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ここしばらく事務処理が追いつかない日が続き残業気味に働いてたせいか、源田先生から早く帰りなさいと言われた日だった。
新谷先生が例の事件の裁判で、八神さんと共に無罪を勝ち取ってから、源田法律事務所は依頼の連絡がひっきりなしだった。

あと2時間くらいはやっておきたかったが、所長命令だ。と眉間に皺を寄せて怒られてしまった。
家に持って帰るのもダメだぞ。と、釘まで刺されてしまったため諦めて帰路についていた。

中道通りから第三公園を横切り天下一通りに抜けていこうと歩いていたら何処からか、待ちなさい!止まりなさい!ガシャンッ!などの騒がしい声と何かが倒れる音が聞こえた。

「…ん?」

片方の耳に入れていたイヤフォンを外し、ソレがどこから聞こえるのかと耳を澄ましていると。


「待てよ!」

「…ぅわっ!」

「キャァッ!」

「わりぃ!!!」

ガシャーン!


突如裏路地から人が飛び出してきた。
立ち止まっていたせいか、立ち止まらなかったせいか。
その人たちはぶつかりそうになりながらもなんとか他の通行人や私を避けていった。
最初の人はほとんど見えなかったけど今走って行った人はライダースジャケットを着た男の人だった。


「!………いまの八神さん、かな?」



少し遅れて、警察官2人が先にすり抜けていった2人を追うように路地から出てきた。
2人を見失ったようで、驚いて倒れてしまった女性に声をかけている。

「男たちを見ませんでしたか?」

「驚いてこけてしまったので全然見てませんでした」

「そうですか…あなたは?」

「…私も、見ませんでした」

「大丈夫です。お怪我はありませんか?」

「あ、はい」


警察官はしばらく周りに声をかけたりしていたが、辺りに追っていた人物らしい目撃証言もないことから帰っていってしまった。

「…」

本当は何処に行ったのかを見ていた私は、迷わず天下一通りのビルに向かおうと足を踏み出した瞬間。

「キャア!」

「あぶねえ!」

「うわあっ!!」

目の前のビルの一つ隣のビル上から鉄板が落ちてきた。
誰にも当たらなかったようだったけれど、一歩間違えれば怪我ではすまなかっただろう。
騒ぎになってさっきの警察が戻ってくるかもしれない。
急いだ方がいいかも、と悩んでいると明るい茶髪でパーカーを着た人がすっと私の横を通り過ぎていった。
その人は鉄板が落ちてきたビルの向かい側にある路地から出てきた。


(…この人…)

何故かこちらを見ていたその人と目が合ったけれど、すぐに向こうから目線を外された。
パーカーのフードを深くかぶり、軽い足取りですぐに消えていってしまった。
一瞬しか合わなかったのに、切れ長のタレ目と明るい茶髪が印象に残る。

しかしそれよりも先に八神さんだ。
さっきの人が出てきた路地にビルの屋上まで続く梯子があるのを発見する。
ローヒールの音が路地にとても響いていた。


屋上の大きな業務用室外機の隙間から人の足のようなものが見え、近寄ってみるとやはり。
予想していた人物が鉄柵に背を預けて座っている

「…やっぱり八神さんだ」

「はぁ…はぁ………あれ、なまえ…?」

「びっくりした。いきなり飛び出してきたから」

「はぁ、……そうか、さっきのなまえだったのか。ごめんな、怪我してないか?」

「大丈夫です。誰を追っていたんですか?」

「…窃盗団、かな」

窃盗団。
さいきん騒がれているあれか。
ということはさっきの綺麗な顔の人がそうだったのかな。それとも、偶然?

「…へぇ」

「めちゃくちゃ走らされたよ」

「……お茶なら持ってますけど、飲みます?」

「ありがと」

カバンから少し口をつけちゃってますけど。と取り出し渡したお茶を迷いなく飲み干す姿を見る。

さっきの人が、本当にそうなのかはわからない。
でもまるで雷雲が遠くにいるのが見えるみたいな胸騒ぎが私の中に残った。