雨季が始まった。空気はどんどん蒸し暑くなる。晴れているかと思ったら突然土砂降りのスコールが降り注ぎ、すぐに晴れあがる。
 今日、私はわずかな晴れ間を狙って買い物に出かけたが、帰り道であえなくスコールに遭ってしまった。スコールが始まれば傘など役に立たない。慌てて近くの商店の軒下に逃げこんだ。他にも何人か雨宿りの人々が身を寄せあっている。息を吸うのが苦しいほどの湿気だ。ハンカチを取りだして肩の水を吸わせる。荷物を持ったまま体を拭くのに苦労していると、横から「奇遇じゃん」と声をかけられた。
「すごい雨だねえ」
 虎杖はTシャツの裾を胸の下までまくり上げてぎゅっと絞った。水しぶきが足元に落ちる。隣にいた宿儺は、頭から足の先までずぶ濡れで水を滴らせていた。ものすごく怒った顔をしている。一応絞ったハンカチを差しだして、髪の雫を拭いてあげようとしたが鬱陶しそうに手を払われる。
「この国のこの季節だけは我慢がならん。雨は降る道は泥濘む虫は湧く」
「こいつ、岐阜の山奥の寒いとこ出身でさ。だから蒸し暑いの弱いの。夏はいーっつもこんな顔で」
「弱くなどない、大嫌いなだけだ」
虎杖は少し意地悪そうな顔をした。
「俺は仙台生まれだけどあったかいのは好き。あったかいのが好きだけど雪も全然平気」
「強がるな、お前も毎年暑いだの疲れただの食欲がないだの煩く騒いでいるではないか」
「まあまあ、みんな大変だよね」
と言って、ひとつ疑問が浮かぶ。
「あれ?宿儺が岐阜で、虎杖が仙台生まれ?二人って双子だよね?」
 虎杖は、あっ、という顔をした。
「うんそう、双子ダヨー」
「その嘘って、いまさら意味ある?」
「意地悪言わないでよ〜〜」
 なんとなく、双子じゃないって方が本当なんだろうと思った。じゃあ顔や背丈まで瓜二つなのはどういうことなんだろうと思ったが、訊かないことにした。
 先ほどまでの雨が嘘のように突然空が晴れあがった。話はそこで終わりになって、私たちは分かれた。





骨の山を登らなければいけない。大きな生き物の骨が、うずたかく積まれている。この骨の山を登りきらなければならない。夢の中特有の、強迫観念で思う。骨は滑りやすくて、足をかけると崩れていく。
「鉱物のなかで眠り、植物のなかで目覚め、動物の中で歩いたものが、人間のなかでなにをしたか分かるか?」
骨の山の上から声がする。問いかけられる。その答えを知らない。しらない、と声をだすこともできない。大きな生き物の頭蓋骨だ。角を掴んで、立ちあがる。足に力が入らない。
「望むものがあるだろう」
空は暗い。ここはどこなのだろう? これは誰の夢なのだろう?
「俺がお前の死だ」
 骨の山はいつの間にか瓦礫に変わっていた。崩れたコンクリート。割れたガラスと歪んだ鉄骨。
「ここまで登ってこい」
瓦礫を掴んで登っていく。這うようにして。
「お会いしとうございました」
王よ。

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