2



最近になって八神探偵事務所はにわかに忙しくなった。
もちろん源田法律事務所も同じくだ。
理由は一つ。



それの始まりは夏頃だった。
路地裏で発見された遺体、この街ではよく見るヤクザのような身なりのそれは眼球がない状態で発見された。

そのあと立て続けにもう1人、同じような状態のヤクザが発見される。

物騒な街といえどこういった凄惨な事件は多くはない。
警察の発表はヤクザ同士の抗争であるとニュースで流れていたが、この街にいる以上こういった話や事件は実際に目にすることもよくある。
だからいつもよりも街を歩くのに気を遣っていた。
万が一にも標的になんてなりたくない。
ヤクザらしい人を見たら避けなければならない。

だけど3人目の死体が出たというニュースを見た時とても嫌な予感がした。


「え、うちに依頼がきたんですか?」

「はい。新谷先生指名で。といっても八神さんも呼ばれたようですけど」

「そうなんですね………。
では離婚裁判の件は私が行ってきます」

「え"っ!?なまえさんが行くんですか!?ら…ラブホとかですよ!?」

「…星野先生、こどもじゃないんですよ。これは仕事なんですから当然のことです。」

「……そうですよね、すみません…」

「…なまえ、変なやつもいるから十分気をつけるんだぞ」

「大丈夫です。ラブホ側にも協力取り付けておきましたので。」

「…相変わらず有能だな。
……羽村の件もある。ヤクザには特に気をつけなさい」

「…はい」





源田法律事務所でも久しぶりの刑事事件。
私は嫌な予感しかしない、この妙な感覚を振り解くように仕事に没頭することにした。

これは八神に回してやろうか、と源田先生が弾いていた案件の一つは結局手元に残ってしまった。
裁判の証拠集めはとても地味だし、時間もかかるし大変だけど、弁護士でもなんでも無い私にできることはなんでもやりたいのだ。
率先してそういった仕事に取り掛かることに、先生方はあまり良い顔をしない。もう十分なくらいに助かっているから、と。
でもわたしは先生方が気持ちよく弁護できるように、不足ない仕事をしたいのだ。









あれから数日、浮気調査の件で朝から自宅の張り込みとラブホ内での監視など、証拠を掴むまでなにもできないため一度も事務所に顔を出せないままでいた。
今日も収穫なしかも、と思っていたがなんと夕方に動きがあった。
仕事が終わった後、肩を抱いてラブホテルに入って行った姿を写真に納められた。
決定的証拠。ありがたい。

(これで今日は帰れる!)

源田先生に報告がてら事務所に向かうことにしよう。
ここのところずっと、一日中歩きっぱなしの立ちっぱなしだった。
先生方への報告書提出や、依頼人へのヒアリング等、まだこの仕事は終わっていない。
でもひとまず、今日の分は終わったし帰ったらあったかいお風呂に浸かりたいな、なんて呑気に考えていた。


「戻りまし…た」


「お、なまえちゃん」

「よ。」

「お疲れ様です。海藤さん、八神さん」

「おう」



事務所に上がるためのエレベーターをおりるとドアを挟んで低い声が響いていた。
男性の来客かな。
なんて、思っていたがそれは八神探偵事務所のおふたりだった。
応接テーブルを挟んで新谷先生と話している様子。
あぁ、あの事件の。

合点がいったところで軽く挨拶だけ済ませて源田先生のデスクに向かう。

「おかえりなさい、みょうじさん」

「おかえりなさい、なまえ」

「ただいまです」

同時に挨拶する星野先生とさおりさんになんだか癒されてしまった。


「お疲れ、大丈夫だったか」

「はい、写真のデータがこちらです。
あといくつか他の証拠もとれて…あ、報告書は明日でも大丈夫ですか?」

「急がなくたって大丈夫だ。依頼人もこんなに早く証拠が取れると思ってねえさ。
ほら、今日は疲れたろ?早く帰って休みなさい」

「はい、では。お言葉に甘えて。お先に失礼します。」

「「お疲れ様です」」

「おつかれ」


源田先生、さおりさん、星野先生、新谷先生の声を背に、エレベーターホールに出る。
源田先生と話しているうちに八神さんたちは帰っていたようだった。


「ふぅ」

エレベーターを降りつつ今日の締めくくりのため息が出る。
よし、帰ったらお風呂。そしてごはんだ。


「お疲れさん、なまえちゃん」

「あれ、海藤さん。帰ったと思ってた」

「あー……ちょっと時間空いちまってさ。
なまえちゃんも帰りみたいだったから送ってこうかと思ってよ。」

「ふふ、ありがとうございます」

「…な、なんだよ」


時折こうした歳上らしくない照れた表情をする海藤さんに可愛げを感じてしまう。
大きなくまさんがいるみたいに。
絶対口に出さないけど。