優しく…微笑んでくれた
料理を作るだけでえぇんやと思っとった…まさか…。
「じゃあ、宜しく頼むんど!」
皆と一緒に泊まらなあかんなんて…!
午後から合流した早乙女監督、通称ハルミィが…。
『わんは夜に外せん用事が入ったから、あにひゃーの面倒みろ』
…って急に言われた。
…えっ?ちょ、ちょー待ってぇや!!確かにうちは成人越えてるけど、幾らなんでも男の子達と一緒にお泊まり?
『大丈夫、部屋は別に用意してる。まぁ、襲われたら後でシバキ倒してやるばーよ』
お…襲われるって…それはまぁ、無いと思うけど…。抗議したけど、『なんくるないさぁ』って言われて押し付けられた。
中学生の監視役で一晩一緒か…まぁ、皆大人っぽく見えても中学生やしな。…でも、ほんま中学生に見えんのよ、あの子達。3つ上の高校生って言われても全然違和感ないし。
…やたらカッコイイし…ドキドキしてまうやん…お泊まりとかさ…。
***
「はぁ〜…」
溜め息を付きながらポカリを作るうち…。何気にマネージャーちっくな事もやる羽目になった。
いやっ、別にえぇねんけどな。マネ経験あるし、何もせんのも気がひけるし。ポカリを冷やし、冷蔵庫にソレと濡れタオルをほおり込みコートへ向かった。
「木手君。テニス部ってマネージャーおらんの?」
試合を終え、フェンスに寄りかかってる木手君に聞いてみた。部員多いんやし、マネおった方がいいだろうに…。
「希望者は結構いるんですがね。皆、誰か目的でなりたいと言う人ばかりなので。そんな人達は必要ありません」
スッパリ言ったなぁ〜…。
「そっか〜。確かにマネの仕事がミーハーに出来る訳ないもんなぁ」
「マネージャー経験が?」
「高校の時にな!」
「だから仕事が早いんですね」
おっ?木手君に褒めてもらえてるよ!
「へへっ、お役に立ててるようで」
「えぇ。ありがとうございます」
って、にこやかに笑ったよ!木手君が!!さっき気だるそうに『必要ありません』って言った木手君が!!…木手君のファンって多分この笑顔にやられてんなぁ…。
その後も引き続きマネージャー業続行。皆のスコア取ったり、タイム計ったり。ルールは知ってるから別に難しくはないし、久しぶりにやったら楽しかった!
木手君が10分休憩と叫び、皆ベンチまで集まって来る。
「はい!タオルとポカリ」
「おおっ!サンキュー…―っかあぁぁっ!気持ちいいさー!!」
冷えたタオルを顔に被せた平古場君。
これ結構気持ちいいんだよね〜、熱された身体には!…でも、おっさんちっくだよ…なんて、心の中で笑ってみた。
「ぃやー、気が利くやっし〜」
「助かるさ…」
「晩飯も楽しみやっさー!」
甲斐君・知念君・田仁志君にも喜んで貰えたみたいやし、よかったよかった!
「…また来てるさ」
「じゅんにさ」
不知火君と新垣君にもタオルを渡そうと駆け寄ったら、校舎の影のほうを見て呟いた。
うちもそこに目を向けると、女の子が3人こっちを見ていた。
「あのこ達、ファンの子?」
「平古場のさ〜」
「へぇ、陰ながら応援ってやつ?」
「それだけなら、いいやしが…」
笑って言ったうちとは反対に嫌な顔をする2人。
…何かまずい事でもあるんかな?
「あの中の1人、やたら妄想癖なんさ」
「自分は平古場先輩の事一番知ってて彼女的存在だ!とかあびちょーらしい」
「「ストーカーみたいなやつさー」」
呆れた声で言った2人。
…確かに平古場君ならストーカーの1人や2人居ても不思議じゃないけど。
「平古場君はこの事知ってるん?」
「知ってるけど、別になにもしてこないから…」
「…平古場先輩には、何もしないさ〜」
そこまで言って黙った2人。
……何か引っかかるけど、危害が無いならいいんちゃう?って軽く考え、持っていたタオルとポカリを彼等に渡した。
***
「…よし!洗物終了。…さて、晩御飯の用意でもするか!」
校舎横の水場でタオルを洗い部室へ戻ろうとした時、後ろに人の気配を感じて振り返った。
「ぃやー、凛君の何?」
そこには、さっき見た女の子3人組。…何?って言われても…。
「マネージャー…かな?今は一応」
「マネージャー?!何でぃやーがマネージャーなんさ!」
「わったーでも、陰から見るのでやっとやんに!」
「比嘉中の生徒でもないぃやーが、何でマネージャーしてるば?!」
何やら怒っている様子の彼女達。
『平古場先輩には…』って意味が分かった気がする。
「いや、…ちょっとした縁でな――」
「縁…って、ぃやー凛君に何したば?!」
うちの話を最後まで聞かんと更に声を大きくする彼女達。
「だからな〜うちは――」
「凛君はわったーのものやっし!手ぇ出したらたっくるすんど!!」
「…わったーの…もの……?」
声を低くして、うちはその子達の言葉を聞き返した。
「そうさ!凛君にはわったーがいるさ!だから、ぃやーは近づくな!!」
「…でも所詮、あんたらがそう思ってるだけなんやろ」
「!!」
図星を言われてか、中央にいた子が持っていたペットボトルをうちの顔面に投げつけた。
「っ…たぁ……」
ペットボトルはうちの目に当たり、地面に落ちた。
「何知った様な口きいてるさー!!」
「ぃやーにわったーの凛君の何が分かるんさ!!」
「…分かるわ……平古場君自身を見てへんあんたら何かよりな!!」
「ッッ!かしまさん!!」
平手打ちをしようと振り上げた手を、うちは掴んだ。
「あんたら自分が間違ってるって何で気づかんねん。何がわったーの凛君じゃ!平古場君はあんたらの所有物でもなんでもないわ!!」
掴んだ手に一層力がこもる。
「…平古場君の気持ち考えた事あるんか?陰でこそこそ見て、自分の気持ちぶつける事も出来んガキが。こんな事でしか自分を表現できんのに、平古場君があんたら見てくれると思うんか?こんな事して、平古場君傷つくとか考えへんのか?!」
「っ……」
何か言い返そうとしたが言葉が出ないのか、3人とも押し黙っている。
「うちは、大事な仲間がそんな目にあったなんて知ったら、絶対嫌や。平古場君も仲間大事にする子やから、絶対傷つく。会って間もないうちが分かるんや。……あんたらだって分かってるはずやろ?」
3人とも首を垂れたまま何も言わないでいる。
「…周りをどうこうするんやなくて、自分が変わってみーや。平古場君の事好きなんやったら、まず、自分自身を見てもらう努力をしー」
「………」
彼女達は泣いていた。うちは、掴んでた手を放して、彼女達の頭をポンっと叩いた。
「これからは、愛情ってのはき違えたらあかんよ?」
そう言って、うちは彼女達の前から去った。
***
「った〜…目ぇ腫れてしもたな〜…」
トイレの鏡で目を冷やした。結構勢いよく当たったから、腫れるんちゃうかって思ったら、案の定やった。
当てるんやったら、空のやつにしてーやー…。まぁ、ほっといたら腫れも引いてくるやろ。…さぁ、晩飯の用意せんとな!
「…平古場君?」
トイレからでると、平古場君が壁に寄りかかって待っていた。
「どうしたん?練習は?」
「……目、腫れてるやー」
うちは慌てて腫れを押さえた。
「あぁ〜、ちょっとぶつけてしもて…」
「ゆくしあびみ。わん、…見てたさ」
あ〜…見られてたんや。
「不知火に言われて、あったーがぃやーの後追いかけるの見てつけてたんさ」
「…そっか〜」
「助けられんで…わっさんやー」
…平古場君傷ついててる。自分のファンの子がやったんやもんな。嫌やんな…そんなの。
「それと……にふぇーでーびる」
そう…笑って言ってくれた。いつもみたく太陽の様な笑顔やないけど、優しく…微笑んでくれた。…うちも少しは役にたったんかな?
「どういたしまして!…さぁ、平古場君は練習練習!」
そう言って、彼の背中をポンと叩いた。
「…凛」
「ん?」
「これからは凛でいいさ〜!名前の晩飯、楽しみにしてるばーよ!」
走りながら言ってくれた。
うちは少し頬が赤くなるのを感じた。1歩、凛君に近づけた気がして嬉しかったから。
「よーし!凛君達の為に、頑張って作るかな!」
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