メモ・検証用


死柄木弔 タイトル


なんでそう言ったのかは分からない。
ただ、テレビで見るヒーローの笑った顔とか、SNSで見る三大絶景とか、雑誌で見るぷるぷるな肌とか。そんな完璧なものはわたしには何一つなくて、遠い世界の話で、きっとこの目に移すことは叶わない。存在しているのかも分からない。でも、目の前にある水分を感じさせないぱさぱさの白い髪とか、爛れてしまっているアトピーのような肌とか、痩せこけている細い身体とか。そんな完璧ではないその姿はものすごく現実を帯びていて、やけに輝いて見えたのだ。


「…きれいね」


彼はこの世で一番美しかった。
その瞳も、心も、わたしに触れる指ですらも、完璧じゃなくて、完璧だった。わたしが手に入れられる、わたしのすべて。

「…お前、どうかしてんじゃねぇの」

馬鹿にしたように鼻で笑った彼は、わたしの首に体温を感じさせないひんやりと冷たい手を添えた。そのままニタリと口角を上げると真っ赤な瞳で射貫くように見つめられる。本当だ、彼が綺麗だと言ったのは嘘じゃない。そう思いながら両手を彼の頬に添えると、わたしたちは唇を優しく合わせた。



中学生の頃から、わたしは入退院を繰り返していた。
別に重い病気というわけじゃない。ただわたしは親や学校の先生などの大人からみると「普通」とは違うらしい。

別に何かがあったわけではない。両親は普通のサラリーマンと主婦だったし、頭のいい兄と愛嬌のある妹がいて、一軒家に住んで犬が一匹。学校もいじめなどもなく、登校すれば話し相手になってくれる子は何人かいた。

ただ、それでも「消えたい」という思いがずっと心の奥底にあった。

大人はわたしを贅沢だという。せっかく恵まれた環境に生まれてきて、何の困難もなく生きているのにも関わらず、親に貰った命を捨てようとするなんて。腕を切るたび、薬を大量に飲むたび、何度もそう説教されてきた。

本当にそうなんだろうか。わたしは本当に恵まれていて、贅沢ばかりを言っているのだろうか。親に貰ったこの命を、わたしは大事に使わなくてはならないんだろうか。何のために?誰のために?どうすればいいの?
そんな風に悩んでいた時、ある男に出会った。

「その瞳、いいね。何かを抱えている目だ」

サングラスの奥には三日月のような歪んだ瞳がわたしの顔を見つめていた。口元に煙草を咥え、ぷかぷかと煙を吐き出す。

誰でも良かった。このがんじがらめな世界とは別のところに連れて行ってくれれば。わたしの首を真綿でゆっくりと締めてくる家族や、言葉のナイフで切り刻んでくる学校の先生や、わたしのことを折に閉じ込める医者。そんなわたしの手足を掴んで引きずってくるあの人たちから、とにかく遠くへ逃げたかった。

「いい人を紹介しよう、きっと彼も君を気に入るよ」
「…よろしく、義欄」




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