黒尾 夢
「黒尾ってさ、モテるよな?」
ある晴れた日のこと。教室でムダ話をしながら友達と机をくっつけ合って弁当をかき込むように食べていると、その輪の中のとある奴がそう言った。俺はそいつの言っている言葉の意味が理解できず、口いっぱいに白米を頬張りながら首を傾げ、もくもくと咀嚼を繰り返した。モテるか、モテないか、どちらかで言うとモテない方だと自分では思っている。今までに付き合った女の子がいないわけではないし、告白をされたこともある。とはいえ、人並みに経験をしてきたといった程度で、自慢できるような話があるわけではない。寝癖のまま登校しているし、制服だって着られていれば問題ないと思っている俺は、あまり見た目に気を使ったこともなければ、よく見られようという気持ちがあまりないのだ。そんな男に恋心を抱いてくれる女子なんて中々いない。ましてや、「芋集団」「チンピラ集団」と呼ばれるバレーボール部所属なのだから、色恋ごととは程遠い場所にいる。「モテねーよ、嫌味か?」とソイツに睨みを利かせながら答えると「いや違ぇんだって」と帰ってくる。
「去年の俺のクラスで黒尾のこと好きって女子がいて…」
「は?なにソレ詳しく」
「おぉ…食い気味だな…」
意外なことに「好意を向けられている事実がある」ということを他者から又聞きし、ちゃっかりと気分は高まっている。そりゃそうだ、異性が気になる年頃に、自分に好意を向けてくれている希少な女子がいるというのだから、どうしたって意識はそっちに持っていかれるだろう。続きを放そうとしている言葉を遮ってまで「kwsk」と詳細を求めると、若干引き気味になりながらもそいつは面白そうに笑って続けた。
「アイツわかる?#name1##name2#」
ソイツが指を差した方向には、教室の反対側に俺らと同じように机を向かい合わせでくっつけ、数人で話に花を咲かせながら弁当を食べている女子数人が居た。その中には男子の間でも「かわいい」と話題の#name1##name2#がふわふわと笑って座っている。1,2年と今まで同じクラスになったことは今まで無いながらも、「モテる」と話題の彼女の話は俺の耳にも入って来ていた。素直に「おー、知ってる」と答えると、ソイツはなるべく小さめの声でこう言った。
「アイツが好きなのが黒尾だって、去年は話題だったぞ」
まさに衝撃的な事実を聞き、俺はガタンッ!と立ち上がる。あまりに大きな音がしたからか、教室中から視線が降り注ぐ。「なに?」「変なヤツ」と冷たい視線も浴び少し冷静になったところで、目が合っていることに気が付いた。零れ落ちそうな大きな瞳が不思議そうに丸まり、少しだけ紅潮した頬がふわりと緩んだ。
ー#name1##name2#が、俺に、微笑んだ、?
「まじまじまじ?え……まじ?」
「#name1#だけじゃねぇよ、意外と裏でモテてるんだってお前」
「裏じゃ困る、ちゃんとモテたい」
「それは知らん自分でどうにかしろ」
心をざわつかせることを言うだけ言って、あとは頑張れよと投げやりになるソイツ。しかし睨むどころか俺の頬は緩むばかり。流石に恋愛に重点を置いている訳じゃないけれど、「モテている」と聞けば嬉しくなってしまうのが男心というもの。密かに思いを寄せられているというのは、間違いなく嬉しいことである。大々的にではなく「密かに」というところが微妙なところではあるが。
とはいえ、あの#name1##name2#が。
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