中学校


「比嘉中学校…ここや!」

校門の前に立って、校舎の方に目をやった。
思ってたより大きくて綺麗な学校やな〜。花壇に赤い花が沢山咲いてて緑も多い。うちの中学と正反対やね。花とか木とかあんま無かったからな〜。

夏休みやから生徒の姿は殆ど見当たれへん。部活中っぽい生徒は何人か見かけたけど…。
テニス部は、コートやんな?…関係者やないけど…入って大丈夫かな?
恐る恐る正門をくぐって中に入った。遠くからボールを打つ音が聞こえてくる。うちは、その音がする方へ向かった。

校舎の横に緑色のフェンスが見えてきた。近づくにつれてボールの音と声が大きくなっていく。

「おっ、おったおった!」

テニスコートに着いて皆をすぐ見つける事が出来た。2面のコートでうちの知ったメンツが試合をしてるみたい。
…審判してる坊主の子ともう1人は初めてみるかな?
フェンスの近くに寄り、皆のテニスを見ていた。
やっぱり全国に行くってだけあって凄く上手い!ライン際に打ち込むボールコントロール、前後の動きとか見えんしな!中学生でこれってアリなん?プロとかどないなんねん…。にしても、昨日と違って今日は人数少ないな…。
真剣に皆の姿を見てると、待機してた木手君がうちに気づいて近くに来てくれた。

「苗字さん?よくここまで来れましたね」
「途中で人に行き方教えてもろてん。…はい!昨日迷惑かけたお詫びにハチミツレモン作って来た!」
「ハチミツレモンですか。どうも。今そっちに行きます」

中から出てきてくれた木手君にハチミツレモンの入っている紙袋を渡した。

「結構人数いたからいっぱい作ったんやけど…今日は少ないんやね」
「あぁ。今日から2日間、レギュラーメンバーだけ学校に泊り込みで練習なんです。他の部員は休みなんですよ」
「泊り込み?このメンバーだけで?顧問の先生とかは?」
「ちゃんといますよ。今日は午後から来る予定で、今は自主トレです」

へぇ〜っと相槌を打った。やっぱ全国前やし気合はいってるんやね!

「じゃあ、こんなに食べられへんな〜」
「大丈夫でしょう。約一名、大食いがいますから」
「あ〜…彼ね」

あえて名前は出さず視線で指す。2人同じ方を向き、顔を見合って笑った。

「…ん?あい?ぃやー、どうしたばーー!」

試合を終えたのか、うちに気づいた甲斐君が奥のコートから話し掛けてきた。
田仁志君もうちに向かって手を上げてくれてる。

「昨日のお礼にハチミツレモン作って来てん!」
「ハチミツレモン?!」

食べ物の名前を聞き、目の色を変えて飛んでくる田仁志君。
…ホンマ、おんなけ沢山あっても田仁志君おったらスッカラカンになりそうやわ。
甲斐君も呆れ顔でこっちにやって来た。
平古場君と知念君も試合を終えたのか、2人ゆっくりこっちに向かって歩いて来る。

「ハチミツレモンか!美味そうやっし!」
「…あれ食べると体軽くなるしな」

額に汗を浮かべ、にこっと笑う2人。うちもその顔を見て笑顔になる。

「…なぁ、たーか?」
「先輩達の知り合いですか?」

後ろからやって来た審判をしてた2人、3年の不知火君と2年の新垣君。
木手君に2人を紹介してもらい、うちも挨拶をして皆とハチミツレモンを食べ始めた。
試合を終えた後だったからか、皆美味しそうに食べてくれる。

そんな時木手君携帯が鳴り、少し離れた所まで行って電話を取った。

「あっ、そうや!知念君には…はい、携帯のお礼!」

可愛くラッピングしたカップケーキを差し出した。結構自信作!

「…わんに?」
「勿論!」
「……にふぇーでーびる」
「にふぇ?」
「あっ、…ありがとうって意味さー」

そう言って照れる知念君が可愛かった。

「知念ずるいやっし!わんにも分けろ!」
「…べーるひゃ」
「あ〜あ。わんも携帯貸せばよかったさー」

拗ねる平古場君に甲斐君。田仁志君も羨ましそうにカップケーキ見てる…。

「2人の携帯だと、女の子の相手しなきゃいけさそうやから嫌やなぁ」
「「だーから!違うって言ちぉーさに!」」

声を揃えて言った2人。この2人をからかうと面白い。
素直な反応が可愛い!…なんて言ったらまた怒るんだろうなぁ…。
ごめんごめんと言ううちの横に、電話を終えた木手君が立った。

「苗字さん。尋ねたい事があります」
「ん?何?尋ねたい事って」

少し困った顔で話し掛けて来た木手君。

「貴女、料理は得意ですか?」
「料理?……ん〜まぁ人並みには出来るとは思ってるけど…」
「なら、決まりですね」
「えっ、何が?」

いきなりそんな事を言われて訳が分からないでいるうち。周りの皆も同じ様だ。

「実は、2日間俺達の食事を作ってくれる筈の人が倒れてしまったらしく、代わりの人を探せと監督から電話がありまして」
「……うん。…で、それをうちに?」
「ええ、そうです」
「…別に料理作るくらい構わんけど…」
「交渉成立ですね。では、監督に連絡しますのでよろしくお願いします」

そう言って木手君はまた携帯を取った。
別に忙しい訳でもあれへんし、ってか暇やし!家で作ったりしてたからこの人数の食事くらい何とかなるっしょ!
なんて、その時は軽く考えていた――。


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