…。明日は…何をやって過ごそう―――
そんな事を思っていると、携帯が鳴り始めた。
…おっ、凛君からや!

「はいは〜い!どないしたん?」
『名前!明日遊園地行こう!』
「遊園地?」
『おぅ!前に言ってた新しく出来た遊園地のタダ券をねーねーがくれたんさ!ちょうど6枚あるし、明日パーっと行こうぜ!』
「えぇなぁ!行こ行こ!」
『じゃあ、明日朝迎えに行くさー!』
「うん!楽しみにしてるわ!」

遊園地か…うん、楽しみ!
明日はめいいっぱいめかし込んで行かなあかんな!よーし、そうと決まれば早速準備や!
うちは自分の部屋に戻ってクローゼットから服を取り出し、ベットに並べて着て行く服を入念に選んだ。
結局決まった服装は…唯一、うちの世界から着て来た服。
…ここに飛ばされた時に着てた服。始まりはこれやったから……明日もこれでいこう…。
服をハンガーにかけ、時計を見るともう1時過ぎ。慌ててベッドに入り込んで寝ようとしたけど…なかなか寝れなかった…。
明日……とうとう明日で終わり…か…最後の思い出なんや…最高に楽しい1日になるといいな……ううん、してみせるで!!
そう意気込んで、うちは固く目を閉ざした。



***



朝7時。
珍しく目覚めが良く、ベッドから飛び起き窓の外を見ると、雲ひとつ無い快晴!いいお出かけ日和や!
さぁ、皆が迎えに来る前に、支度済ませとかんと!

朝食を済ませ、歯磨きをしてる所でインターホンが鳴った。
おう!もう来たんか!
うちは急ぎ口を濯ぎ、玄関へ向かった。

「はーい!今でるよ〜」

ここから言った所で聞こえる筈もないけど、一応言ってみた…けど――

ピーンポーン

聞こえてるはずもない…。

ピーンポーンピーンポーンピンポンピンポンピッピッピッ――

「――ッ、こぉぉらぁぁあ!!あんたらどこぞの小学生かぁあ!!」
「おぉ、やっと出てきたさー!」
「おはよ〜名前」
「おはようございます」
「…おはよう」
「うきみそーちー」

靴紐を結んでる時に何度も何度も呼び鈴を鳴らす音にムカっときて思わず叫んでしまったよ…。

「もう、…皆おはよっ!今日はおもいっきり遊そぶでーー!!」
「おぅ!めいいっぱい楽しもうな!」
「うん!」

さて、今日は誰の後ろに乗っけて貰おうかなぁ〜。

「…名前。後ろ…」

そう思ってると、寛君が自転車に跨り、後ろを向いてうちに言った。
よくみたらステップが付いてる。

「…名前乗せようと思って…買ったさ」

頬を赤らめ言った寛君。その為だけにわざわざ……。
うちはニコッとして、寛君の自転車の後ろに飛び乗った。

「よーし!頼むよ、寛君!」
「…任せれ」
「ではでは、遊園地向けて出発ー!」

うちの掛け声と同時に寛君が自転車を扱ぐ。
その後に続いて、他の皆が付いて来た。



***



自転車をとばして1時間。

「うわーーははっ!久々の遊園地やー!」

目の前に広がる大きな入場口。
入った先は広場になっとって、そっから各エリアに行けるみたい。
しかし広っろい所やなー!…これ1日で制覇できるかな?
入場口で貰ろた地図を見ながら考えてると、広場になにやらココのイメージキャラクターらしきのが出てきた。

「あー!見てみて!あれってゴーヤー?!」
「…あぁ。多分」
「うげ〜、何であれをキャラクターにするかね…」
「あれはここのキャラクターで、ゴーヤンと言うみたいですね」
「…永四郎、結構マニアなんだな…」
「…貰ったパンフレットに載っていただけです」
「あはは!ゴーヤン、いいやん!可愛い!」
「それより、早くジェットコースター行こうやー!」

田仁志君に言われ、うちらは広場を後にした。

まず目指すはジェットコースタ!景気付けには持って来いやね!…うぅぅう、テンション上がって来たで!!
運良く先頭の座れたうちら!席順は待ってる間にジャンケンで決まった。
うちの隣に裕次郎君、後ろに凛君と田仁志君。その後ろに永四郎君に寛君。

「田仁志が横だと狭さよー!ぃやー1人で乗れ!」
「しーよーねーらん!っつーか、もう動いてるから無理やっさ」
「2人とも、見苦しいですよ。ゴーヤー食わすよ」
「…ココまで来てそてかよ、永四郎」
「うわー!裕次郎君見てみて!海めっさ綺麗!」
「じゅんにやっさー!」

徐々に高さをましていくジェットコースター。
横を見ると、青々と光る海が一望出来る。遠くの方で何かが跳ねた。もしかして、イルカ?!
そんな事を考えてると、頂上に着き、一気に急降下!!

「来た来たー!!」

うちは裕次郎君の手を掴み、空に目掛けて万歳をした。

「やっほぉぉおおおぉぉっははは!!」
「いえぇえぇぇぇぇぇぇぇいぃ!!」
「気持ちいいさぁぁあぁぁぁぁぁ!!」

風を切って、上下左右に曲がりくねり走るコースター。
ジェットコースターって無性に叫びたくなるよな!

あっという間にジェットコースターは終わってしもた。

「あー!楽しかったー!」
「だるなー!」
「苗字ー!次あれ乗ろうぜ!」
「あ、うん!」

うちらは次々とアトラクションを走って回った。
急流すべりにバイキング、コーヒーカップ。遊園地の定番を大体乗りこなし、次にやって来たのは――

「…うっ、うわ〜〜〜たのしそうやなぁ〜〜」
「…言葉と顔が一致してないですよ」
「名前、お化け屋敷嫌いか?」

真っ黒い木の建物。
壁に血痕みたいな物もついてる。入り口の上には、血文字で書かれた様な赤い色で『お化け屋敷』…と書かれとる…。

「べっ、別に嫌いってわけちゃうで!!た…ただ…いきなり驚かされるのが苦手っちゅーか何ちゅーか…」
「へぇ〜、名前、こういうの苦手なのか〜」

ニヤリとして笑う凛君。…何か嫌〜な予感がする…。

「とにかく、さっさと行きましょうか」
「おっ、おう!」

うちは意を決して中に入る事に。

「うわ〜…暗っ…」

暗いのは全然いけんねんけど…いつどこから何が出てくるか分からんもんなぁ…分かってても、出てきた瞬間マジビビッてまうからな…。

「名前」
「ひっ!!」
「わっ…わっさんやー」

寛君がうちに掛けた声で飛び跳ねてしもた。
…どんだけビビッてんねん…うちは。

「…大丈夫か?」
「う、うん。だいじょう……――っっ?!!」

寛君に顔を向けると…寛君の後ろに…薄青いボヤっとした光を浴びた紫色の髪をした眼鏡を掛けた男の人が、恨めしげにこっちを向いていた。

「あぁぁああ!!いやぁぁぁあああぁあぁあぁぁぁああ!!」
「っ、名前?!」
「どこ行くば!!」

うちは驚きのあまり、猛ダッシュで逃げてしもた。
少し走って気持ちを落ち着かせて考えて見たら……あれ、永四郎君やったよな…絶対。
いや〜、マジで幽霊かと思う位怖い顔しててんもん!しかもいい具合に青白い光浴びてさ!

「……あれっ…皆?」

周りを見ると、一緒にいた筈の皆が居ない。
…そうか、ダッシュで逃げてもうたから逸れてしもたんか……待っとったら合流できるかな?…でも、ここお化け屋敷&迷路って書いてあったな。

「…………」

と、とり合えず出口向かって歩こう!そしたら皆と会えるやろ。

一人歩く通路。
静かな空間の中、どこからともなく水が滴り落ちる音がする。
…うわ〜…絶対なんか出てきそう…驚かんで〜…絶対驚いてやるものか!

「……うわっ!」
「ひぃぃぃぃぃい!!」
「…ぶっはははは!びっくりし過ぎやっし、名前」

うちは心臓飛び出すんちゃうかって位ビックリして固まってしもた。この声は…

「り…凛君…もう!!バカバカ!!何で驚かすんよ!」

うちは振り返って凛君の胸をバシバシと叩いた。

「いててててっ、悪かったってー!あんなに驚くと思わなかったさ」
「ほんまにバカバカバカっっ!!」
「…名前…って、何で泣くば?!」

いきなり驚かされて緊張の糸が切れたのか、何だか涙が出てきてしもた。

「凛君のアホー、バカー…っっ…」
「あー、泣かんけ〜名前…」
「凛君のせいやろ〜〜!!」
「………」

そう言ううちを、凛君が抱きしめてくれた。

「悪かったさ。…頼むから…泣き止んでくれ。…わん、ぃやーが泣くと、どうしていいか分からんばーよ」

困った様に言う凛君が、少し可笑しくて…

「じゃあ、泣き止まない…」
「えぇ?!」
「あははは!」

こんな意地悪を言ってみたり。
うちの笑い声を聞いて、暗闇の中皆と合流できた。
何度見ても、永四郎君には青白い光が纏ってる様に見える……まさか……なんて事はないよな…?

やっとの事でお化け屋敷を抜けたうちら。
ジェットコースターはあんな短く感じたのに、ここは1時間位入ってた気分やわ…。
その後、昼食を取りながらも色んなアトラクションを回った。
途中で見た、今日の催し物と書かれた掲示板に、夕方にパレードが、夜には花火が上がると書いとった。
パレードに花火か!夏の遊園地って感じがするわ!

半分以上のアトラクションを回って、うちらは休憩がてら土産物を見てまわった。

「見てみて!ゴーヤーの帽子!」

緑色のゴーヤーの被り物を頭に乗せて、笑って見せた。

「…可愛いさ、名前」
「……寛君。真顔で言われると、流石に照れるんやけど…」
「本当の事言っただけさ」

ネタのつもりで見せたのに、…寛君って、こんな事サラッと言う子やったっけ?!
不意に言われたその台詞に、ドキっとしてしまった…。

「名前〜、こっちきちみ!面白いのがあるさー!」
「うん!行こう、寛君!」
「…あぁ」

皆で土産物巡りをしながら、いっぱい笑った。
ゴーヤンのぬいぐるみを永四郎君の両手にいっぱい持たせて、これからはこれを部活に持っていきなよ!って冗談で言ったら、本物のゴーヤーを冗談抜きで食べさせられそうになった。
近くにあったゲームセンターちっくなとこに入ると、プリクラがあったから記念に1枚撮る事に!勿論、フレームはゴーヤン…

「皆もっと寄って寄って」
「こら、デブ!ぃやー場所取り過ぎ!」
「田仁志はフレームになってろ!」
「やったー、酷いさー」
「この空間で叫ばないで下さい。耳に響きます」
「…だな」
「ほらほら、時間ないで!笑顔笑顔!」

『3・2・1・―――』

「あははは!田仁志君、体半分切れてる!」
「名前すっげー笑顔」
「…俺の顔が甲斐君の髪で半分隠れてしまってますが…」
「げっ…木手。そこは仕方ないやんに〜」
「これ…携帯に貼っておこう…」
「おっ、わんも!」

出来上がったプリクラを皆、携帯に貼り出した。
借りてた寛君の携帯を取り出し、ボディーにぺタっと貼り付ける。
うちは1枚切り取って、ズボンのポケット奥にしまった。

夕方になり、パレードが始まった。園内を踊りながら1周するパレードの列。
小さい子がその列に加わって、一緒に踊ってる。ゴーヤンも軽快な踊りを見せとった。
うちも楽しくなって、その子達と交ざって踊った。裕次郎君と凛君、田仁志君も一緒に。そんなうちらを、寛君と永四郎君は笑ってみててくれた。

楽しい楽しい時間が、あっという間に過ぎてしもて…気付けば…空には金色の星が瞬いとった。

「そろそろ花火始まる時間やな!」
「人通りの少ない所に行きましょうか」
「じゃあ、あそこ行こうぜ!」

そう言って、凛君が指した先は――

「うわーっはは!!特等席やん!」
「花火が横に見ゅーさ!」

うちらが向かった先は観覧車。
ここなら、他の人もおらんし、花火をゆっくり堪能できるな!

「めっちゃ綺麗やな〜」
「…ここから見ると、海に咲く花みたいやっさ」

寛君の言葉。…確かに遠くに見える海に咲く、花の様。

うちらは……ただじっと…花火を見ていた。誰も…何も喋る事なく…。

夜空に咲く、幾千もの光の花――

咲いては散るその花が――

夏の終わりを…物語っていたから――

しおり
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