皆かっこえぇなぁ〜


洋館に向かう途中で彼等は自己紹介してくれた。
紫の髪に眼鏡の子が木手永四郎君。帽子を被った茶髪の子が甲斐裕次郎君。靴を貸してくれた金髪の子が平古場凛君。前髪が白い子とでかい子が知念寛君と田仁志慧君。
皆比嘉中に通ってる中学3年生らしい…。年下ダロウとは思ったけど…まさか中学生だとは…全然みえん…特に木手君は…。
うちも名前と年齢を教え、信じてもらえるか分からんかったけど今まで起きた事を話してみた。絶対バカにされるって思とったんやけど…――

「…そうですか。大変な目に合いましたね」
「えっ?!信じてくれるん?」
「ぃやーが、ゆくさーには見えないさー」
「ゆく…さ?」
「嘘つきって意味さー」
「それにあの光。あんな光は初めてみましたしね」
「普通じゃねぇさー」

こんなバカげた話をちゃんと信じてくれるんや。皆えぇ子やな〜。
…にしても、皆かっこえぇなぁ〜!田仁志君は別として…。さっきは急な展開に頭落ち着かせるのでいっぱいいっぱいやったから気づかんかったけど。多分学校とかでもモテてんねやろ〜な。

「着きましたよ」
「えっ?」

そんな事を考えてると木手君が止まって言った。顔を上げたうちの目の前にある建物を見て…唖然としてしまった。
2階建ての大きな洋館。壁には地面から伸びている蔦屋根まで登っている。空気はどんよりしていて、何者も寄せ付けさせない雰囲気が漂ってるのを感じた。…確かに幽霊屋敷っぽい…ってか…幽霊屋敷じゃ……。

「………」
「ぃやー、大丈夫か?ちら青いぞ」

甲斐君がうちの顔を見て心配してくれた。中学生に心配してもらって…情けない…。
うちは大丈夫と答え、意を決して中に入る事にした。門をゆっくり開け、1歩1歩中に入って行く。
うちの後に5人がきょろきょろしながら付いて来る。うちを心配してるのが半分、幽霊屋敷の中がどうなっるのが興味があるが半分…らしい。
玄関に着き、ドアノブに手を掛けゆっくり下押した。鍵はかかってなく、恐る恐るドアを手前に引き、そぉっと中を覗き込むと…そこは、外から見た感じとは全く違ってた。
さっき掃除されたばかりかと思う位綺麗にされとって、家具とかもうち好みの可愛い物が多い。

「へぇ〜中はこんなだったのか〜」
「結構広いさ〜」
「外から見る限り、人が出入りしてる様子はなかったんですが」

やっぱり皆思う事は同じみたい。

「他の部屋はどぅなってるんば?」
「探検すっさー!」

平古場君と田仁志君がそう言って奥の部屋に歩いて行った。うちらも手分けして屋敷を探索する事に。
うちと木手君、甲斐君は2階。知念君は平古場君と田仁志君と一緒に1階を探して貰う事にした。横に2、3人並んで歩ける階段を上がり、手前の部屋から順々に調べて行く事にした。

「ここは…寝室ですね」
「うわ〜!天蓋付きのベットや!」
「広いや〜!わんの部屋の何倍さー」

30畳位ある洋室。天蓋付きのベットの他に、ウォーキングクローゼット・可愛いデザインデスク・コンポに観葉植物。どこかのホテルを思わせる様な、そんな部屋だ。

「…あれ?」
「何か見つかったか?」
「うん…机の上に手紙が置いてある」
「手紙?」

机に乗ってた白い手紙。…うちの家に届いた手紙と一緒のやつや…多分これは…。
うちは手紙の封を開け、中身を取り出した。入っていたのは、手紙と鍵と銀行の通帳。
鍵は多分この洋館のものやろうな。あとは、手紙と通帳。とりあえず、手紙の内容を確認する事にした。


 苗字名前様―――

 沖縄へようこそ。
 これから1ヶ月間、ここ沖縄での生
 活を存分にお楽しみ下さい。
 こちらでの生活費は銀行に入ってお
 ります。暗証番号は通帳の裏に明記
 されています。
 他、最低限必要な物は用意させて頂
 きました。
 どうぞ期日の日まで沖縄の暮らしを
 お楽しみ下さい。


手紙を読み上げ、生活費の入ってる通帳に目を通した。
1ヶ月生活をするには十分過ぎるくらいのお金が入ってて少し驚いた。とりあえず、お金に困る事はなさそうやな…。
うちは元あった様に中身を封筒に直し、他の部屋も見ようと手紙を持って部屋をでた。

15分後、洋館を調べ終わり1階のリビングに集まった。そこで探索結果報告。
1Fに風呂・トイレ・客室2部屋・キッチン・ダイニング・そして、ここのリビング。2Fにトイレ・客室2部屋・テラス。それと手紙を見つけた寝室。どこも綺麗にされとって、誰かが使った形跡は見つからんかった。…とりあえず、幽霊屋敷やなかったって事は分かったから少し安心。

「…それで、あなたはこれからどうするんですか?」

一息ついてソファーに座ってたうちに、木手君が問いかけた。他の皆もうちの言葉を待っている。

「…まぁ、路頭に迷う事もなさそうやし、とりあえず旅行気分で楽しませてもらうわ〜」
「ぃやー、結構楽天的だな…」
「不安がない訳やないけど、31日までって期限付きやし、ここに来れたって事はちゃんと帰れるんやろうし。悩んでたってしゃーないやろ?」
「ま〜な〜」

そうやんな…悩んでたって始まらんし、…それに、こんな体験滅多にできんし!楽しまな損やんな!とりあえずこの辺の事調べなな。言葉も含め、知らん事だらけやし。

「では、何か困った事があれば俺達に相談して下さい」
「え…いいん?」
「ここで会ったのも何かの縁やっし〜」
「うちなーの事なら、何でも教えてやんよ」

そう言ってくれた木手君、平古場君、甲斐君。知念君と田仁志君も笑って頷いてくれた。
…浜辺で出会ったんが、この子達で…ほんまよかったわ。
涙が出そうになるのを堪え、うちも笑顔を返した。

「うん!何かあったら宜しくね!」
「おぅ!任ちょーけ!」

会って少ししか経ってないけど、この子達とは…ずっと仲良くしていける…そんな気がした。本当に…心から―――

「さて、俺達はそろそろお暇しますか」

木手君が腰を上げて言った。時計を見ればもう夜中の2時だ。そうか…こっちに来たのが0時やったもんな。

「ありがとうな。こんな時間まで付き合ってもろて」
「いえ、大丈夫ですよ」
「また遊びにくーさー」

皆も立ち上がり、木手君の後に続いて玄関へ向かった。

「でも、こんな時間に帰ったら危いんちゃう?」
「大丈夫ですよ。俺達は沖縄武術の心得がありますからね」
「返り討ちさー」

そう笑って言う皆を門まで見送った。丘から少し下ったとこで振り返り手を振ってくれた。

皆が帰り、1人…この大きな洋館に残ったうち…。うちは2階に上がり、テラスへ出た。
小高い丘の上に建っているこの洋館のテラスからは、水平線が一望できる。
月を映す黒い海と空に瞬く幾千もの星々。
空を見上げるうちの髪を、潮風がやわらかく撫でて行く。
うちは…目を瞑り…思った。
…これからどうなるのか…何も分からない。この先に…何が待っているのか…。少しの不安と…大きな期待を抱いて―――

「…あっ!平古場君のお姉さんの靴、借りたまんまや!」

誰も居ない洋館で、うちの声は大きく響いた。

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