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「なんで!ひめと一緒にいて!」
「家帰れ」
「いーーや!!!」
「うるさ」
「ねえ!仕事終わったんでしょ?遊ぼ?あ!いっしょにホスクラいく?今日担当がねぇ」
「…ハァ、ちょっと離して」
「ヤダ!てかお姉さんって彼氏とかいないの?いないならひめと付き合わない?ひめ女の子もイケるよ?」
「私はいけないのでいらん」
「キャハハ!ウケる!」
手や服を引っ張られ、これじゃあ目立つのも無理はない。
ただでさえ若く見える彼女。声は大きいし話は噛み合わないし、勝手に腕は絡めてくるし。無理やり離そうとすると泣き喚いたりするものだから、私が悪者に見えるんだろう。
ジロジロと見てくる通行人には不躾で不快そうな目を向けられる。
(違うんですよ…私は犯罪的なことは何もしてない…)
心の中で反論しつつもどうやって切り抜ければいいのかわからない。
嗜好がどうであれ私は彼女を好きでもないし、彼女も別に私を本気で好きなわけでもない。
ただの暇つぶしかもしれないし、良く言えば庇護してもらえると思っているんだろう。この街はそういう若い子もたくさんいるから。
「おー、なまえ」
「あ、八神さん」
「どうしたの、絡まれてるね。」
「なにコイツ、キモ。あっちいこ」
「うわぁ辛辣。最近の子こわいね」
「ウザッ!キモいんだけど!こいつ何」
「あーーー…、丁度いいや。八神さん頼んだ」
「は?!」
「!?待ってよ!なんで?!?」
第三の人物の登場で更にカオスな空間になってきた。
この状況でひょっこり現れたもんだから八神さんに悪態をついている。
ニコニコ笑ってたと思ったら突然キレたり、若い子の感情変化についていけない。
耳はキンキンして痛いし、もう面倒臭いし丸投げしたれ。
「八神さんその子警察に届けてあげてくださいね!じゃ!」
「ハァ!?」
「おい!なまえ!待てよ!」
「人の跡なんて尾けるからですよ!バァカ!」
「!!…アイツ、バレてたのか」
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あの後キャバクラに戻ったがやはりなまえの姿を確認することはできなかった。
一体どこで見ていたのか、近くの路地や屋上にも目を向けてみたがいそうにない。形跡すら。
念の為依頼人である京香というキャバ嬢に聞いても含み笑いをされ、また何かあったときは連絡するとだけ言われた。
やはり夜の女性は手強い。なにも探らせてもらえない。
いないものは仕方ないが、なんだか煙に巻かれたようで癪だ。
念の為ぐるっと回ってみるか、と歩き出して少し。七福通りのコンビニから出てくるなまえを発見した。
そのあと帰るのかと思えばこの辺りの知り合いの店らしいところに顔を出しているようだった。
あいつもこの街に慣れたもんだ、なんて。
事務員の割にはカジュアルな髪色が目立って横を通り過ぎる男女が彼女に視線を奪われている。
(相変わらずだな)
少し遠目から確認しつつ、まっすぐ劇場前に入って行った背をゆっくり追いかける。警戒してる様子はない。当たり前だ、尾行されていると思うわけもないし。
と、劇場前に差し掛かってすぐの通りから走ってくる音に思わず足を引く。
交差点の角で壁を背中にしながらゆっくり確認すると若い女の子がなまえの服の袖を掴んで泣いている。
思わず小さい声が漏れた。あいついつのまにあんな若い子に…なんて。
しばらくその女の子の話を盗み聞いてみても支離滅裂で何を言っているのかわからない。
なまえが言っていた面倒な人とはきっとあの子のことだ。
これで合点がいったな。
なまえは街を歩いているだけで、目を惹かれるくらいには美人だ。
確かに話せば愛想は無いし、口調は冷たい。
しつこい男に話しかけられて、「うるせえな」と返していたくらいには冷ややかだ。
それになまえはガードも硬い。
話しかけるなオーラも出すし、それを掻い潜って話しかけてきた相手には冷ややかな塩対応。当然無視だってする。なんだったらまるで汚いものを見る目で睨まれる。
無理矢理すべてを通り越してどこかに連れて行こうとする相手には手を出すこともしばしば。
そんなガードが硬くて無愛想ななまえには、どうしても邪険にできない相手がいる。
"女性"だ。
そのあと声をかけてみればあっという間に走って逃げられてしまった。邪険にできないからって押し付けやがって。
くそ、どうすんだよ。
「離してオッサン!きもい!」
「いや、オッサンじゃないから。お兄さんな」
無理やり押し付けられた少女は、警察に引き渡すことに成功したものの在らん限りの罵詈雑言を投げつけられ、通行人には白い目で見られた。
少女はこの辺りでは有名なようで、警察は同情的な顔をしてくれた。新しい当たり屋みたいなもんだなこりゃ。
くそ、なまえのやつ。俺のライフゲージちょっと削られたぞ。
おっさんって言われたし。あーまだ若いつもりだったのに。