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「術式を行使することを禁ずる。物理的、また呪術的な手法を用いて人間を傷つけることを禁ずる。人間以外の動物、物体を損壊することを禁ずる。人間を殺すこと、人間を生みだすことを禁ずる。他の人間・呪霊を扇動し、社会に騒乱を招くことを禁ずる。日本国―天元の結界内を離れること。一つの国に三年以上滞在しないこと。常に監視下に身を置くこと。尚、両面宿儺の監視者は虎杖悠仁とする」
 五条悟が、長い巻物を片手に指を一つ一つ折りながら読みあげる。
「僕が言うのもなんだけどさ、こんな縛りで受肉して楽しい?」
「楽しい」
両面宿儺の声が響く。

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 お風呂にはサービスで花がついてくる。畑で栽培された採れたての、いい匂いのする花やハーブが毎日。それを湯船に浮かべると、うっとりするようないい香りがする。宿儺は本当にこの季節の湿気でべとべとした空気や汗をかくことが嫌いなようで、日に何度もシャワーを浴びる。しかも長風呂だ。だからいつも、宿儺からはかすかな花の匂いがする。宿儺も本を読む。風呂上がりに、他に誰もいなければソファに寝そべって。あるいはテラスで。虎杖のような分厚いハードカバーじゃなくて、ごく一般的な文庫本を一冊、同じ一冊を繰り返し読み返している。表紙をこっそり見たところ、内容はルポルタージュのようだ。
 私たちはこうやって好きな時間に起きたり寝たり風呂に入ったり、だらけた日々を過ごしている。少し市街地を見て回ったりしたけれど、それ以外はずっとこの森のコテージにいる。
「次はローイクラトンの時に来よう」
 ある時、虎杖にそう提案してみた。
「ローイクラトンって灯籠流しのやつ?」
「そう。チェンマイのはすごいよ。熱気球みたいな……蝋燭の熱で空に上がっていく灯籠を用意してね、いっせいに放つの。夜空が一面、明かりでいっぱいになって、現実じゃないみたいな景色になって」
「いいな、見てみたい。また見に来よう。いつやるの?」
「冬の初めのほう」
「灯籠流しって、日本だとお盆だよな。あれって死んだ人のためにやるけど、ここでもそうなのかな?」
「うーん……知らないや。でもすごく綺麗だよ」

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