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八神さんからの電話を半ば無理矢理切ってしまった手前、この後店の前で出会いでもしたら少し気まずい。

(急いで出るか…ここ裏口あったっけ。)

「大丈夫?みょうじさん」

「…なんとか」

依頼人のキャバ嬢、京香さんの声に返答する。
持っていたスマホをテーブルに置いて、彼女の私物であるカバンやネックレスを返却する。
着替えるためのカーテンを閉めた。

「でも今日はほんと助かった。あそこまでキレてたのにみょうじさんの一声でピタッと止まってさぁ」

「はい…まぁ。でも今後のことは私は無理ですから。色恋営業をやめてくださいね。刺されたなんてニュース聞きたくないです」

「…うん。ほんと、肝に銘じるよ。ありがとう」


そう、何を隠そうさっきまであの客の相手をしていたのは私だった。
今日京香さんの出勤前に会って話し合う過程で、私が代役を勤めつつどうにか沈静化させ、うまく付き合っていけるように取り計らっていくという作戦。
結構乱暴な作戦だったけど、どうにか功を奏して客は上機嫌に帰ってくれた。
でももうキャバ嬢のフリなんてしたくない。疲れる。


「あっねえ、一緒にキャバやろうよ!みょうじさんだったらナンバーワンとれてもおかしくないって!」
「無理です。イヤです。顔の筋肉が引き攣ってるくらい今日は無理をしました。もう絶対に御免です。」

「めちゃくちゃ断るの早いじゃん。ウケる。
でもさー顔も綺麗だし正直事務員なんて儲からないでしょ。ウチだったら倍以上稼げるよ?」

「……いえ。この仕事がいいです。」

「…ふふ、だよね。
今日は本当ありがとう!たぶんこの後店長にもアタシと同じこと言われるかもだけど。
次はいっしょに遊ぼうよ!ね?」

「大丈夫です。断ります。
いいですよ。ヒマなときの方が多いので」



その後少し談笑したものの、指名が入ったか何かで京香さんは店内に戻って行った。
裏口はあるらしいので、案内してもらいなんとか出られた。


(……いない、よね)

店の裏を抜けると千両通りに出られた。あちこちで光る電光看板のせいで少しクラクラする。
この通りもけっこうピンクなお店が多いし早めに抜けちゃおう。
念の為辺りを確認してから通りに出たけど、八神さんらしき人はいなさそうだ。
さっきのキャバ嬢もどきの姿を遠目でも見られていたことが恥ずかしい。八神さんは気づいてなかったけど。バレたら源田先生に怒られるかもしれないし。








「あ〜〜!いたァ〜!!!」

「うわ…」

何事もなく今日は帰れると思った私がバカだった。八神さんとカチ合わないように千両通りから七福通りを抜けて劇場前、天下一通りと遠回りしながら帰ろうとしていたところだった。
高い声と走ってくる音、おもむろに抱きつく腕に、心の底からため息が出る。
最近この街によくいる少女に付き纏われているのだ、わたしは。



「ねえなんで逃げるの?ずっと待ってたのに。ひめ泣くよ」

「あーーーー………明日も仕事なのでごめんね」

「ダメ!ひめと付き合って!!」

「う…でっけぇ声出さないでもらえます?」

「い!や!」


ひめ、と名乗る彼女はこの街ではよく見る女の子だ。ホストにハマってこの街にいるのか、ただ単に遊ぶ場所を求めてなのか。
20歳と言ってはいるが若く幼いように見える彼女に出会ったのは一週間ほど前だった。

仕事が終わって帰宅途中の道で、どうみても酔っ払ってフラフラしている彼女を3人組の男が腕を掴んでどこかへ連れて行こうとしているのがわかった。
見て見ぬふりも寝覚めが悪いし、罪悪感みたいなものを感じてそれらを引き留めた。
もちろん男たちの抵抗はあったものの、ちょっと頭掴んで壁にどんってやったらおとなしくなった。というか逃げた。
仕事が重なり過ぎてイライラしてたせいもある。
あとは警察呼んで保護の依頼して帰った。それだけ。ちょっと警察にやりすぎって怒られたけど。


その次の日から同じところで張られてたのだ。
ルートを変えても、街にいるところを発見されればずっとついてきて話しかけられる。
仕事の休憩中でも見つけられたら腕を絡めて逃げられないようにして話しかけてくる、食事にも平気で同席する、エトセトラ。
事務所の場所はバレていそうだったけど、流石に着いては来ないのが救いだった。